灰色の雅春を見てから、彼と付き合い始めるのに時間はかからなかった。
雅春と私が、お互いに同じスピードで距離を詰めていくのが手に取るようにわかった。
こんな感覚は初めてだった。
両親が離婚しており、体を悪くしている父親が作った借金の肩代わりをし、さらに父親の
入院費用をかけもちバイトで工面しているという雅春。
そんな優しく、何があってもくじけない彼をとても尊敬していた。
また、そんな人が自分を選んでくれたことも嬉しかった。

年が明けて春が訪れ、私は社会人になった。
運の悪いことに、少なくとも1年は東京勤務になることが決定し、交際3カ月でまさかの
遠距離恋愛がスタートした。
雅春は大学を休学し、平日はバイト、週末は別の大学院の社会人コースを受けるという。
月曜から日曜まで予定はいっぱいだという雅春に会うため、私は月に一度は地元に戻った。
元来寂しがり屋の私は、なかなか会えないことがたまらなくなり、東京で始めた一人暮らしの
ストレスも重なり、電話で別れ話をしたこともあった。
だが、それはすぐに後悔へと変わり、その週末には泣きながら雅春のもとへと急いでいた。

そんな長いようで短かった東京での生活は、たった1年で幕を閉じた。
転勤で地元に戻ることになったのだ。
だが、その間雅春が東京に私に会いに来てくれたことはついになかった。




あの時に別れていれば。私が強くなっていれば。
こんな辛い思いはしなくてすんだのに。
今となっては、どこまでが本当で、どこからが嘘だったのか。
真実は闇の中に葬られた。