反戦だの平和だのの政治的なお題目では、子供はついてこない。
率先して生命の尊厳から教えていく姿勢が大事である。
ー 手塚 治虫 ー
Lowyaと平和協定?
意味がわからない。
レイジ「いつの間にそんな話が」
進「JとLowyaが連絡を取り合ったらしい。この前の雄大さんがAチームを使って動いた件で、LowyaがすぐにJにコンタクトを取ってきたと」
マモル「じゃ、Lowyaはもう誘拐事件やら何やら絶対起こさないと約束したんですね!?」
進「厳密には誘拐事件はLowyaが直接起こしたわけではないけど、そういう事だね」
あたし「HALを襲ったり、本当に何もしないの?だったらなんで最初からおかしな事してきてたの?」
進「ごめん。そこまでは聞いてない」
あたし「……それってさ」
進「ん?」
あたし「Lowya、目的達成したって事……だよね?」
進「……」
あたし「あれだけ派手に動いてきたくせに、今さら平和協定なんて意味不明すぎるもん」
レイジ「確かに。Lowyaの当初の目的は達成した。だからもう手は出さないと約束した。そう考えるのが妥当ですよね」
進「俺もJからの又聞きだから詳しくはわからないんだけど……」
進は座り直した。
進「ここからは完全に俺たちの推理だから、鵜呑みにしないで聞いて欲しい」
あたし「了解。教えて?」
進「今回、Lowyaが他と手を組んだのではないかと推測してる」
マモル「だ、誰と!?」
進「河野派か、鷹派だな。この前の件で言うと」
あたし「そっか。あの日ホテルで河野派と鷹派とLowyaが会った。
2000万円がどうのこうのって言ってたんだよね。
取引完了したってことか」
進「恐らくね。で、鷹派や河野派が今はHAL派に手を出すなとでも言ったんじゃないかと思って」
あたし「河野派か鷹派が、HAL派を懐柔しようとしているのか」
マモル「それか、HAL派を直接潰してくって事かのどっちかって事……か」
レイジ「物騒すぎる…」
美鈴「どちらにしても、いいんじゃない?泳がせておけばその間にこちらも手を打ちやすい」
あたし「何か仕掛けるんですか?」
美鈴「もちろんやられるのを待つわけにはいかないでしょう。色んな対策を練る。守りに入るだけじゃなく、攻めの作戦もね?」
あたし「それはどんな?」
美鈴「決まったらすぐに言う。そしていつでも動けるように心の準備だけはしておいて欲しい」
あたし「……」
すぐに動けるように。
という事は、あたしはもしかして就職どころではないのでは?
HALを護りたい。
死んでも護りたい。
就職活動やら何やらして、小銭を稼ぎ始めて
いざと言う時に仕事で動けなくてHALに何かあったらと思うと……。
美鈴「彼らは絶対的なHAL派の味方よ。紹介します。左からレン、風神、雷神、タカシよ」
背後でずっと無言だった男たちが立ち上がり、軽くお辞儀をした。
風神雷神は、覚えやすい。
ただ、今後会ったとしてもどっちが風神でどっちが雷神かなんて覚えてないかもしれない。
レンとタカシか。
人の顔と名前覚えられないあたしだから、必死で見つめて覚えようと努力した。
タカシ「よろしく。大和魂を持ち続けるHAL派に所属してます」
あたし「大和魂?HAL派って大和魂だっけ?」
タカシ「違うんですか?」
あたし「大和魂がなんなのかわからないけど、もちろん愛国心は持ってるよ?
でもね。日本のために命は捧げたりしない。
あたしたちは生きて、日本を守る」
タカシはふっと笑った。
一見ヤクザかのような、チンピラかのようなド派手なおじさんだ。
武士道とかそういうのには全然縁がなさそうに見える。
タカシ「それです。命あっての物種だからね。命をかけて日本を護り抜きましょう」
あたし「……」
返事は出来なかった。
日本を護るなんて、政治家のスローガンみたいな事は言いたくなかった。
そんな大義名分は持っていない。
あたしの大切な人たちが住んでいるこの国を護りたい。
ただ、それだけだ。
あたし「あ!あと、風愛友マネージャーとしてお願いがあるんですが。風は受験生なのでそこんとこよろしくお願いしたいです」
進「お!ちゃんとマネージャーしてるねぇ。わかってるよ。だから今日も呼ばなかったんだし」
あたし「それなら良かったです」
美鈴「だけど風愛友の推理の力を借りたい時はお願いするかもしれません」
あたし「マジですか。そんなん頼まれたら風も受験勉強ほっぽり出しますよ」
進「だよね。こんな派閥抗争に中学生引きずり込むわけにはいかないし。最大限努力するよ」
あたし「お願いしますね。あとHALに何かあったら即、あたしに連絡して下さい。
これでもHALの補佐になったんでそこは絶対よろしくお願いします」
美鈴「わかりました」
美鈴さんはふふっと笑った。
やはり、あたしは就職どころではないのでは……。
HALの秘書やりたいなぁ。
無能だけど。
特に大した話もなく、そのまま解散となった。
マモル「思ったより早い解散だったね!」
レイジ「目が輝いてる…」
マモル「思い出横丁なっ!」
レイジ「俺運転なんだけど」
あたし「思い出横丁って?」
マモル「愛美ちゃん!サラリーマンなら絶対知っとかなくちゃ!新宿で飲みといえば思い出横丁だよ!」
あたし「あたしゃサラリーマンじゃないんすけど」
レイジ「愛美ちゃん、大丈夫?」
あたし「いいよ。コーヒーさえあればどこでも」
マモル「飲み屋にコーヒーあるか……?」
レイジ「じゃ、とりあえず一杯だけな?マモルも酒控えないと。血液検査でイエローカード出てるんだから」
マモル「病は気から!そんな事聞かされたら酒が不味くなるだろ!」
マモルの足取りがめちゃくちゃ軽くなった。
あたし「お酒かぁ。飲める人羨ましいなぁ」
レイジ「愛美ちゃんも飲んでたじゃん。山梨で」
あたし「記憶ない……」
レイジ「急性アルコール中毒になりかけてたしね」
あたし「耳が痛い……」
レイジ「一杯ぐらいならいいんじゃない?」
マモル「そうそう!飲み続けないと強くならないよ!?俺だって大学ん時はそこまで強くなかったし!」
レイジ「今も強くないだろ」
マモル「前よりは強くなりましたー!」
そして思い出横丁に着いた。
思ったより近くて良かった。
この街並み、テレビとかで見た事ある気がする。
暫く歩くと、前からチンピラが歩いてきた。
しかもこちらをジーーーっと睨んできてる。
な、なんか嫌な予感がする……!