殺人でさえも大目に見、犯人の釈明を聞き入れることがあるかと思えば
もっとちっぽけな、けちな犯罪に腹をたてることもある。

                                                ー  コナン・ドイル  ー





「潜入するよ!」


風に手を引かれて、施設らしき建物へと猛ダッシュしていた。

あたしは焦り倒してて、何度か転びそうになっていた。

さっき通ったなかなかの高級車と言われる、黒いスープラが正門の前に停まっている。

カチッとしたスーツを着た、50代ぐらいのおじさまがスープラに乗っているのが見えた。

そして60代ぐらいのおばさまと、30代ぐらいの女の人が

正門を必死で開けていた……!

車の真後ろまで来て、風はあたしを引っ張り

しゃがむように手でアクションをした!



あたし「な、なにするの」

風「この車に紛れて入るよ!」

あたし「無茶すぎる!高級車ならバックモニターとかついてるんじゃ」

風「バックモニターはバックする時しか見えないよ」



確かに。

いや、確かにじゃないわ。

二人も中に女の人がいるから絶対バレる!

と、思ったら

車が敷地内に入った時、車の中のおじさんが窓を開けて、60代ぐらいのおばさんと話をしている。

30代ぐらいの女の人は、門を閉めるどころか

こっちに停めて下さい!みたいにそのスープラをガソリンスタンドの人みたく、誘導し始めた。



風「ナイス!」



風が手を取り、敷地内に入り

そのまま人が居ない方へと走り出す!

絶対バレるー!!

もうあたしの膝はガクガクと笑いっぱなしだった。

それでも腰を抜かさなかっただけ、自分を褒め称えたい。

恐怖で後ろを確認できず、見つかってるのかバレてないのかもわからない。

そのまま建物の奥、しっかりと死角になる所まで駆け抜けた!



自転車置き場があった。

自転車は三台しか停まってない。

風が自転車をずらして、その隙間にヒョイっと身を隠した。



風「愛美!早く!」

あたし「ま、まじでっ?」



風の真横にしゃがんだけど、死ぬほど狭い。

これほとんど見えてるじゃん!



風「しくった……木があれば身を隠す所あるかと思ったけどやたらと近代的じゃん……」

あたし「……本当だ」



木も何もない。

窓がたくさんあり、建物の中から外を見れば

簡単にあたしたちは見つかってしまう。

遠くに物置はあるけれど、物置はガッチリと塀にくっつくように置いてあるから

物置の裏に隠れることも出来ない。

物置の中なら隠れられそうだけど、鍵が開いてるかも謎である。

鍵が開いてたとしても、物置の扉を開ける音で気づかれてしまいそう……。



あたし「ど、どうする?」

風「うーん」



久しぶりに、潜入捜査に心臓がバクバクしていた。

潜入捜査?

んなバカな。

あたしたちは警察でもなんでもない。

これは潜入捜査ではなく、ただの不法侵入だ。




風「間宮さんに囮になってもらうか…でも建物の中に何人の人がいるかわからないしな」

あたし「ここに自転車三台あるから、最低でも三人は確定でいるよね。
てか、こんな山道なのに自転車で来れるなんて、千葉県民は体力あるなぁ」

風「裏にも出入口はないから、さっきの門から自転車で来る……という事は他には道がない。
さっき俺たちが通った山道を自転車で漕いできてるってことか。
坂道だらけなのに、確かにめっちゃ体力あるなぁ」

あたし「ここで日が暮れるまで隠れ続ける?」

風「セコムあるから、それはやばいかもね。あー、Jさんがここに居てくれたらなぁ」



J……。

明日、J、Lily、本橋と会う。

確かにJは、リベルテのドラえもんだ。

セコムあっても、何とかしてくれそう。

ここの建物の造りとかも調べあげちゃいそう。

だけど、JはHALの右腕みたいな人物だ。

あたしと風がこっそりここに潜入してるって

JならHALに全部教えてしまいそう。



あたし「そ、そういえば風のスマホは!?」

風「あぁ、DAI先輩に持たせてるよ」

あたし「な、なるほど。用意周到だね…それなら風愛友は地元にいるって事だね。
風愛友のスマホにはGPSみたいなもの付いてるからね」

風「リアルな俺のスマホはさすがに追跡機能ないからね。今日のいじめ相談は、DAI先輩がちょくちょく返事してくれるってさ」

あたし「DAIもいじめ相談引退したってのに大変だねぇ。ま、受験受かったからいいのか」

風「シッ!」

あたし「!?」

風「……誰か来る」

あたし「え!?」



耳を澄ますと

確かに、足音が聞こえる……!

神様、どうか佐藤か間宮であってください……!



風「……愛美は俺に話合わせて」

あたし「な、何す……」




「誰かいるの!?」



やっぱり気づかれてた……!