仮想ひなまつり | タカンナオトシゴロ

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アマチュア劇団シーブの湯飲み茶碗「キアサマトモイ」がお送りする、私的詩的妄想マテリアルワールド!!

「ただいまー。」

「あっ、のぶちゃん、おかえりっ。」

のぶ「あら、ただいまぁ!
   あーん、ちえちゃん!ひさしぶりやわーっ!どう?どう?元気してたぁ?」

ちえ「うーん、元気してたでぇ!1年ぶりやなぁ。」

のぶ「そぉやぁ。ウチらぁなかなか会われへんもんなぁ。」

ちえ「そやなぁ。でもウチらが小っちゃい時に約束した事だけは忘れてへんで。
   大きいなっても3月3日、このひなまつりの日ぃだけはウチらぁの記念日や。
   ウチらぁこの日ぃだけは絶対何があっても会おなぁ、って保育園の時
   チンチラ組の教室で約束した事、忘れもせえへんで!」

のぶ「もぉっ、ちえちゃん、毎年会うたびにおんなじ事言うてるやんかぁ(笑)。
   ・・そおやぁ!ウチらだけの記念日やで。ウチかて忘れた事あらへーん。」

2人「なーーーーっ!」


・・・・・・・・・・


ちえ「せやけど、ウチらぁも、もう25やなぁ。」

のぶ「もーう、ちえちゃん、歳の事は言わんといてぇな。」

ちえ「せやけど25やで(微笑)。」

のぶ「そやなー。小っちゃい頃は25歳ゆうたら、えっらい大人やって思っとったけど
   実際自分らぁがなったらなぁ・・悲しいかな、まだまだ子供やわぁ。」

ちえ「そらぁなぁ、客観的に見るんと主体的に感じるんは違うでなぁ。
   『1人の人間に対して、過去の自分、今の自分、そして第3者から見た3つの世界が存在し
   その世界を結びつけるものこそがパラドックスなのである。』」

のぶ「なにぃ。小難しい事言うなぁ。それ誰かのセリフ?」

ちえ「いやぁ。まっさんの思いつき。」

のぶ「誰、それ。未来の自分はどうなんの?」

ちえ「未来は今、って、何かで無かったっけ?」

のぶ「ふふふーん。」

ちえ「まあまあ。せやけどウチらぁもそれぞれ何ていうの。
  (甘えた感じで)ぉおとぉなぁにぃなったやぁん(笑)。」

のぶ「なにー、そのやらしい言い方ぁ。もぉー相変わらずやなぁ、ちえちゃん。」

ちえ「うふふふふ。」

のぶ「うふふて、何かええ事あっつたん?」

ちえ「うふふふふふ。」

のぶ「もぉっ。やらしいで、ちえちゃん(ぷい)。」

ちえ「えへへへ。あんなぁー。」

のぶ「うん?」

ちえ「かーれーしーでーきーたー。」

のぶ「えっ?ほんま!」

ちえ「ほーんーまー。」

のぶ「ほんまにほんま?」

ちえ「ほぉーんーまぁーにぃーほぉーんーまぁー。」

のぶ「えーーーーーーっ!おめでとう!よかったやーーん!」

ちえ「あーりーがーとぉーーーーっ!」

のぶ「で、で、どんな人なん?」

ちえ「へへっ。写真あるんやけど見る?」

のぶ「見る見る。見せてっ。」

ちえ「うん。でもこのままじゃ見にくいから、そろそろ取らへん?」

のぶ「へっ?」

ちえ「忘れたの?この さ・ん・そ・ま・す・く」

のぶ「あー、あー、あー。」

ちえ「このレンタルシェルタールームもそろそろ酸素が充満してくる頃やわ。
   有酸素ゲージもグリーンライトになったし、
   そろそろ酸素マスクを外しても大丈夫ちゃう?」

のぶ「そやね。そろそろはずそか?
   全く、こんな高価なレンタルシェルターでも借りやんと
   マスクを外して生活する事なんてないからねぇ。
   もう、ほとんどマスクと顔が一体化してるもんなぁ。まさに生活必需品。」

