『跳ぶ男』青山文平
主人公は、貧しい小藩の能役者を勤める役目を担う家柄の長男として生まれ、そして見棄てられた若者です。物語は、その若者が能を極めていく成功物語かと思えば、そうではなく、失くした大切な人の遺したものを探し、その志を繋ぐというものでした。
夢幻能の世界を、主人公の身をもって現し、まさにこの物語そのものが能の舞台であり、主人公こそがシテなのだと最後に感じ入りました。主人公は、死者を葬る場所を自分を生かす住処とし、失くした大切な存在を自分に宿らせ往き来し、問いかけ続けます。
そして、藩主の身代わりとなって、貧しい藩を少しでもよくするために選んだ驚くべき行動。
その結末を迎えるにあたっても、夢幻能のシテかと思えば、そうかとすんなり受け入れることができました。
本の中に出てきますが、
まさに「言葉で汚すのは許されぬ」舞台でした。