冷静と情熱のあいだ
農家の作業は、計算されているようで計算されていないし、計算されていないようで計算されている。
彼らの頭の中を見ると、実際の作業を軽く見積もり過ぎていて実データと照らし合わせるといい加減だったりすることもあるが、作業をする主体の心理的な負担も含めて考えるとその評価に納得することもある。
フォードの工場での労働時間の分析から、ライン生産方式からセル方式への転換なんていうのもあったけれど、機械化やAIによって人が働く必要はなくなってきていることを考えると、もはや労働は感情で動くほうへシフトをチェンジする時代へきている。
中山間地域での米の生産は、付随する草刈りやトラクタ・コンバインの移動にかかる時間を考えると、すでに全く割に合わなくなってきた。1反あたりコシヒカリで7俵~8俵で1俵(60kg)の農協への卸価格は、年々下がり続けてきたが、去年9000円台に突入。今年はそれでも10500円まで戻したが、だいたい1反の経費が、苗代から肥料、籾摺り代金などあわせ、労働賃金全く入れずに7万以上かかる。なお、8俵とれる農家は少なく、だいたい平均すると7俵。これに軽トラなどの車検代とかこまごまな農作業の器具の修繕・購入、獣害対策費用などを合わせると作れば作るだけ赤字になる。
では、なぜこれで経営ができるかというと、米以外に小麦や大豆を作ると1反あたりの奨励金がでる。麦、大豆、飼料作物だと35000円、したがって、大規模な農家は米で儲けはでないが、この奨励金だけで、10町だと350万、50町だと1750万入ることになる。中山間地域だと専業でも5町が限界で175万。たぶん機械は維持していくだけでペイしない。もちろん、賃金なしでだ。したがって、大規模農家でも、自力で米を売れる農家だけしか生き残れないが、これも結局どこまでもつかのチキンレースになっている。なお、いま、中山間地域で農作業しているのはほぼ年金生活者だけである。
オヤジが草刈りがつらくなってきたので、このところ2,3年は中山間地域に特有のナナメってる畔の草刈りを中心にやっているのだが、今日様子を見てきた。
これらは昨年の11月20日前後に草刈りしたが、3月19日まで4か月手を入れる必要がなかった。まだ、しばらく大丈夫だが、いまからが大変なのである。ただ自分もこれからこれらを趣味でやれるほど、蓄えがあるわけではない。なお、実際はナナメっているとこだけで、これの3倍あるし、そうでないところも刈っている。今からこんなことやるやつって、変人だけであるが、日本の多くの中山間地域はこれからの時代変人大歓迎であろう。変人でしかも小金持ちじゃないとダメだ。そんな奴はいない。そんな人間が大勢いるわけがない。
自分は冷静と情熱のあいだにいる。冷静と情熱のあいだにはなにも生まれない。