君の笑顔しか知らない多くの友達よりも、君の涙を理解する一人の友人の方がはるかに価値がある。
ー スヌーピー ー
20XX年 4月17日
「愛美、折り畳み持っていきなよ!」
あたしの部屋に、お母さんが飛び込んできた。
あたし「うん。あ!」
お母さん「なに?」
あたし「いや、なんでもない」
お母さんに早川さんから貰ったお金を渡さなくては。
でも今からハローワークに行く。
色々言われたら面倒だから、封筒だけこっそり手に取り、下へ行った。
お母さん「最近お天気が不安定だからね。今日も急に雨降ってくる予報だったし」
あたし「あ、そうだ。ハローワークのあと友達と夜ご飯食べてくるから今日夕飯いらないや」
お母さん「そう?じゃ簡単なのにしよっと」
あたし「あと、友達と話してるからLINEしたり電話かけてこないでくれる?絶対返事出来ないし電話も取れないからさ」
お母さん「ちょ、なんで?あんたまさか浮気してるんじゃ」
あたし「ちゃうちゃう。とにかく今日は連絡出来ないから!あとこれ」
封筒を差し出した。
お母さん「な、なにこれ?」
あたし「連絡しないでよ?あとで詳しく話すから!いってきまーす!」
お母さん「ちょ、折り畳み傘ー!!」
折り畳み傘を受け取り、大急ぎで自転車に跨って発進!
今日もSPつけてないから自転車で大急ぎだ!
お母さんが追いかけてきたら面倒臭い!
立ち漕ぎをして駅に向かう。
振り返ったけど、特に追いかけてくる気配もない。
良かった。
だけど封筒の中身を見た瞬間、腰を抜かしてるかもしれない。
駅に着いて自転車を停めて、駅のホームへ向かった時に気がついた。
「なにこれ!?」
「誰に借りたの!?HALさん!?」
「これなんなの!?」
何件もお母さんからLINEがきていた。
まぁなんの説明もなくあんな大金渡したら誰でもそうなるか。
「詳しいことはあとで話す!学費代!パートも辞めていいよ!もう今日はLINEしないからね!」
返信して、電車を待った。
また何回もスマホが震えてる。
最近頭の中しっちゃかめっちゃかだから、あまり説明とかしたくないんだよな。
ハローワークに着いて、サクッと良さげな会社の面接を入れてもらった。
バイトルとかタウンワークとか、そういうので探した方が楽かもしれない。
なんでこんな遠いところまで来なくてはいけないのだ。
ハローワークを出る時、周りを見渡した。
ジェイルは……いないか。
ジェイルもいいバイト先見つかっただろうか。
顔もいい、接客もいい、頭もいい、てんかん持ちだけど、ジェイルはなかなかハイスペックである。
こんなハローワークなんて来なくても
お洒落なカフェとかで、すぐにバイト先は見つかるだろう。
背は低いけどあれだけ顔が良ければ、すぐ彼女も出来るだろう。
……って、なんでちょっと寂しい気分になっちゃってるんだあたしは。
そのまま上りの電車に乗り、中野駅で降りた。
懐かしい駅!
ここの駅のカフェでバイトしてたなぁ。
慣れた道のりを歩き、中野ブロードウェイの入口に立った。
今日は友愛とディナーだ。
最初は友愛の家で遊ぼうって話だったけど、最近またSugarとケンカしたらしくて外食する事になった。
ケンカするほど仲がいいのか、それとも本当に相性最悪なのか。
友愛「愛美さーーーん!」
友愛が胸をブルンブルンと縦に揺らしながら駆けよってきた。
ぐぬぬ……!
巨乳が羨ましい……!
あたし「おっつー!」
友愛「雨降りそうだからサクッと行きましょ!」
中野ブロードウェイは屋根があるから、雨が降っても助かるのだ。
その中に、お洒落なイタリアンがあった。
あたし「めっちゃ美味しそう!」
友愛「この前ここ歩いてる時に発見したんですよ!食べログで調べたらめちゃくちゃ口コミが良くて!私も初めてなので楽しみです!」
今日は奮発して、パスタとピザとカフェラテを頼んだ!
今度の面接は絶対に受かってやる!
前祝いだ!
予祝だ!
あたし「うんまぁぁぁぁぁ!」
友愛「本当に美味しい!このピザ食べて下さい!」
あたし「いいの!?あたしのも食べてみて!トリュフ乗ってるんだって!」
友愛「超美味しい!」
久しぶりの女子会!
