何を書いても誰かを傷つける。
それは私が責任をとるしかない。
誰も傷つけないように書くことはできない。
私が綺麗ごとを語っているうちは誰も振り向いてくれないが、私が「血の言葉」を吐くと、少なからぬ者が耳を傾けてくれる。

                                                ー  中島  義道  ー





リナに攻められ、涙が出てきた。

リナはやはり、悪魔の女だった。



五十嵐「まだー?」

リナ「もう行くわ」



リナはあたしの耳元で、小声で言った。



リナ「最後、決定的証拠撮る為に三人近づくわよ」

あたし「お、おけ…」



あたしは乱れたドレスを整える。

お風呂場からあたしとリナは出て、五十嵐の近くまで行った。



五十嵐「どうだった?」

あたし「……」



どうだったもこうだったもないわ。

やはりリナはとんでもない女だった。



五十嵐「俺もそろそろ仲間入りさせてよ」

リナ「先にシャワー浴びてきて。愛美はこれでも潔癖症なの」

あたし「これでもって」

五十嵐「了解了解。それにしても二人がそんな仲になってるとはね…いつの間にそんな事になってたんだか」

リナ「病院でアキラさんと愛美と会ったでしょ?あれからすぐよ」 

五十嵐「懐かしいな。リナあの時から愛美さんの事気に入ってたもんな」



満足そうに、五十嵐は一人お風呂場へ向かう。



リナ「……いいの撮れたわ」



リナは不敵な笑いをし、スマホを取り出し

誰かに連絡をしていた。

そうか。

この部屋の中にもたくさん監視カメラつけてるのか。

普通に考えて、ラブホに監視カメラつけてたらある意味犯罪だ。

リナはやはり、恐ろしい女だ……。



リナ「愛美は好きなように休んでて?冷蔵庫のもの勝手に飲んでもいいわよ」

あたし「ありがと」



リナは音を立てないよう、そっと玄関から出て行った。

あたしは冷蔵庫から、天然水のペットボトルを取り出した。

リナのせいで、声出しすぎて喉が痛い。

やはり風邪薬を飲んでおこう。

五十嵐のシャワーを浴びる音が聞こえる。

ふと、急にアキラの事を思い出した。

まなみとアキラが、ホテルに泊まった時のことだ。

あの時、アキラはめちゃくちゃ優しかった。

アキラのあの笑顔を思い出すだけで、胸がグッと締め付けられる。

アキラに会ったのは、ユニバに行った時が最後か。

でもあの時からアキラは、あたしがまなみに交代しないように……あたしと、距離を取っていた。



「あれ?リナは?」



五十嵐の声で、静寂が破られる。

出てくるの早くない!?

リナはまだ戻ってきてない……!



あたし「あ……まだみたい」

五十嵐「どこ行ったんだ?」

あたし「えっと……あ、あたしの為にコーヒー買ってきてくれるって!」

五十嵐「あぁそっか。愛美さんコーヒー好きだもんね」



上手く誤魔化した!

冷蔵庫の中には缶コーヒーは入っていた。

でもこれを突っ込まれたら、缶コーヒーは甘すぎて好きじゃないと言えばいい。

本当の事だし。

ん?

てか、何であたしがコーヒー好きなの知ってる……?



あたし「なんで五十嵐さんはあたしがコーヒー好きって知ってるんですか…まさかブログ読んでる?」

五十嵐「いいや?組織の中では愛美さんイコールコーヒーって有名だし」

あたし「それあたしがコーヒーになってるやん。
あたしイコールコーヒー好き、ならわかるけど」

五十嵐「そうそう。コーヒー好きね。あとはイケメン好き」

あたし「変な噂だけは流れてるんですね」

五十嵐「イケメン好きじゃないの?」

あたし「大好物ですけど」

五十嵐「もっと噂はたくさんあるよ?風愛友とHALさんとアキラさんをたぶらかした真性の悪女だとか」

あたし「な!?あたしはリナのほうがよっぽど悪女だと思いますけど!?」

五十嵐「まあリナはバイだからね。でも愛美さんまでバイだったなんて思わなかった」

あたし「い、いや、元々っていうかリナに開発されたってだけで」

五十嵐「やっぱ女同士って気持ちいいの?」



五十嵐があたしの隣に座った。

しかも上裸で!!

