楽観的であれ。
過去を悔やむのではなく、未来を不安視するのでもなく、今現在の「ここ」だけを見るのだ。

                                ー  アルフレッド・アドラー  





「なんで風は志村なんとかって人の事知ってたの?」



あたしはコップに氷が四個入った

キンキンに冷えたお冷を一気飲みしてから聞いた。

うぅ、アイスクリーム頭痛が!



風「スープラのナンバープレートの写真撮ってんだよ、最初に忍び込む前に。
そんでそれをJさんに送って持ち主調べてもらった」

あたし「Jに!?じゃ、あたし達がここに忍び込んだのバレちゃった!?」

風「バレちゃった。焦ってたからJさんに内緒ってこと忘れてた……」

あたし「HALは!?HALにばらさないよね!?」

風「焦ってたから極秘で調べてください!って言ったから……たぶん言ってないんじゃない?
わからないけど」

あたし「んな適当な」

風「カップヌードル食べてる時に返信きてこっそり確認して、この施設は怪しいって確信した」

あたし「施設として国に届けてないで施設やってたとしたら、とんでもない罪になるんじゃない?脱税とかさ」

風「俺も大人の事情はわからないけど、法には引っかかりそうだよね。
しかも政治家から大金を毎月貰ってたとしたら河野達も大変な事になるんじゃないかな」

あたし「そこら辺の事情はJは教えてくれなかったの?」

風「うん。他の調査が溜まりまくってるから遅くなるってさ」

あたし「そりゃそうだよね。情報管理センターで本当に稼働出来てるのってJと本橋ぐらいだもんね」

風「人数少なすぎだよね。お!これガチで美味い!」



風は巨大バナナパフェを、幸せそうに頬張っていた。

あたしは、車酔いしかけてあまり食欲はなく

小さいチーズケーキとホットコーヒーだけ。

あれから佐藤と間宮の車に駆け込み乗車し、

施設と反対方向へかっ飛ばして逃げたから山を二つぐらい乗り越えた。

おかげさまでとんでもなく遠回りをし、

三時間かけてようやく高速のサービスエリアについたのだった。

あたしと風はカップヌードル食べてたけれど

佐藤と間宮は行く途中に買った、菓子パンとおにぎりしか食べてなかったらしい。

燃費悪い巨体だから、若干やつれた顔であたしたちに確認もせず

サービスエリアに停めて半ば強引にレストランに連れ込まれた。

フードコートで良かったんだけどな。

レストランだと小さいテーブルと椅子に巨体だから

とんでもなく狭い。

巨体二人が横並びに座れないから、あたしの隣には間宮。

向かいに風、風の隣には佐藤が座っていた。

隣で必死で生姜焼き定食にがっついてる間宮の、圧迫感が果てしない。

動く度に間宮の腕があたしに当たりそうになるから、少し椅子ごとズレて避けていた。

食べるの早いわりに、おかわりでまたラーメンを頼んでいたので

デザートだけ頼んだあたしは暇を持て余し、目の前のテーブルを拭き拭きしていた。

あ、そうだ。大志からのLINE見ていなかった。

トーク画面を開く。



あたし「ごめん!昨日何してたか覚えてる?」

これに対しての返信は

大志「まじかよ。また忘れたの?笑」
大志「普通にH駅降りてメシ食べてカラオケ行って帰ったじゃん」
大志「ほんとはパチンコ行きたかったけど愛美が嫌がるからさ」

だった。

ちゃんと夕飯食べてたのか。

カラオケ行ったのは全く覚えてないや。



あたし「記憶にないやw」
あたし「ごめんね、夕飯代とカラオケ代、私ちゃんと出した?」
あたし「ニートの分際でパチンコなんて行けるか!」

そう返信した。

間宮はラーメンを食べ終わり、ようやく会計するのかと思いきや

デザートメニューを見始めていた。



あたし「ちょ、この期に及んでまだ食べるつもり?」

間宮「この期に及んでって。ご飯の後はデザートでしょう」

あたし「ま、別に待ってるからいいけど明日から風は始業式で朝早いんだよ?」

間宮「あ……そうですね」

風「いや!大丈夫ですよ!デザート食べるのなんてたかが10分ぐらいですよね!頼んじゃってください!」



間宮がメニューを仕舞おうとしたから、風が止めた。

風は優しいな。

あたしも実は明日信用管理センターの人達と会うから朝早いなんて言えなくなってしまった。



佐藤「とはいえ、高速が渋滞してますね。
なるべく早く出ないと。あ!愛美さんのお母様にお土産買わないと!」

あたし「ええ!そんないいのに!」

佐藤「いつもお世話になってるので」

あたし「まぁいいけど……あ、渋滞してるならトイレ行っとこうかな」

風「確かに。俺も行こうかな」

佐藤「じゃ、護衛しますよ」

あたし「トイレ如きで護衛なんて恥ずかしいのだが」



結局、キラキラ目を輝かせてデザートを食べ始めた間宮を置いてあたしと風と佐藤はトイレに行き、

自販機であたしは缶コーヒーを買い、三人仲良くお土産コーナーへ向かった。

お土産を払う時、珍しく佐藤は現金で支払っていた。



あたし「カードは?止められちゃったの?」

佐藤「そんなバカな。お土産は自分のお金でちゃんと買いたいだけなので」

あたし「あ、そっか。カードはHAL名義なのか」

佐藤「はい。それにHAL様には内緒でここまで来ているので。
カード履歴でなんで千葉県で買い物を?ってバレてしまいます」

あたし「あの大金持ちのHALがいちいちカード利用明細書なんてチェックしないと思うけど」



でも、Jは本当にHALに言ってないのかどうか。

河野の秘書の志村という車のナンバーを調べたこと。

あたしたちがHALとアキラの施設に忍び込んだこと……。

バレていなければいいんだけど。

政治家たちの裏で何が起きているのか。

HALとアキラを育てた両親はこれからどうなるのか。

上の組織の派閥抗争はどうなっていくのか。

そして

あたしの記憶障害。

暗くなった空を見つめながらあたし達の未来は、これから恐ろしい事になっていくのではないかと

不安になっていた……。