友だちをその数の多さだけで誇れるものではないように、恋愛やセックスも、その数の多さだけで誇れるものではない。

                                     ー  池田  晶子  ー






15時22分。

リナの家に16時集合だったのに、

もんの凄く早く着いてしまった。

首都高上りが事故渋滞を起こしてると、佐藤が焦って飛んできたのだ。

あたしも焦って準備してすぐに家を出たけど

その頃には事故の片付けかなんかも終了してたらしく、ガラッガラだった。



あたし「あと30分か。どこかカフェに行きたいけど、たったの30分でカフェっていうのも微妙なんだよね。一時間あるならいいけど」

佐藤「近くにカフェありますよ。持ち帰りして車の中で待ちますか?」

あたし「うーん……でも並んでるからな。
自販機のコーヒーでいいや」

間宮「愛美さんって本当に面倒臭がりですね」

あたし「ちょ、何その言い草!?一応これでも君たちに気を使ったっつーのに!」

間宮「なぜ気をつかったんですか」

あたし「いちいち面倒じゃん!混んでるとこならんでコーヒーテイクアウトとか!
だったら自販機のほうが一瞬で終わるじゃん!」

佐藤「気遣わないで大丈夫ですよ。カフェまで行って買ってきますよ」

あたし「いや、ホントにそこの自販機でいいよ。待つのもめんどくさい」

間宮「待つのも面倒臭いって末期症状じゃ」

あたし「もーいちいちうるさいなぁ!今すぐ飲みたいんだもん!」

間宮「駄々っ子ですねぇ」



駄々っ子なんて初めて言われた。

なんかショックだ。

近くの自販機まで、三人仲良く行って缶コーヒーを買い、車の中に入った。



佐藤「今日はリナさんと何をするんですか?」

あたし「……言ってもいいのかなぁ」

佐藤「言うべきでしょう。こちとら愛美さんのSPですよ?」

あたし「……リナとあたしと五十嵐とホテル行く……」

佐藤「はい!?」

間宮「いがらしって女ですか!?男ですか!?」

あたし「……男」

佐藤「何をしに!?」

あたし「証拠取って、五十嵐を脅すんだってさ」

佐藤「な!?HAL様はその事」

あたし「知ってるよ」

佐藤「な……!」



そりゃ、驚くだろう。

HALも了承済みだなんて。

何とかして、あたしはあたしの身を守らなければ。



間宮「襲われないよう気をつけて」

あたし「当たり前」

佐藤「本当に愛美さんって巻き込まれ体質ですね…」

あたし「ほんとそれ」



なんでいつもこんな目に遭わないといけないのだ。

指一本触れさせないようにしないと。

だけど最初から嫌悪感丸出しにしてたら、五十嵐を騙せないだろう。

ある程度「隙」を見せないと……。

出来るのか?このあたしに。



間宮「五分前ですよ」

あたし「……行くか」

佐藤「どうかご無事で」




一応、安定剤を飲み込んだ。

風邪はだいぶ良くなっていて、上気道炎で済んだらしい。

咳も出ないから気管支炎にはなってないだろう。

風邪薬を飲むのはやめておいた。

佐藤と間宮を引き連れて、リナの城の門前まで来た。

チャイムを押すと、何台かの監視カメラが自動的にこちらを映す。

……どうもこれ、慣れないんだよな。



間宮「ミッション成功を祈ってます」

あたし「ありがと。リナから何か指図があったらすぐ連絡するね」

佐藤「了解しました」



門が開く。

中には、懐かしい顔が!



あたし「栞さん!」

栞「……」



栞さんが恭しく、美しい所作でゆっくりとお辞儀をした。

そうだ。

栞さんにこの美しい動きを教わらないといけないんだ。

HALに似合う女になる為に!



栞「お久しぶりです。行きましょう」

あたし「おひさ!おけ!」

栞「おひさ……?」



しまった!

