深夜2時。
ほとんどの人が眠りに就いている頃、俺は財布・携帯といった最低限必要なものを小さなバッグに詰め込んで転がるような勢いで玄関へと急いだ。
言っておくが別に借金を背負った訳でわない。
理由は後々分かると思うけど俺は今、夜逃げの最中だ。

(早く…早くしないとっ…)

焦る気持ちが先走り、いつも履いてるスニーカーなのに今日に限って上手く履く事が出来ない。

(よしっ…)

ようやく準備が整い、俺はドアノブへ手を伸ばしたが、俺の手は宙を掴み、ドアの方が先に開いた。
ゆっくりと開いたドアの向こうに立っていたのは上等なスーツを着こなした長身の男。男は口角を吊り上げながら俺を見下ろした。

「よぉ。お出かけか?」

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!ザンザス!」

逃げるが勝ちとでも言うように俺は男の脇をすり抜けようと試みたが案の定あっさりと捕まった。
そしてそのまま小脇に抱えられ、ズルズルと引きずられるように用意してたであろう車まで連行され車内に無理矢理詰め込まれてしまった。



















広い車内なのに何故か密着して座る。俺は冷や汗をダラダラ流しながら悠々と座る男にチラリと目をやる。

この男はザンザス。超有名大企業の御曹司で既に幾つかの会社を任されている俺とは全く違う時限に住む男だ。何故そんな男に俺が付け回されていてかつ夜逃げなんてしなきゃいけないかと言うと…




実はザンザスとは所詮幼なじみとゆうやつだったりする。親同士が仲良くて小さい時は四六時中一緒にいた。(正確に言えば連れ回されてた)
その頃はザンザスの家はまだまだ小さな会社だったのだが、俺達が高校に上がる頃から会社は急成長。
あっという間に大企業になってしまい、海外にも進出するとかでザンザスはイタリアに引っ越してしまった。最初はわんわんと泣いていたが住む世界が違い過ぎて時間と共に俺はザンザスのことを忘れて行ってしまった。


なのに…再会は意外にも早く5年経った今、ザンザスはいきなり俺の目の前に現れた。
それがつい一週間前。

久しぶりの再会だとゆうのにザンザスはいきなり…本当いきなり婚姻届を突き付けて来たのだった。俺はしばらく目が点になったが当然断った。しかしザンザスは次の日もやって来ては婚姻届にサインを求め…その次の日も…全て断っていたのに…最終的には偽造した婚姻届を役所に提出したらしく俺とザンザスは書類上では夫婦になってしまった。
そして昨日ザンザスは「明日迎えに来る。テメェはこれからずっと俺のもんだ一生逃がさないからな。」と言い残し去って行った。


そして冒頭に至る訳だ。






揺られる車内で俺は薄れかけていた記憶をやっと思い出した。ザンザスとのことを忘れたのは時間のせいでは無かったことを…俺は自分から忘れたかったんだこの無茶苦茶な男の事を。
こいつは昔から無茶苦茶で俺様。俺をまるで玩具のように扱い時には暇つぶしに使ったり。きっと結婚なんてしたら(もうしちゃったけど)俺の人生は破滅だ。

「テメェ俺意外の野郎の事好きになってねぇだろうな?なってたらカッ消すからな」

「そんなのザンザスに関係ないじゃん。それに俺ザンザスの事好きじゃないし」

フイッと視線を反らし、窓の外に目をやる。しかしすぐに無理矢理にザンザスに向き直されてしまった。

「こっち見やがれ」

「ちょっ…痛い!」

「いいか?浮気なんかしたら本気で殺すからな?」

「……………」

ザンザスの本気の鋭すぎる目つきと捕まれた襟元が苦しくて俺は思わず無言で何度も首を縦に振った。
そして車は異様な威圧感が漂うまま目的地へ向かってひたすら走った。

















「ふぇ~………」

着いた先は思わず感嘆のため息が出るほどの大豪邸だった。
本やテレビでしか見たことの無いような異世界に俺は口をポカーンと開けたまま豪邸を見上げた。

「おら、行くぞ。」

「えっ…ちょ…」

ぐいぐいと手を引かれて豪邸の中へと招かれる。中も外観と同様に豪華で、召し使いの人がずらりと並んで俺達を出迎えた。

「こっちだ。」

「…ちょっ…ザンザスっ」

再びぐいぐいと引っ張られ、連れて来られたとこは高級そうなソファーやベッドが置かれた、おそらくザンザスの部屋だと思われるこれまた豪華な部屋だった。

「もう!いい加減手離せよ!」

「そんな照れる事じゃねぇだろ」

「照れてない!」

ザンザスの手を振り払ってキッと睨みつける。しかしザンザスはそんなの気にならないのか、何やらクローゼットを漁っている。

「着ろ」

「これ…を…?」

投げつけられた服は黒を基調としたフリルたっぷりのワンピース。まぁ所謂メイド服とゆうやつだ。しかし他の召し使いさん達とは全く異なった超ミニ。こんな生足を出せるほど俺は自信が無いわけで、勿論着る気もない。

「着れるかっ!!!」

「着れないなら俺が着せてやるよ」

「ひっ!!」

「まずは脱がせないとな」

「わかった!わかった!着るって!」

「さっさと着ろ」



















「ほぉ~似合うじゃねぇか」

「見んな。近寄んな。触るな!」

「いいだろ夫婦なんだから」

「離婚だ!離婚!だいたい俺の同意もなく結婚とか馬鹿げてる!」

「同意があったらいいんだな?」

そう言って一枚の古ぼけた紙を見せつけられた。

「何これ」

見ればかろうじて読める字で…それも全部ひらがなで「こんいんとどけ」と書かれていて、その下にはザンザスの名前と俺の名前。そしてご丁寧にもハンコまで押されていた。

「…………これ…」

その時「ザンザスと結婚する~」と言っていた幼い頃の記憶が一気に蘇ってきた。

「これでいいだろ?」

「いや…それは小さかった頃の話で…!」

「……じゃあいいぜ。離婚しても」

「ほっ本当!?」

「そのかわり慰謝料取るからな」

「はぁぁぁ!?」

「当たり前だろ。お前が離婚したいって言ったんだからな」

「……いくら?」

「一千万」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?高いよ!そんな金あるわけないだろ!?」

「だから仕事やっただろ?」

そう言ってザンザスは俺が来ているメイド服を指差した。

「今日から俺の身の回りの世話しやがれ。給料はお前の仕事ぶりによって渡すからな。断るなら大人しく俺をダーリンと呼びやがれ」
「だっ…」

驚く俺をザンザスはニヤニヤと俺を小馬鹿にするように笑っている。その目が「どうせお前なんかにそんなに稼げない」とでも言うような目で、カチンときた俺は近くの机を勢いよく殴って「一千万くらいやってやるよ!」と大声で豪語した。

「精々頑張りやがれハニー」

「煩い!気色悪い呼び方すんな!」







今思えば俺はこうしてザンザスの思惑に嵌められていったのだった。









Next…?