恋なしに、人生は成りたたぬ。
所詮人生がバカげたものなのだから、恋愛がバカげていても、恋愛のひけめになるところもない。

                                         ー  坂口  安吾  ー






あたし「うんまっ!?」



あたしの目の前には、待ちわびた豚骨ラーメンがあった。



風「味わかるの?風邪ひいてるのに」

あたし「鼻詰まってないからね。あー、チャーシュー追加すれば良かったなぁ」

風「俺のあげようか?あんま食欲なくて」

あたし「ちょ、大丈夫?風こそ風邪うつってないよね?風邪うつしたらHALに殺されちゃうよ」

風「風邪じゃないよ。メンタル的にやられた」

あたし「な、なんで!?」

風「Lowyaがめちゃくちゃイケメンだったから」

あたし「どゆこと!?」

風「あんなにイケメンだとは思わなかった」

あたし「……」

川嶋「ずっとイケメンイケメン言ってるけど、サングラスかけてるからイケメンかどうかわからないですけどね」

風「いや、あれはイケメンだった……サングラス取って目が一本線なみに細くてもイケメン」

あたし「一本線って」

工藤「まぁ……背も高いしロングコートも似合ってたし。かなりイケメンオーラは醸し出してましたよね。俺は背低いからそれだけで羨ましいですよ」

笹野「確かになんか二次元的な感じだったね。普通に犯人としてテレビ報道されてもファンがたくさん出来そう」

あたし「そ、そーかな?そんなでもなくない?HALや風のほうが断然かっこいいし」



あたしも「イケメン」には大賛成だった。

でもあまりにも風がショックを受けてるから、イケメンだよね!なんて言えなかった。



あれからLowyaと政治家らしき人たちは、普通に帰って行った。

警察も動かなかった。

いや、動けないと言ったほうが正しい。

何も罪は犯してはいない。

ただホテルのカフェで、会話しただけだ。

過去に何処で、誰と、政治家たちと悪いことをしてたとしても

証拠がない。

証拠もないのに、現逮なんてできるわけが無い。

そして学長に軽くお小言を言われてから、あまりにもAチームメンバーたちが怯えていたものだから

すぐに現場解散になった。




あたし「結局、学長はこの作戦で何をしたかったのかな」

風「Lowyaとの会話を聞く限りでは、HAL派だった政治家たちがLowyaと繋がってるって証拠を取りたかったのかな?」

工藤「どうでしょうね。Lowyaが現れるとは思ってもなかったように見えましたが」

笹野「雄大さんはそこまで考えてなかったよ。鷹派と河野派があそこのホテルのカフェで落ち合って、その後ホテルのレストラン予約してたからね。要するに賄賂でしょ」

あたし「出た。政治家あるある。賄賂って銀行振込すると足がついちゃうから現ナマで渡さないといけないんだよね」

笹野「そう。でもそれだけじゃないんだよね。Aチームメンバーを配置して、賄賂を阻止しようとしてたんだと思うよ」

風「て事は、やっぱりあそこにAチームメンバーがいるってバレるようにしてたって事ですか?」

笹野「そこまでは聞いてないけど、AチームというよりHAL派はこんなにいるよって脅しをしようとしてたんじゃないのかな?」

男B「でもLowyaはHAL派ではなく、Aチームだと見抜いていた……かなりLowyaもこちら側に詳しい人物って事ですね」

あたし「あ、あの、自己紹介してもらってもいいですか」

男B「あぁ。俺もついに愛美さんのブログデビューするんですかね?光栄です」

あたし「いや、今もう、ブログ全然書いてないし……単に名前わからないと不都合なだけで」

男B「あぁ、そうなんですか。俺はリベルテ品川区所属、社会人メンバーのふるやです」

あたし「ふるやさん、古いに屋敷の屋ですか?」

風「愛美、やっぱブログに書くんじゃん」

あたし「いやいや、漢字知りたいだけだし」

ふるや「古いに、谷ですよ」

あたし「古谷さん……よろしくです」

