カメラマン前沢卓氏は北海道標津郡中標津町在住。30年ほど前より、阿寒湖や屈斜路湖などのアイヌ民族と交流を持ち、そのときどきのアイヌの人々の表情や儀式の模様をファインダーにとらえてきた。アイヌの人々との深い絆を感じさせる、優しく豊かな表情に溢れたポートレートは圧巻。



すぐれた人物写真は、第一に、撮影されている人物の人柄や背景(時代、文化、生活)などを物語ってくれる。第二には、撮影されている人と撮影している人との関係をはっきりとか、あるいは暗黙に、あらわしている。 前沢卓さんのこの写真集は、道東地方に住むアイヌ民族の人びとの姿をいきいきととらえた貴重な作品である。阿寒湖のマリモ祭りに際して、正装し威儀を正してイチャルパ(先祖への慰霊式)に臨むエカシ達は、凛として美しい。すでに亡くなったエカシやフチの在りし日の面影は、なつかしく、いろいろな思い出を呼び出すだろう。私も何人かは知っている亡くなった方々の姿に、こうして接することができるのはうれしい。 そしていまを生きる老若男女のポートレートは、内面の強さや、やさしさをみごとに写しとっていて魅力に満ちている。 この写真集には撮影者の前沢卓さんの、アイヌ民族への敬愛、親愛の情があふれている。そうでなければこのような、アイヌ文化のいろいろな側面にせまる写真は撮れないだろう。儀礼や祭りの様子、祭司達の姿などは、歴史的な記録としても貴重なのではないかと思う。 ゆっくりと眺めて、人びとのたたずまいの思いをはせたい。 ―序文(花崎皋平)より―