恋はつらい、あまりに残酷だ、暴君だ、茨のように人を刺す。

                              ー  ウィリアム・シェイクスピア  ー






新宿駅徒歩三分。

思い出横丁。

飲み屋を探してると、前からチンピラ集団が歩いてきて睨みをきかせてきた。

嫌な予感しかしない。

佐藤と間宮はいない。

ここは目を逸らして上手くかわさないと…!



「オイ」



声かけられたー!!

いつもなら「オイなんて名前じゃないしー?」って中学生みたいな返しをするところだけど

今日は佐藤と間宮がいないから大きく出れない!



マモル「あれっ?」

レイジ「え……?」

あたし「?」



チンピラ達の後ろに、貴之おるやん!

整形してすっかり好青年に様変わりしていたから、すっかり顔忘れてた!

チンピラ集団がざざっと避けて、貴之と可愛らしい女の子があたし達を見た。



貴之「あれ、あれれれれ?」

Lily「愛美!?」

あたし「え?え?Lily!?なんでここに!?てかなんで貴之なんかと一緒にいる!?」

貴之「なんかとって」

Lily「あー、えっと……」

貴之「は、初デートってやつだ!」

あたし「はいいいい!?」



Lilyの顔を見ると、赤面してモジモジしてるっ!?

何この恋してる乙女みたいな顔は!!

それに対して、貴之はめっちゃドヤ顔だ。



レイジ「えっと……まさか……二人はそんな関係?」

貴之「そ、そういうっていうか!初デートだからな!?まだそんな深い関係とかじゃ」

マモル「とんでもないカップル誕生してる!?」

あたし「うううう嘘でしょ!?」

貴之「と、とりあえずだ!ここじゃなんだし、どこか店入ろう!」

Lily「次は私が好きなお店でいいんですよね?」

貴之「も、もっちろん!」

Lily「愛美たちは?今からここで飲むの?」

あたし「うーん。あたしはコーヒー飲みたいんだけどね」

貴之「こんなとこにカフェなんかないぞ」

Lily「私が行きたい所はコーヒーあるはずだからみんなでそこ行きましょ!」

マモル「えっと、そこにはお酒あるかな?」

Lily「もちろん」

マモル「酒あるなら何処でもオッケー!」

レイジ「お、お金足りるかな…どこかでおろしてこようかな」

マモル「確かに!」



そうか。

Lilyはとんでもないお金持ちのお嬢様だった。

今からどんな高級カフェに連れてかれるんだかわからない。

貴之に合わせて庶民的な場所にしてくれると有難いんだけど。

思い出横丁から高架下を通り、新宿東口に出た。

こっちは歌舞伎町方面か。

と、歌舞伎町まで行かず、駅近のレストランに入っていった。

この前大志たちと行った、億万鳥者がめちゃくちゃ近い。

ビルのエレベーターを昇ると、そこはまるで異空間。

暗くて、高級バーみたいな入口だ。



あたし「す、素敵……何ここ水族館!?」

Lily「でしょ?ここ大好きなの」

貴之「あー!ここ有名だよね!来たことはないけど」

あたし「新宿Lime……」

マモル「た、高そう……」

レイジ「やっぱお金おろして来ようかな……」

Lily「あ、大丈夫。ここは私が全員分払うから」

レイジ「きっ、聞こえちゃった!?ごめん、大丈夫!自分の分は払うよ!」

Lily「だって愛美たち思い出横丁で飲もうとしてたんでしょ?ここに来るのは私のワガママだから出すのは当然です」

マモル「えーじゃお言葉に甘えようかなぁ」

レイジ「いくらご令嬢とはいえ女性に奢らせるなんて…」

あたし「……」



あたしも財布の中身をさっき確認したら、6000円ちょっとあった。

夕飯をここで済ますにしても、単品でパスタとコーヒーだけならいくらなんでも足りるだろう。

マモルとかは飲みまくる人間だから、どれだけお金かかるのか知らん。

メニューを見たら、そうでもなかった。

お酒系は居酒屋に比べたらそりゃ高いけど

あたしが頼みたいものは目ん玉飛び出るほど高いとは思わなかった。

良かった、安い女で。



それにしても店内の雰囲気が最高だ。

新宿駅にこんなにお洒落なレストランがあるなんて知らなかった。

店内は薄暗く、キャンドルがたくさんあって

優雅に熱帯魚たちが泳いでいる!

これはデートに打って付けのお店ではないか。

今度HALと一緒に来たい!

HALなら「リーズナブルですね」とか言いかねないお値段だ。



あたし「で、どうやって知り合ってどうやってこんな仲になったのさ」



Lilyと貴之は目を見合わせて、二人して少しテレていた。

か、可愛い。

新鮮なカップルだ!



貴之「俺がHALさんとJさんに会いに行ったら、そこにいた」

あたし「簡潔すぎる!」

貴之「いやいやいやいや。今日初デートなのに詳細を言わせないでよ……」

Lily「その日にLINE交換して、今日飲みに行きましょって約束したの」

あたし「お、お付き合いは?」

Lily「……」



Lilyが頬を赤らめて、助けを乞うように貴之を見た。



貴之「ま、まだだよ」

あたし「まだってことは……そういう事か」

マモル「今日が勝負の日だったんだねぇ。でもなんでチンピラ連れて歩いてたの?」

貴之「一応、ここら辺はちょっとね。治安悪いし別に俺は喧嘩強いからいいんだけど」

Lily「私もSP引き連れてデートなんてしたくないから、親に嘘ついてきちゃったから。でも来たら他にいっぱい男の人いて驚いちゃった」

貴之「だ、だって危ないでしょ…Lilyちゃん大金持ちのお嬢様だから気をつけなさいってHALさんに言われたから。
なのにLilyちゃん、貴之さんの行きつけの場所に連れてってって言うし。
ゆうて俺の縄張りっつったら、ここら辺しか知らないし…新宿は俺の庭だし」

レイジ「なるほどね。貴之くんもちゃんと考えてたんだ」

マモル「新宿だもんねぇ。色んな人種集まってるもんね」



今日は告白する、勝負の日だったのか。

こんな綺麗なお店に来て、Lilyは貴之に告白されるのを待ってたのかもしれない。

なのにあたし達が紛れ込んでしまった。

完全に大いなる邪魔者じゃないか。



あたし「サクッと食べてサクッと飲んで、先に出よう。うちら邪魔者だよ」



あたしはマモルとレイジにこっそりとLINEをした。

レイジもマモルも「確かに」「そうしよっか」と返事してくれた。

それにしてもこれは、前途多難なカップルである。

超絶お金持ちのお嬢様と、元歌舞伎町ホスト界の黒服さん。

しかもガッツリ整形してて、刺青も消したらしいけど、完全に元通りになってるかはわからない。

しかも貴之は死んだことになってて、名前も変えている。

戸籍とか身分証明書とかはどうなったのか忘れたけど

どこの馬の骨だかわからない男と言うより、一度死んだことになってるゾンビだ。

この二人が結婚とかなったら一体どうなるんだ!?

HALとあたしが格差恋愛とは思っていたけれど

今はHALの両親にも認められている。

Lilyと貴之に比べたら、超絶イージーモードなんじゃないか?

こうなったらLilyのためにも、貴之のためにも

あたしはHALと結婚しなくてはならない。

と、変な使命感に燃えているあたしなのであった。