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あい♥のブログ

ポケモンとガルフレが大好きな大学生が、気ままに更新する、愛がいっぱいのブログです♥

風が吹いていた。
真夏を思わせる陽射しの中で、微かな風が、ホームベースからセンター方向に吹いていた。

夏の甲子園大会地方予選、三回戦目の試合が始まろうとしていた。
先頭打者として、バッターボックスに立った春賀 光(はるか ひかり)は、帽子を取り五分刈りの頭を晒して、マウンドに向かって軽く会釈をした。
身長173cm体重55kg。
野球選手としては小柄で華奢な細い体と、まるで女子かと思うばかりの顔。
春賀は、その細い腕にバットを握り、左打席に立ってバットを構えた。
静かに微笑み、マウンドの投手を見据えて。

マウンドには、身長190cm近くの大柄な左腕投手が立っている。
不敵な笑みを浮かべ、相手を見下ろす様なオーラを纏っている。
地方大会優勝候補の本命私立南陽高校の不動のエース、比嘉 暁(ひが あきら)。
その豪腕から投げ込まれる速球は超高校級と騒がれ、2度も甲子園の土を踏んでいる。
観戦席には、数人のプロ野球のスカウトらしき人もちらほら見える。

対する春賀の高校、私立聖櫻学園の野球部は、歴史も浅く実績も少ない弱小野球部である。
しかし、ここ数年はそれなりに実力を付け、ある程度は勝ち進める様になっていた。
この大会でも、初戦、二戦目を快勝し、この三回戦にコマを進めていた。
だが、その三回戦の相手は、あの「南陽高校」だ。
聖櫻学園の関係者は皆、今回の野球部の快進撃はここまでだろうと考えていた。
そんな両校の試合が、今、始まろうとしていた。

サイレンが鳴り、プレイボールが告げられる。
マウンド上の比嘉は大きく振りかぶり、自慢のストレートを投げ込んできた。
コースはほぼ真ん中、しかし、140kmを超える球威十分な豪速球。
打てるものなら打ってみろと言わんばかりの、威圧感に満ちたボールが打者を襲う。
ヒュッ。
春賀のバットは滑る様に始動し、その球を予測したかの様なバットコントロールで迎撃した。

キィーンという快音と共に、芯で捉えた鋭い打球がセンターの頭上を襲った。
プレイボールのサイレンも鳴り止まない中、小柄で華奢な体の先頭打者が、いきなり放った打球。
南陽高校のセンターは予想外の打球に一瞬戸惑いを感じたものの、直ぐに素早く打球を追った。
その頭上を越えた打球が外野のグラウンドで跳ねる。
わぁっという喚声が聖櫻学園の応援席から上がる。
俊敏な走りで春賀はみるみる加速し、一塁ベースを回る。

南陽高校の外野手は素早い動きで打球に追い付いたものの、春賀はもう悠々と二塁ベースに到達しようとしていた。
プレイボール直後の全国クラスの投手から放った二塁打に、聖櫻学園の応援席は湧きあがっていた。

だが、その喚声は、直ぐに悲鳴の様な声に変わった。
春賀は二塁ベースも勢い良く蹴り、なんと三塁に向かったのだ。
打球は良かった。二塁打は確実だった。でも、三塁を狙える打球ではない。
好投手からのいきなり放った快打に、舞い上がってしまったのか。誰の目から見ても明らかな暴走である。

しかし、その走塁を応援席で見ていた宮里麻由子(みやざと まゆこ)は、不思議な予感を感じていた。
--ぼ、暴走じゃない・・なにかある!

外野手からの素早い返球を受けた中継の内野手は、機敏な動きでそれを三塁に転送した。
正確な送球。完全にアウトというタイミング。
と、次の瞬間--。
なんでもないその送球を、三塁手がミットに当てて弾き、後ろに逸らしてしまった。
聖櫻学園の応援席は再び湧きあがる。
春賀は快足を飛ばして三塁ベースも蹴り、後逸したボールに野手が追いついた頃には、本塁を駆け抜けていた。
本塁上で主審がかなりオーバーなゼスチャでホームインを告げる。
それを横目に、春賀は左手を胸に当てながら、マウンド上の投手に視線を送り、軽く微笑んだ。
比嘉は、呆気に取られた様にマウンドに立ち尽くしていた。

まさかの、先頭打者の初球。
どう見ても打たれそうもない様な相手打者に許した快打。そして暴走・・と思われた矢先の、エラーによる失点。
南陽高校としては、狐につままれた様な展開と言える。

しかし、聖櫻学園の応援席の生徒は違った。
またか。そう思った生徒は少なくなかった。
春賀は、時々予想外のプレーをする。
今回の走塁も、運がよかった、ではない、なにかがある。

応援席で見ていた宮里も思った。
--やっぱり・・!

春賀は悠々とベンチに戻ると、まだざわついている応援席に目を遣った。
応援席で、千切れんばかりに手を振っている宮里を見つけると、手を上げて満面の笑顔を送った。

応援席の上の、青い空。
そして、湧きあがる白い雲。
夏の始まりを告げる風が、センター方向に向かって吹いていた。


WONDER-壱 「転校生」に続く…