早速お上品な言葉遣いが出来ないと来たもんだ!



あたし「おおおお久しぶりです」



そう言えば昔、HALと風とあたしで、外国に行く優を送りに成田空港のホテルまで行った時だ。

HALに「愛美さんって言い方が軽いですね」みたいな事を言われてた。

あの頃はHALの事好きでもなかったから、何も飾ることなく言い返していた。

……好きでもなかった?

いや、物凄く気になっていた。

「今度お見合いをするんです」と聞いた時

あたしはかなり、狼狽していた。

お見合いなんてしないで。

婚約なんてしないで。

結婚なんてしないで。

……本心は、そう思っていた。

胸が、ギュッと苦しくなる。

栞さんに案内をされ、普通の真ん中の豪邸に連れていかれた。



リナ「来てくれて良かった」



リナは相変わらず、妖艶な美女だった。

看護師局長?とは思えないほどに、禍々しいオーラを放っていた。

なんであたしの周りにはこんな美女しかいないのだ。

自信がどんどんなくなっていく。



リナ「愛美、これに着替えてくれる?完全に私の趣味なんだけど…」

あたし「お、おぉ……!?」



パーティードレスだ。

ラブホに行くのに、パーティードレスか。

しかもミニスカート。

確かにこれはエロい。

ただ肩が出てるから、胸がないのがバレバレだ。

絶対に自分ではチョイスしない洋服を手渡された。



あたし「……ここで着替えるの?」

リナ「いや?」

あたし「恥ずかしいです。胸ないし」

リナ「恥ずかしがる愛美……可愛い」

あたし「いやいやいや……」

リナ「わかった。向こう向いてるから着替えちゃって?」

あたし「入るかなぁ……」




あたしはいつも、ゴムで伸び縮みするような洋服ばかり着ている。

たまにはジーパンとかもはくけれど、このドレスは伸び縮み絶対しない。

無理やり腕を入れたらビリッ!と破れてしまうだろう。

こんなの着たことないや……。

でも、HALと結婚してパーティーとかでこういうドレスを着ることもあるだろう。

慣れなくては!



あたし「あ、あの、リナ……?背中のチャック上がらない」

リナ「ふふふ。可愛い」



しっかり向こうを見て優雅に紅茶を飲んでいたリナは立ち上がり

あたしの後ろに立った。

チャックを上げてもらい、後ろからネックレスをつけてくれた。



リナ「素敵……愛美、いつもドレス着てて欲しい。凄く似合う」

あたし「あ、ありがと」



更に香水を噴きかけられた。

めちゃくちゃいい香りだ。



リナ「香水はね。男の性欲を駆り立てるものよ?」

あたし「そ、そうなの……?」

リナ「できるだけ、同じ香水をつけるのがいいわね。香水を自分の存在と同化させるの。
そうしたら、その香りを嗅ぐたびに男はしたくなっちゃうから」

あたし「いや、五十嵐にそんな刷り込みしたくないんだけども」

リナ「確かにそうね。じゃ、HALさんと会う時は必ず同じ香水つけなさい?」

あたし「う、うん」



HALに貰った、Shiroの香水を毎回つけよう。

確かにHALの言うように、お値段がリーズナブルだけに

Shiroの香水は匂いの持ちが、かなり悪い。

マメにつけなくちゃ。



リナ「……そろそろ時間ね。じゃ、出発しましょう」

あたし「あ、佐藤と間宮は?」

リナ「別に来てもいいけれど、五十嵐にバレないように。近くの駐車場で待たせたら?」

あたし「お、おけ」

リナ「愛美は私の車に乗ってって」



ラブホの地図のリンクを、佐藤たちに送って

「この近くに待機してて。絶対出てこないで」と付け加えた。



あたし「さ、作戦は?」

リナ「車の中で説明する」

あたし「了解……」



嫌だな。

今日一日が一瞬で終わればいいのに……。