下半身にはタオル巻いてるけど、思わず蹴り入れて逃げそうになるのを抑えた。

それでも気づかれないよう、ちょこちょことお尻を動かして距離をとる。

気持ちいいも何も……。

本当にリナに目覚めてしまいそうだった。

やっぱこれってHALを裏切ったことになるのかな……。



あたし「女同士ですからね。わかるんですよ。どこが気持ちいいとか」

五十嵐「そうなんだ。俺も結構上手いと思うけど…リナが戻るまで試してみる?」



思わずグーパンが出そうになるのを、必死で堪えた。

早くリナ戻ってきてよー!!

ジリジリと距離を詰めてくる……!

ここはあたしの必殺技を出すしか!



あたし「てか、奥さんにバレてないんですか?リナとの事」

五十嵐「バレてるよ?」

あたし「そんな普通に」

五十嵐「でも別れられない。別れられるはずがない。奥さんは奥さんで俺の稼いだ金で好きなように生きてるし」

あたし「お金目当て……ですか」

五十嵐「そういうもんでしょ。俺の稼いだ金なのに整形するわ、ブランド物買いまくるわ、ホストに貢ぎまくるわ。いくら稼いでも湯水のように使いやがる。俺の方が別れたいぐらい」

あたし「ホスト……!?どっちもどっち、って感じですかね」

五十嵐「離婚も金かかるからしてないだけでさ。向こうも俺がこうやって好き勝手やってるの探偵つけて証拠取ってるし。俺が慰謝料請求される側になるもん。こっちも証拠取らないとな」

あたし「……」



寂しくないのかな、そんな結婚生活。

お金目当てだなんて……。




五十嵐「愛美さんもHALさんのお金目当てなんじゃないの?だから風愛友から乗り換えた。みんなそう思ってるけど」

あたし「はあ!?そんなわけあるかい!誰だそんな噂立ててんの!!」

五十嵐「違うの?」

あたし「詳しくはウェブで!」

五十嵐「愛美さんのブログやたらと長いから無理無理。あんな長いの読めないよ」

あたし「いちいち腹立つなー!」

五十嵐「まあまあ。そんな事よりさ……」

あたし「ひぃっ!?」



五十嵐の手があたしの肩から胸に……!!



あたし「死ねっ!!」

五十嵐「ぎゃっ!?」



思わず顔面にパーで殴ってしまった!!

ほっぺじゃなく、鼻!!

やっちゃったぁぁぁ!!

と、その直後誰かの声が!!



??「はい!バッチリおさめた!!」

あたし「だ、だれっ!?」

五十嵐「な……!?」



見ると笹野がカメラをこちらに向けていた!!

笹野の背後からは、黒幕のリナが登場!



あたし「また笹野!!」

笹野「またって」

リナ「監視カメラもバッチリ撮れてた。ほら見て?美しいでしょう?」

五十嵐「な、何を……!?」

リナ「すっとぼけないでくれる?私を散々弄んだ罰よ」

五十嵐「……!」

リナ「さぁ。あなたの陰謀、全て吐いて貰おうかしら?HALさんの病院で何を企んでいたのか。今日の画像データは全て送信済みよ?」

五十嵐「……ふっ。とうとうシッポを出したか。ドブネズミめ」

リナ「どっちがドブネズミよ。私の体を散々舐めまわしてきたクズ男が」

五十嵐「何を企んでたかって?何も企んでないよ。ただの女遊びしてただけ」

リナ「この画像、HALさんに見せても?HALさんブチギレるでしょうねぇ?」

五十嵐「……それはリナも同じ穴のムジナだろ?」

リナ「ふふふ。愛美が私とデキてるっていうのは真っ赤なウソよ」

五十嵐「は?」

リナ「HALさんにバレたら速攻あなたはクビ。他の病院に転職すら出来ないように手回しされるかもね?HALさんって怒らせると怖いの、知ってた?」

五十嵐「……で?何を聞けば気が済むんだ?」

リナ「河野派と鷹派。あと他にも使われてるんでしょう。全員繋がってるの?それとも別々に依頼を請け負ってるの?」

五十嵐「……ふっ」



五十嵐は立ち上がり、すぐにシャツを着始めた。

こんな大ピンチな時なのに着替えるなんて、五十嵐もなかなか肝っ玉が座っている。


五十嵐「リナと同じだよ。あちこちから別々に依頼されてる」

リナ「なるほどね?で、Lowyaからは?」

五十嵐「Lowyaからは何も。Lowyaの狙いはHALさんじゃないからね」

リナ「……え?」

あたし「な!?」



Lowyaの狙いはHALじゃない……!?