友よ、理論なんて物は無機質だが、生命力は若さのエネルギーで満ちている。

          ー  ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ  ー







20XX年 4月21日



まさかの展開だった。

Lilyと貴之だなんて。

美女と野獣……というわけではない。

貴之もフル整形したから、現在はかなりの好青年ではある。

服装もちゃんと気を使って、チンピラみたいな格好はしていない。

ただ、あたしと貴之の出逢いの印象が

まだ頭の中にこびり付いて離れないのだ。

まさにガスコンロの油汚れのように...。

チンピラというより、ヤクザかなって感じの風貌だった。

なのに喧嘩弱かった。

佐藤と間宮が強すぎたというのもあるけれど。

まぁ、最初に驚いたカップルは友愛とSugarだったかも。

特にSugarは当時既婚者だったし。

次に驚いたのは、夢叶と椎名カップルだ。

椎名はあの日、初めて会ったもん。

そういや、今夢叶と椎名は楽しくやってるのだろうか。

椎名の足は治ったのだろうか。

そんな事を考えながら、あたしは風の家に着いた。

19時00分。

今日は風とLとDAIですき焼きをやるのだ。

一応「高校合格祝い」という名目ではあるけれど、なんのお祝いも持ってこなかった。

お肉以外の野菜はあたしが自宅でちゃちゃっと切って

大きなボウルに詰め込んで自転車のカゴに置いた。

だけど段差で揺れて、色々グチャグチャになってしまい

まるで何かの餌のようになってしまった。

今日は風のお父さんは帰宅が遅いらしいから、そこは安心していた。



DAI「ちょ、野菜グチャグチャじゃないっすか!」

あたし「どうせ鍋の中でグチャグチャにするからいいの!」

L「すき焼きで野菜グチャグチャにしますっけ...」

あたし「お腹の中入ったらぐっちゃぐちゃよ!」

風「すき焼きのタレの量はどれくらいかな」

DAI「おま、入れすぎ注意な!?薄ければ足せるけど濃すぎたら死ぬからな!?」

あたし「これぐらいかな?」



LとDAIは相変わらずだ。

高校生になったとは思えないほど変わってない!

あの頃に戻ったみたいに、懐かしくて何とも言えない気分になった。

大阪旅行の時も会えたけど、何か違う。

こうやって風の家に集まるのが、不思議な感覚になっていた。

あの頃にタイムスリップしたみたい。



風「DAI先輩彼女できました?」

DAI「まだ!見定め中!あんま可愛い子いないんだよこれが」

L「へー」

DAI「なんだよそのへーってムカつくな!」

あたし「Lは?出来たの?」

L「……」

風「まさか」

DAI「いやいやいやいや、まだ入学して一ヶ月経ってないのに出来てたらお前チャラ男認定すっぞ!?」

L「わーいい匂い!そろそろお肉入れますか?」

DAI「わかりやすっ!!」

あたし「確かに彼女出来るの早すぎな。入学してまだ数週間なのに」

L「向こうから来たんですよ」

風「あ。やっぱ出来たんだ」

DAI「来る者拒まずは最強のクズ男だぞ」

L「いや、普通に性格いいし可愛いし」

風「L先輩がノロケたっ!」

DAI「あームカつく!Lの肉は無しな!」

あたし「……」



やっぱり、高校入るとすぐ彼女が出来る。

風も来年高校生になったら……。

すぐ、彼女が出来るんだろうな。

それはもちろんおめでたい事だけど、解離性同一性障害のことや白血病のこともあるし

リベルテの事もあるし、どうなるんだろう。

一筋縄ではいかなそうだ。

その点、夢叶の時は全てにおいて完璧だった。

同じ組織員で、白血病のことも解離性同一性障害の事も知っていた。

だけど夢叶は今、椎名と付き合っている……。



L「それより愛美さんは?HALさんと上手くいってるんですか?」

あたし「ほえっ!?いきなりあたし!?」

DAI「そーっすよ!通天閣では険悪ムードだったし!HALさんにも別人格いたとか!
俺たち頭ついていかなかったんすよ!?」

あたし「あ、そっか。バレたんだっけ」

DAI「バレたも何も。俺はシオンだって何度も怒るし愛美さんは私はまなみとか言い出すし、つまらないコントでも始めたのかと」

あたし「コントって」

L「解離性同一性障害ってそんなに多いんだ……」

風「やっぱ解離性同一性障害も人に移ったりするのかな……」

DAI「う、うつるわけないだろ。風邪じゃあるまいし」

あたし「そうそう。元々あたしもHALもかなり昔からだったもん。たまたま集まっただけだよ」

L「とはいえ、HALさんのほうが別人格で基本人格が眠ってたなんて驚きました…」

DAI「それはそう!そんな事もあるんだなぁ」

風「……お、俺は絶対眠らない。どんなに現実が辛くなっても別人格に人生譲ったりしない」

あたし「うん。あたしもだよ。そう強く決めてれば絶対大丈夫だから…!」

DAI「……じゃ、HALさんの基本人格は負けたってことか……」

あたし「…………」

風「お、お肉入れましょ!もう火通ったよね!?」

あたし「だね。いい塩梅じゃん!」



春にすき焼き。

年中すき焼きでもいい。

お肉が美味しい。

HALは

いや、シオンは

ご飯では何が好きだっけかな……。

今度シオンの好きな物、準備してあげよう。

まるで先祖へのお供え物みたい。



あたし「部活は?決めたの?」

L「俺は中学の時と同じにしますよ」

DAI「俺は帰宅部!バイトしまくるからね!」

風「今度L先輩の試合見に行きたい!」

L「いつでもおいで!」

あたし「受験受かってからね?」

L「あ。そっか」

風「愛美お母さんみたい」

DAI「それな」

あたし「お母さんじゃなくてマネージャーです!」

L「年齢的にお姉さんじゃない?」

風&あたし「!?」



Lは……知らないよね?

あたし達が姉弟ってこと……。

Lの言葉に、風の体がビクッとしたのが知らない証拠だろう。

いつか、言うのだろうか。

風があたしの事を諦めた時に?



風「めっちゃうまー!」

L「また風肉ばっか取ってる」

DAI「すき焼きの主役は肉だから仕方ないよなー!てか肉足りる?」

あたし「ちょ、あたしもまだ肉食べてないんだから残しといてよ!?」



昔の光景。

最高だ。

だけどこの幸せがこの日が最期になるなんて……。