古谷「よろしくです。安心してください。HAL派ですから」

あたし「そりゃそーだ。これで俺は河野派ですなんて言ったら今すぐ拘束するわ」

古谷「ブフッ!そうですね」

笹野「それにしてもここのラーメンめちゃくちゃ旨いな!」



あたしはあれからラーメンが食べたくて食べたくて

別に笹野たちと一緒にいたかったわけではないけれど、ついてくことにした。



風「本当に愛美、Lowyaに心当たりないの?約束の場所で会おうって言ってたけど」

あたし「声は確かに聞いたことあるんだよねぇ。
でも誰かと約束したって事もないし…」

笹野「声聞いたことあるの?」

あたし「うん……なんとなく」

笹野「なのに思い出せないの!?」

あたし「う、うるさいなぁ。あたし記憶力だけは自信ないんだから」

風「記憶……消えてるとか……?」

あたし「うーん……」

風「織田和樹……キラの頃に、Lowyaと会っていたってこともない?」

あたし「その頃まで遡ると完全に自信ないわ」

工藤「まぁ、そのうちわかると言ってたし。あまり考え込むとラーメン伸びますよ」

あたし「確かに!早く食べよ!」

風「はぁ……イケメンだったなぁ……」



風はやたらと落ち込んでいた。

確かにイケメンではある。

サングラスで目は見えなかったけど。

だけどLowyaのせいで、和樹が殺されたとか、たくさんの人が犠牲になったと思うと

やはり、許せない気持ちもある。



帰りの高速はすいていた。

流れる夜景を見つめていたら

だんだんと、Lowyaの事なんてどうでも良くなってきていた。

そんな事より、HALの体調は大丈夫なのだろうか。

LINEをしようとしたけれど、仕事で忙しいし体調も悪いのに申し訳ないからやめといた。

4月15日に、HALとデートする約束してたけど大丈夫なのかな。

ふと、LINEを見ると大志からきていた。



大志「無事帰れた?」
大志「まさか堂々と出てくるとは思わなかったから焦ったよ」
大志「ゆっくり休めよ!」



既読つけたものの、返信する気力もなくて、そのままLINEを閉じた。

ラーメン食べたあと風邪薬飲んだけど、めちゃくちゃ喉が痛いし頭もボーッとする。

風邪ってムカつくなぁ。

風は隣で爆睡していた。

咳もクシャミも出てないし、チューしたわけじゃないから風邪うつしてないよね。

白血病なのに風邪なんてうつせない。

真っ直ぐ帰宅して、お風呂に入ってすぐに就寝した。



20XX年 4月13日



昼過ぎまで爆睡していた。

昨日より断然、体調が悪い。

風邪ってこんなにも嫌なものだったっけ。

HALからもLINEが来ていない。

昨日Aチームの作戦だったから

「大丈夫でしたか?」ぐらいは来てても良さそうなのに。

HALにとって、あたしはそこまで大事じゃないのかな?

やばい。

どんどんネガティブ思考になっていく。

こんな時は何も考えずに寝るべきだ。

風や友愛からもLINEが来ていたけれど

大した用事ではなかったから、既読つけて寝てしまった。

一日中寝てれば治るだろう。

こういうメンタルもフィジカルもズタボロな時は、寝るに限る。



20XX年 4月14日



寝起きは最悪だった。

でも、起きてコーヒー飲んだら、ガラガラの喉がだいぶマシになった。

良かった。

ずっと家でダラダラしてたから、たまには夕飯作ろう。

母親はパートに行ってていない。

そうだ、早川さんに貰ったお金を渡さなくちゃ……。

風邪薬を飲んでだいぶ体調が良くなった隙に、前のバイト先のスーパーへ向かった。

知ってる人が何人か働いてるけど、ここのスーパーはめちゃくちゃ売れてるから

バレずに上手く、買い物が出来た。

シチューとハンバーグとサラダにしたいけど、レタスがやたらと高い。

お惣菜のサラダでいいや。

ここのお惣菜はとてつもなく安いのだ。

なんなら、シチューとハンバーグを作らずに全部お惣菜にした方が安いぐらいだ。

いやいや。

花嫁修業として、しっかり作らなくちゃ!