ちえ「そうよぅ。あの核戦争以来、まさに生活必需品。」

2人「ふふふっ(楽)。」



のぶ「ってか、やばっ!ウチ、お化粧してないわぁ!」

ちえ「ふふふっ。ウーチーもーよ。」

のぶ「なんやあっ!ふふっ。」

ちえ「ウチらぁ幼馴染の親友同士やんっ、いまさら何にも気取る事あらへんよ。」

のぶ「そやねぇ!」

2人「ふふふふふ。」



のぶ「で、で、写真は?」

ちえ「へへっ。この人っ。」

のぶ「へーーーーーーっ!男前やないのぉ!
   この人口が激減しているご時勢に、よー見つけたなぁーーー!」

ちえ「へへへへっ。」

のぶ「で、で、この人、今何してはるの?」

ちえ「うん、それがぁ。」

のぶ「うん、うん、どうしたん?」

ちえ「・・ヤマト乗ってる。」

のぶ「へっ?」

ちえ「ヤマトに乗ってる。」

のぶ「ヤマト・・って、あのヤマト?」

ちえ「うん、ヤマト。」

のぶ「あの、デスラーとかいう青いのんやっつけて
   イスカンダルとかいう星に行くゆうとった、アレ?」

ちえ「・・うん。
   せやから、もう半年以上、彼氏に会うてへん・・・。」

のぶ「・・・そうかぁ。でもすごいやん!あんな大きな船に乗って!自慢してええんちゃう?
   ・・・けど、毎日すごい戦いやゆうで。彼氏、無事なん?」

ちえ「・・うううん。分からへんねん。・・・分からへん。
   でも、今朝のニュースでヤマトはイスカンダルには着いた、って言うとった。
   せやからっ、生きて帰って来てくれるかは分からへんけど・・
   ・・・このお腹の子と一緒にあの人が帰って来るんを待とうと思うねん。」

のぶ「はっ?!えーーーーーーーっ!子供って?!妊娠してんのんっ?!
   はぁーーーーーーーっ。一粒で2度びっくりやわぁ!」

ちえ「なあなあ、のぶちゃん。こんなウチってアホやと思う?」

のぶ「はっ?何言うてんの。アホな事あるかいなぁ!ウチは素敵やと思うで!うん。」

ちえ「ありがとお、のぶちゃん。のぶちゃんやったら分かってくれると思とったわ。ありがとお。」

のぶ「うううん、何言うてんのん、ちえちゃん、ウチら親友やないの。みずくさいなぁ。」


・・・・・・・・・・


のぶ「なあ、ちえちゃん。彼氏さん、生きて帰ってきたらええなぁ。」

ちえ「・・うん。ヤマトが帰ってきたら放射能も無くなるしなぁ。」

のぶ「そやなぁ。そしたらもう酸素マスクも着けんで済むなぁ。」

ちえ「・・・この子が生まれる頃にはそうなって欲しいわぁ。」

のぶ「・・来年にはお化粧して会えるかもしれんねぇ。」

ちえ「・・うん。」

のぶ「・・また来年も2人で・・・って!来年は3人、いやいや4人かもしれへんやん!」

ちえ「ふふふ。」

のぶ「やばい!やばい!ウチも急がんと!」

ちえ「うふふふ。」



のぶ「・・・でもなあ、ちえちゃん。3人、4人と言わずになぁ、
   これから放射能の無くなった世界で、もっともっとたくさんの人たちと
   こんな喜びを分かち合える、
   ひなまつりだけやなくって色んなお祝い事をみんなで祝える、
   そんな素敵な世界になったら・・ええのに、なぁ。
   そう思わん?ちえちゃん。」

ちえ「・・うん、そやなぁ。
   ・・・うーん、今年もええひなまつりやったわぁ。ありがとお、のぶちゃん。」

のぶ「いぃえぇ、こちらこそ、ありがとお、ちえちゃん。
   ・・来年も会おね。」

ちえ「うん!」