愛が性欲をかきたてることもある。
ただしその場合の肉体関係には、貪欲さも、征服したいという願望も征服されたいという願望も欠けており、そのかわりに優しさがある。

                                        ー  エーリッヒ・フロム  ー





Lowyaの正体。

完全に騙されていた。

勝手にあたしは、組織の中にいる人間だと思っていた。

Lowyaは新世界のシークレットメンバーとして登録されていた。

そうだ、Lowyaという人物は

トップシークレットだったんだ。

組織の中にいる「誰か」ではない。

組織とは関係ない一般人のふりをしてる「誰か」だったんだ。



サングラスを取ったジェイルはまた、シークレットブーツを履いた。

背が一気に高くなった。

こんな事にも気が付かなかったなんて…。

Lowyaは背が高い。

だから背の低い人を、犯人候補から外していた。

ヒールのある靴を履くだけであたしは風の身長を越してしまうっていうのに

何故、シークレットブーツで背が高くなってるかもしれないと気が付かなかったんだ。



「愛美ぃぃぃ……!」



背後から地獄の底から聞こえるかのような低い女の声が聞こえて、ゾクッとして振り返った。

あたしと同じように男たちに掴まれてる、アイナさんだった。

アイナさんの存在忘れてた。



アイナ「よくも……よくも人の旦那にちょっかい出したな……!?」

あたし「あ、ごめんなさい。前にキスされたからもう一度して確かめたくて」

アイナ「はあああっ!?」

あたし「てか、アイナさん騙されてたんですよ…もうあんなヤツのこと忘れた方が」

アイナ「ふ、ふざけないで!私たちなんてもっと愛し合ってきた……!」

あたし「アイナさん。現実を見てください。なんでその愛してる人を男たちに捕まってそんな目に?」

アイナ「愛美だって捕まってるじゃない!」

あたし「わかってますよ。彼はあたしの事好きでもなんでもない。たぶん……ジェイルは誰のことも愛してない……」

アイナ「ふ、ふざけんな……!」



自信はない。

勝手な事を言ったかもしれない。

ジェイルが例えば誰かを好きになっていて

その彼女がなんらかの形で酷い目に遭い

その復讐として、こんな事をしてるのかもしれない。

これも勝手な憶測だけど。



「愛美!」

「動くな!!」



ふと見ると、風は解放されていた!

そしてそこには縄で縛られた佐藤と間宮もいる!!

良かった……!



風「愛美!絶対助けるから!」

あたし「ありがとう!でも美味しい物食べてゆっくり休んでてよ!?」

風「バカ言うな!!」

あたし「HALたちが来ないと何も始まらないんだから!それまで何か食べて英気を養ってよ!」

風「そっ、そんなことっ!」

あたし「佐藤も間宮も!空腹で戦闘力ゼロですとか抜かしたら承知しないよ!?」

佐藤「わかりました!それまでどうかご無事で!」

あたし「りょーかい!」



物分り良すぎる佐藤、最高。

間宮と風は、ギリギリと歯を食いしばって悔しそうにしていた。

ここで無駄に動いちゃだめ。

こういう時にこそ、冷静になって……!

しっかり食べて休んでエネルギーチャージして!