HALはハンバーグ、大好きだもんな。

シチューを食べてるとこ見たことないけど、フランス料理の変な白い冷製スープとか好きだから

シチューもきっと好きなはず。

「愛美さんの作るシチューが世界一美味しいです!」

HALの笑顔を想像しただけで、口元が綻んでしまう。

綻ぶどころか、一人でニヤニヤしていた。

おっと、危ない人だと思われる。

サクサク買って帰宅しよう。

お惣菜のサラダを手にした時

焼肉弁当が目に入った。

ジェイルと初めて会った時のお弁当だ!

懐かしいな。

鈴木くんとジェイル、なんだかんだ言って

三人仲良しだったよな。

ふと、周りを見渡した。

鈴木くんはまだ入ってる時間帯ではないか。

ジェイルもここを辞めてしまった。

あたしも早く、就職先見つけないと…。

佐藤も間宮も今日はいない。

風邪ひいてて、何処にもいかないから休んでていいよとLINEしといたから。

佐藤も間宮も心配してくれたのに

HALだけは何もLINEしてこない。

……なんでさ。

冷たくないか?

明日デートの約束してるのに、何時に行きますとか

体調悪いのでデート出来ませんとか、なんの連絡もない。

とはいえ、HALも体調悪いんだっけか。

「体調悪いの大丈夫?明日やめにする?」とLINEしないあたしもあたしだ。

自分からLINEするのが、負けた気がして嫌だった。

一人で自転車に乗り、帰宅した。

SPのついてない、サイクリングは久しぶりだった。

ちゃんと付いてきてくれてるかな、と何度も振り返らずに済む。

……それが、とても寂しく感じていた。

シチューとハンバーグを無事に作り終え、

お母さんとあたしで、仲良く食べた。

お父さんは飲みがあって遅いらしい。

寝る直前、お母さんにお金を渡そうと息巻いていたのに

あたしがお風呂から出るとお母さんはソファーで爆睡していた。

……明日でいいか。

自宅の部屋に入ると、HALからLINEが来た!!



HAL「すみません、体調崩してしまい、明日のデートはなしでもいいですか?」



あたし「…………」



ムカつく。

遅すぎる。

もう22時過ぎてるんだよ。

既読はつけないで、未読のまま布団に潜り込んだ。

これが、せめてもの復讐だ。



20XX年 4月15日



HALとデート……だった日。

中止になったけど。

11時に起きて

「ごめん!寝ちゃってた!」
「体調大丈夫!?」

とHALにLINEをした。

本当は昨日、ネガティブモードに入ってて3時過ぎまで寝れなかったんだけど。

今初めて見たかのように送った。

コーヒーいれてボケーッとしてると、すぐにHALから返信が!



HAL「申し訳ないです。愛美さんも風邪だと聞きましたが大丈夫ですか?」



気遣ってくれた!

もしかして、今日デート行けるかもって

昨日の夜ギリギリまで悩んでたのかな……。

そう考えたら、急に申し訳なく思えてきた。



あたし「大丈夫だよ!HALもあまり無理しないでね?」

HAL「ありがとう。風邪治ったらいい所に連れて行きますね」

あたし「うん!待ってる!」



いい所だって!

いい所なんて行かなくていい。

一緒にいられれば、本当にどこでもいい。

あー。あたしってゲンキンな人間だ。

一気に嬉しくなっていた。

HALとのトークルームを閉じたら、リナからLINEが来ていた。




リナ「明日は16時に私の家に来て」




そうだ。

明日は五十嵐とリナとあたしでラブホに行く日だ……。

って、この一文だけ見るととんでもない事書いてるけれども。

あたしたちがハメられる日ではなくて

五十嵐を、嵌める日だ。

HALを裏切らないように気をつけなくちゃ。

そして、五十嵐に嘘がバレないようにしなくては。