殺人でさえも大目に見、犯人の釈明を聞き入れることがあるかと思えば、もっとちっぽけな、けちな犯罪に腹をたてるってこともありうる。

                                      ー  コナン・ドイル  ー





真犯人Lowyaは、仲間にいる。

Jたちと別れて、帰宅して考えていた。

この話を鵜呑みにしていいものだろうかと。

もしもJ達の誰かが、Lowyaだとしたら?

この情報は、逆転してしまうのだ。

J、本橋、Lily、アッキーナだけではなく

男性以外、つまり

リナ、友愛、夢叶たちまでが犯人の可能性が出てくるから。

更には男性で、当てはまらなかったレイジや、ジャック達まで犯人の可能性として入ってくる。

そこまで考えると、また振り出しに戻ってしまう。

あたしは疑心暗鬼になっていた。



そもそも、Lowyaはなんの犯人なんだ?

人殺しはしていない。

あたし達の仲間を、傷つけたこともない。

傷つけたのは、キラである和樹だ。

そして、上の組織だ。

Lowyaは何も、手出しをしていないじゃないか。

逆に言うと、レイプされそうになったあたしを助けてくれた恩人である。

義賊だとか、上の組織の陰謀とか、そんなの抜きにしてみたら

Lowya捜しというものは、とても意味のない事に思えてきた。

誰のことも信じられないのなら、そんな探偵は

もはや探偵ではない。

もう推理ごっこをするのはやめよう。

Lowyaはそのうち動くと聞いた。

それならそれを待てばいいだけじゃないのか。

LowyaがHALに何かを仕掛けてきたら

その時に対策を練ればいいだけの話ではないか。

考えすぎたら一気に脳がスパークし

思考停止をした。

考えたって、どうにもならないと。



20XX年 4月9日




今日は早速、ハローワークで見つけた正社員の面接だった。

「看護師になりたい」
「カウンセラーになりたい」
「学校の教師になりたい」
「苦しんでる子供たちを救っていきたい」

そんな夢は、とうに消えてしまった。

大学を中退してしまったのだから…。

将来の夢なんて言ってられない。

今は生きるために、お金を稼がなければいけないのだ。

近くのショッピングモールのテナントの、時計屋さんの面接に行った。

「申し訳ないのですが、大卒の方じゃないと……」

秒で落ちた。

え?

ハローワークでちゃんと条件絞っていたのに?

普通、面接の合否って後日電話や手紙が来るとかじゃないの?

そんなにあたしの顔と態度が気に食わないの?

こんな小さな時計屋さんのくせに、大卒しか取らないの?

ふざけんな。



あたしの心の中は、大しけだった。

ゆうてそこまであたしも時計大好きっ子でもない。

それを見抜かれてしまったのだろうか。

変なプライドが打ち砕かれ、あたしはトボトボと帰宅した。

……なんか、鬱。

もう家でグダグダしよう。

猛烈にやる気が出ない。

生理前だからか。

部屋でコーヒーを飲みながら、ブログを書いていたけれど全然筆が進まない。

コーヒーを飲む度、喉に違和感を覚えた。

やばい、風邪ひいたかも。



ブブブッ!



LINEが来た!

HALからかな!?

意気揚々と見たら、リナからだった。



リナ「作戦決行日は4月16日で宜しく」



あたし「…………」



あたしの都合は無視かい。

そりゃさ、リナの方が忙しいさ。

ティンクとかいう金儲けの組織の頭と、巨大病院の看護師長だもんね。

あたしなんて無職、ニート。

あたしがリナの都合に合わせるのが、至極当然である。

HALから最近、連絡ないのも相まって

鬱々としながら一日が終わった。



20XX年 4月10日



喉が痛ぁぁぁぁぁぁい!!

最悪な目覚めであった。

起きたら喉がカラッカラに渇いていて、猛烈に痛かった。

しかも外は大雨で、部屋も真っ暗。

LINEを確認しても、HALから連絡もない。

あさってはAチームの作戦決行日だというのに、あたしのLINEは静かだった。

なんて日だ!!

生理前でただでさえ鬱っぽいというのに

面接は秒で落ちるわ、HALからデートの誘いもないわ、

Aチームの重要ミッションの詳細すら来てないわ、外も大雨でどこにも行けないわで

風邪ひくわでこれでやる気漲る一日をどう過ごせと!?




起きてリビングに行くと、母親はパートに出てていなかった。

真っ暗な、リビング。

あたしはテレビもつけず、音楽を流した。

コーヒーを飲んだら、喉の痛みはかなり治まった。

だけどちゃんとイソジンでうがいをして、風邪薬飲んどかなくちゃ。

風邪薬はどこかな。

風の家ならすぐに見つけられるのに、なぜかあたしは自分ちの風邪薬はどこにしまってあるのかわからなかった。

と、風のことを思い出した瞬間に風からLINE通話が鳴った。




あたし「もしもし?今ちょうど風の事考えてた!」

風「おお、すげー!さすが運命の人!」

あたし「う、運命って。テレるからやめい!で、どしたの?」



風はだいたい、用事がある時は必ずLINEメッセージを送ってくる。

いきなり通話をしてくる事は少ないから、不思議に思った。



風「あー。あさってどうやって行くのかなって」

あたし「え?あ、Aチームの作戦ね。確かNグランドホテルの4階ロビーに集合だったよね。
工藤と川嶋が連れてってくれるらしいから風の家に迎えに行くつもりだったよ」

風「え、そうなんだ。それはありがたいかも!でも俺12日は部活休むからさ、俺が先に愛美んち行ってもいいかな。クラスメイトに見つかったらやばいから」

あたし「あ、部活休むのか。新学期早々大変だね」

風「まあね。春季大会あるしあんま休めないんだよね」

あたし「休むくせにね」

風「そう。休めないのに休む!」

あたし「部活は置いといて、作戦が終わったら本当に受験勉強してよね!?」

風「わかってるって。塾も始まるし。塾はめっちゃお金かかるからさすがに休めないもん」

あたし「だよねえ。学校はタダなのにね。タダで学べれば一番いいんだけど、風の学校かなりレベル低いらしいしね。
あたしの時代も学力テストで一番低レベルとか言われてたし、なんか皮肉だな」

風「生徒が授業妨害ばっかだもん。先生だって教えたいのに注意する方が多くて全然授業進まない」

あたし「それを保護者たちは先生のせいだ、学校が悪いって文句言うんだもんね…なんか中学の先生たちって大変だわ」

風「ま、今は俺12日の作戦が一番大事だから!作戦が終わったらちゃんと受験勉強に専念するよ」

あたし「うん!とりあえず当日はヘマしないようにしないとね」

風「もち!じゃ、あさっては何時に行けばいい?」

あたし「14時前かな?何時でもいいよ。川嶋たちが来るのが13時45分だから」

風「じゃ、13時30分に行く!」

あたし「おけ!じゃ、またね」

風「ほーい」



風は風邪もひいてなく、元気そうだ。

こんな暖かい時期に風邪ひいてるのは、あたしぐらいだろう。

昨日のJたちとの話を言いたくなったけど

そんなの聞いたら、また風は勉強ほっぽり出して推理しだしてしまう。

推理の達人とも言える風に言わず、グッと我慢するのが辛かった。

それにしても、塾通うのか。

お父さんとは仲直りしたのかな。

……風の心配してる場合じゃないか。

作戦決行日までに、風邪薬飲んでしっかり休んで治さなくちゃ。