めちゃくちゃウキウキする。
最近、女同士で会うこと少なかったからな。
リナも女だけど、リナはなんというかちょっと違うのだ。
女子会ってノリではないのだ。
あたし「で、なんでまたSugarとケンカしたの?」
友愛「私もバイト始めたから家事分担してるんですけど、ちょっと食器洗いをサボっちゃったんですよ。量も少ないから後でていいかなって。
そしたらSugarさんが、洗い物置きっぱだとこれからの季節コバエが寄ってくるだろ!っていきなりキレだして!」
あたし「えぇ。Sugarもキレたりするんだ…」
友愛「生ゴミはちゃんと捨ててるから大丈夫って言い返したら、コバエをナメるな!どこからでも沸いてくるんだ!ってずっと怒ってるんですよ。そんな怒ること?って腹が立って」
あたし「確かにコバエはいきなりわいてくるけど、そんないきなりキレなくてもいいじゃんねぇ」
友愛「ですよね!?潔癖症の男って本当に面倒臭い!量も少ないんだからだったら自分でやれって言ったら家事分担の意味が無いって!」
あたし「コバエのせいでケンカか……やたらと現実的だな」
友愛「同棲なんて現実ですよ。結婚生活もきっと同じ」
あたし「そっか……」
HALとあたしも、ケンカするのだろうか。
前回の同棲生活はホテルだったから、家事なんてない。
なのにあたしは、HALが起きる時間に起きれなかったりした。
あたしの方がダメ嫁じゃん。
もしHALがSugarみたいな人だったら、一日で同棲破棄されてたかもしれない。
あたし「いきなりキレるのはやだよね。仕事とかで疲れてたにしても、友愛だってバイトしてるんだし」
友愛「本当ですよ!何事も言い方ってものがあるじゃないですか」
あたし「だよね。体調悪くて家事出来なかったとかもあるかもしれないし。
言い方ひとつで全然違うもんね」
友愛「ですよね!?あーあ、HALさんが彼氏なんて愛美さん羨ましいなぁ…HALさんなら絶対怒らなそう」
あたし「怒りはしないけど、心の中ではどう思ってるかわからないけどね……」
友愛「HALさんなら絶対怒らないですよ。心の中でも」
あたし「それならいいんだけどね……何考えてるかわからないのが怖いよ」
友愛「HALさんが何も言わないからですか?」
あたし「そう。それもあるし、この前もデートドタキャンされたしさ。しかも前日の夜にだよ?」
友愛「ドタキャンは嫌ですね」
あたし「でしょ?まぁ他の人から風邪ひいたとは聞いてたけどさ」
友愛「そうなんですか。なら風邪ひいたって聞いたけど大丈夫?って聞けばすぐ答えてくれたんじゃ」
あたし「そ、そうなんだけどね……連絡したらウザがられそうで怖くてさ……」
友愛「愛美さんって」
あたし「え?」
友愛「可愛い」
あたし「どこが!?」
友愛「HALさんのこと、本当に好きなんですね」
あたし「え……?」
友愛「付き合って慣れてくると、そんな気持ちなくなっていきますよ。最初だけ、嫌われたくない、好かれたいって自分を演じるじゃないですか。こんなにも長く付き合ってるのに、未だにそんな気持ちがあるなんて羨ましいです」
あたし「それは……好きは好きだけど、自分に自信がないだけなのかも……」
友愛「なぜそんなに自信ないんですか?あんなにHALさんから愛されてるし、他の人からもモテモテなのに」
あたし「……わからないんだよね……」
自信がない。
モテモテ?
モテて喜ぶのは男の方だ。
女は、いくらモテても嬉しくない。
好きな人にだけ、モテていたい。
好きでもない男から言い寄られても面倒なだけだ。
断ったらどうせ手のひら返したように冷たくなるのが男だ。
あたし「なんでだろうね、どうしたら自信つくのかな?やっぱ全身フル整形すれば少しは自信持てるのかな」
友愛「あーでもわかります!私も整形したいとこいっぱいあります!」
あたし「どこがよ!?胸もあるしそんな可愛くて美人なのに!?」
友愛「普通に痩せたいです。医療ダイエットしたいです。あと二重アゴどうにかしたいし小鼻整形もしたいし」
あたし「ええ!?そのままで十分可愛いのに!?」
友愛「それは私から見ても同じですよ?愛美さんはそのままで綺麗なのに」
あたし「うーん。結局人間ってないものねだりなんだろうね。あたしは気に入らないとこ全部整形するとしたら500万ぐらい必要だもん」
友愛「なりものねだり、それはありますよね。でも今の愛美さんをHALさんは好きになったんだから、整形したらきっとHALさん悲しみますよ」
あたし「そうだと嬉しいんだけどねぇ」
あたしの自分の顔、体へのコンプレックスは最近特にひどくなってきた。
鏡を見るのがとても苦痛だった。
もっと顔がふっくらしてたらいいのに。
面長だから、縦に潰して短くしたい。
人中も長い。
唇も薄い。
二重幅もどうにかしたい。
胸を大きくしたい。
おでこを丸くしたい。
小顔リフトアップしたい。
涙袋のヒアルロン酸もしたい。
やりたい事だらけだ。
美容系YouTuberさんとか見てると、みんなやってる。
そして本当に可愛くなっている。
可愛くなった事で自信がついて、もっと輝いている。
……あたしも売れっ子YouTuberになりたいわ。
そこからずっと、Sugarの悪口やら
整形の話で大盛り上がりした。
やっぱり女同士の会話って楽しい。
こんなにもストレス解消になるんだ。
あたし「また遊ぼうね!」
友愛「もちろんです!今日でストレスの9割はなくなりました!」
二人とも、めちゃくちゃ元気になっていた。
これからは定期的に女子会しなくちゃ!