飲食店の繁盛風景は、都会の歓楽街だけに見られるものではありません。閑散とした田舎町にも存在します。しかも、この寂しい街(失礼)のどこからこれほどの人間が集まってくるのかと思わせるような感じで、にぎわっている店があるものです。
私は高崎線の熊谷駅のさらに上の町に用事があり、真っ暗になったところで帰路につきました。ここは歴史のある町なのですが、熊谷、高崎という大きな町に挟まれて、駅前には高いビルがありません。オフィスビルで仕事をしている灯りもないために余計に真っ暗です。
間もなく駅に着く線路沿いの暗がりに大きな電灯のような灯りが見えて、そこから高笑いを含めた楽しそうな人たちのざわめきが聞こえてきました。
そこにたどり着くと大衆的な居酒屋でした。30坪くらいで、例えてみると教室のような広さです。教室を連想したのは、この店内のざわめきは、中学高校時代に授業開始の時刻から10分、15分と過ぎても先生がやってこない時のようにうるさいからです。
中高年グループがにぎやかになる理由
その日は土曜日でした。満席の店内はグループ客だらけ。体育のジャージを着た中学生の子供がいるファミリーや、地元の大学生風の男女6人組、一番激しくにぎやかなのはアラカン男女10人くらいのグループでした。彼らは中高年ですがお互いを呼ぶときに下の名前で呼んでいます。地元の中学校の同級生の趣です。
この居酒屋は高炭酸の角ハイボールをアピールしています。これはジョッキ1杯が270円ですが、これを注文すると従業員とジャンケンすることになり、勝てば通常540円のジャンボサイズにしてくれます。
そして、ドリンクメニューの一番上に「地元中学ハイボール370円」というものがありました。ざっと商品名を言うと「南中ハイボール」「上中ハイボール」「藤中ハイボール」など10種類。これがまさしく地元中学の呼び方なのでしょう。
では、このハイボールは何が違うのか。それはハイボールに味付けするシロップです。学校別に柚子、洋なし、巨峰となっています。なぜ、「〇〇中学校の味付けが柚子なのか?」――私は従業員に質問しましたが分からないという。店の人たちが、その学校をイメージするものとしてシロップの種類を当てはめたのでしょう。こんな程度ですが、この店にやってきてこの商品名を見ると地元意識は高まります。
そして、店内の要所要所に張り出しているポスター「手羽先バースデー」の内容が圧巻です。これはお客さまのお誕生月に手羽先を歳の数だけプレゼントする(つまり無料)というものなのです。ただ、条件として予約が必要で、食べ残しや持ち帰りをしてはいけない、と書かれています。
ここで合点がいきました。アラカン10人組のテーブルの上に、手羽の骨が散乱しています。恐らく地元中学校同級生のアラカンが、誰かの誕生日をきっかけにして宴会をしているのだと。60歳であれば60本ですから、10人でやって来ても1人6本が割り当てられます。
ファミリーのパパが50歳であれば、4人で1人当たり10本以上となります。このサービスは店にやってくる動機に直結します。
お客さまは「割引」を望んでいない
大衆居酒屋を取り巻く状況は芳しくないことが増えてきています。やれ客層が高齢化することで利用機会が減るとか。若者層がアルコールを飲まなくなってきているとか。このようなことは田舎町であればあるほど深刻になっていることでしょう。
しかし、ここの店はとても素晴らしいポイントをついています。地元中学の名前をつけたハイボールで地元意識を喚起させます。手羽先の数を年齢の数だけ無料でプレゼントするということで、中高年が集まり来店する動機の一番に上げられることでしょう。
お客さまは、激しい値下げや大がかりな仕掛けを望んでいません。行きたくなる店にお客さまはやって来るのです。
この記事を書いた人
『夢列伝』編集長 千葉哲幸
外食記者歴35年。2017年4月エーアイ出版『夢列伝』編集長に就任し、夢を語り、それを実現するために行動し、日本を元気にする人に出会うべく東奔西走。
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