ジェイルはさすがに、佐藤と間宮を解放はしたけれど、縄は解かなかった。

まあ、あの二人が暴れたらかなり面倒だもんな。

そしてジェイルがあたしの元へ来た。



ジェイル「愛美、リムジンへ」

あたし「……凄いね。人質をリムジンに乗せるなんて」

ジェイル「さっきの続きでもしようか」

あたし「……」

アイナ「カン・チェイル!!」

ジェイル「うるさいなぁさっきから」

アイナ「本当に……本当に私は利用されてたの……!?親にも親戚にも結婚するって言ったのに……」

ジェイル「俺に女は不要なんです」

アイナ「なんで……!愛美のこと好きなの!?」

ジェイル「うーん……」



ジェイルはあたしの顔を見て、手を顎に当てて暫し考え込んだ。



ジェイル「好きって気持ちがわからない」

アイナ「……」

ジェイル「ただ、俺の事好きじゃない女を振り向かせるのは楽しいかもしれないね」

アイナ「……わかった、もういい。そういう男だったの……クズ男め」

ジェイル「ふふっ。男なんてぜーーーんぶクズです」

アイナ「クズはいいけど、お金……大金欲しいな」

ジェイル「いいですよ?一生遊んで暮らせるお金あげる。それでいい男見つけて結婚しなさい」

アイナ「ふふ……そうこなくちゃね。先払い……いや、今すぐ宜しく」

ジェイル「nero」

nero「了解しました。アイナ様、こちらへ」

アイナ「……」



アイナさんは笑ってはいたけれど

泣きそうな笑顔だった。

ゾンビのように、ゆらゆらと歩いて、neroと黒い車に乗り込んだ。




あたし「本当にアイナさんにお金あげてよね?」

ジェイル「もちろん。いつも色々気持ちよくしてもらってたし、お礼はしないとね」

あたし「き、気持ちよくって……」

ジェイル「俺だってロボットじゃない、人間だもん。性欲ぐらいそれなりにあるし」

あたし「ジェイル……その顔なら普通に彼女出来るのに……」

ジェイル「別に特定の女なんていらないよ。すぐ女は怒るし、面倒なだけだった。さ、早く乗って」



リムジンに押し込まれた。

なんてバカ長い車だ。

まるで部屋だ。



ジェイル「そこに座って。さっきの続きしよ?」

あたし「あ、ごめん。あたし生理中なの」

ジェイル「え?」



ジェイルがあたしのスカートの中に手を入れ、パンツを触った。

生理中なのは嘘だけど、ナプキンはつけてある。

ナプキンの硬さで、わかるはずだ。



ジェイル「……なんだ。つまらない。さすがにここ血まみれにはしたくないな」

あたし「残念だったね」

ジェイル「じゃあさ、なめていかせて?」

あたし「は?」

ジェイル「ここは人質らしくしないとね」

あたし「人質らしく、噛みちぎるよ?」

ジェイル「……それはやだね」



ジェイルは諦めて、運転席のおじいさんに合図をした。

リムジンはゆっくりと出発。

……やばい。酔いそう。

電車みたいに、横向きに座らされてたからこの長い車体で横向きは嫌な予感がする!



あたし「ジェイル。あたしすぐ車酔いするから進行方向に座ってもいい?」

ジェイル「あぁ、いいけど」



何もしてくれないと察した途端、突如冷たくなった。

あたしになんの関心も持たないように、そっぽ向いて一人でシャンパンみたいな高そうなお酒を飲み始める。

全く。これだからやる事しか考えてない男はやだ。



あたし「風、佐藤たちの縄解けるかなぁ」

ジェイル「ん?縄切る用のナイフと車の鍵渡しといたから大丈夫でしょ」

あたし「うわ優し!」

ジェイル「あ、そうだ。愛美も少し縄で縛ってもいい?軽くだから」

あたし「え?なんでよ」

ジェイル「あ。その前にこれ。ロック外して」



ジェイルがあたしのスマホを渡してきた。

なるほど。そういう事か。



あたし「HALにあたしが縛られてる写真送るの?」

ジェイル「ご名答」

あたし「もしそれで焦って事故ったりしたらどうすんの?」

ジェイル「それは単純に馬鹿だなぁって笑うだけだよ」

あたし「ふざけないで……!」

ジェイル「俺はずっとふざけてない。遊んではいたけどこれは本気だよ」



ジェイルはキッとあたしを睨んだ。

本気……か。

確かにそうだ。

こんなにも長く、あたし達を罠にはめてきたんだから。




あたし「すぐに解いてくれる?」

ジェイル「当然。もう現場に着くから早く」



あたしは縄で縛られた。

そしてそれを、あたしのスマホで何枚も撮るジェイル。

あーもうやだ。

こんなプレイそもそも興味ない。

なんでこんな目に……。

それをLINEで、HALに送ってしまった。

お願いだから事故らないでよ……。



ジェイル「もうすぐ着くな」



外はいつの間にか、雨が降っていた。