人は自由に生まれ、どこにでも鎖に繋がれる。

                                 ー  ジャン・ジャック・ルソー  ー






「着きました」


ここが、HALとアキラが預けられた施設……。

まるで長野県にある別荘からのような

可愛らしい、ログハウスだった。

想像していた、養護施設とは程遠い。

もっと、幼稚園みたいな

ちょっと汚い白い壁の平屋を想像していた。



風「本当にここで合ってるのかな」

佐藤「かなりオシャレですね」



風も疑うぐらいだから、あたしの感覚は間違ってはいないんだ。

ログハウス風の前を、10kmぐらいのノロノロ運転で通る。

「〇〇養護施設」とかいうような、特に看板も何もない。

ただ、厳重ではあった。

正門らしきところには、まるで学校かのように

大きなコンクリの塀に、ガラガラと手で引っ張って閉める鉄の門がある。

車がスルッと入れるような感じでは無い。

そもそも、門はガッチリと閉まっていた。



間宮「どこに停める?まさか正々堂々と正面突破?」

佐藤「どうしますか?」

風「佐藤さん、どこか隠れた場所に停められないですかね?」

佐藤「その方が得策ですね。探します」



ログハウスの目の前を通り過ぎ、そのまま山奥へと向かった。

周りには家もスーパーもない、本当にただの山道だった。

どうやって食料とか手に入れてるんだろう。



300mほどだろうか。

まだ進む?って不安になるぐらい、ゆっくり進んだ先に

ブレーキ故障した車のための、緊急退避の登り坂があり

そこが大きく道が膨らんでいたので、佐藤はそこに停めた。




風「こ、ここって停めていいんですか?」

佐藤「ダメだと思いますね」

あたし「ブレーキ故障車が来たら、この高級クラウン大破しちゃう……」

間宮「とりあえずここで愛美さんたちをおろそう。自分が愛美さんたちを護衛するから、佐藤は他に停められそうなところを探してきてくれ」

佐藤「了解」

あたし「ごめんね。佐藤、崖から落ちないでね」

佐藤「な、そんな縁起でもないことを」



佐藤は苦笑いをして、そのまま車を走らせて去って行った。



間宮「行きますか」

あたし「だね」



あたしたちはまた、来た道を戻り歩き出した。



風「養護施設……か。本当にあそこが養護施設なのかな。俺が推理小説で読んだような感じじゃ全然なかったけど」

あたし「ほんとそれ。めちゃくちゃ可愛いログハウスだったよね。誰かの別荘とかじゃないの?」

間宮「本当にそこで合ってるんですか?」

風「多分。アキラさんの情報と、アキラさんと仲良い親族に調べてもらったら、住所はあそこで合ってた。
けど、今もその施設があるかどうかはわからないと言われたらしいです。
俺もGoogleマップでその住所を調べたけど、養護施設とは書いてなくて。ただの家みたい」

あたし「え。じゃ廃業しちゃったんじゃないの?さすがに載ってないなら、無許可営業みたいになっちゃうし」

風「聞き込みだけしようかな。どこかに名前を変えて移転したのかもしれない」



ようやくたどり着いた。

ただ、風の予想も当たってないような気がしてきた。

家にしては、厳重すぎる。

そして高い塀と、ガッチリした門からして

中には誰も入れないぞという意思を感じるのだ。

建物自体はログハウス風の可愛いものなのに

塀と門だけこんな無機質なのも、不釣り合いだった。

どこかのお金持ちの別荘ならば、塀も門も、もっと可愛く拘りそうなものなのに。



間宮「……セコム入ってる」

風「かなり厳重ですね」

間宮「カメラに映ってるから気にしないように通り過ぎましょう。我々は登山家です」

あたし「こんな身軽なショルダーバッグで登山家は厳しいな…」

風「普通に会話しながら、笑って通り過ぎよ」

あたし「あ、あははは……」

風「ぷっ!なにその乾いた笑い」

あたし「風がたった今笑おうって言ったからでしょ!あははは……」

風「ブフッ!わざとらしいんだよ!そんなに愛美演技下手だったっけ」

あたし「う、うるさいなあ」

間宮「瀕死のカラスみたいな声ですね」

風「瀕死のカラスっ!」




風は盛大に吹き出した。




あたし「なにさ。瀕死のカラス見たことあんの?」

間宮「ありません」

風「瀕死のカラス……」




風はまだ笑い続けている。

もう建物の前は通り過ぎた。




風「こっち!」




風が道路から隠れるように、獣道にあたしたちを誘い込む。




間宮「正々堂々と行くしかないかもしれませんね」

風「ですね。建物の周り、360度ガッツリと高い塀で隠れてました。
こっそりと敷地内に入るのは難易度高いかも」

あたし「すご!あんなに笑ってたのにそこまで見てたの!?」

風「逆に何のためにリスクをおかしてまで施設の真ん前歩いたんだし」

あたし「うっ!あたしもちゃんと見てたもん!
養護施設なら子供たち庭で遊んでるはずなのに外に誰もいなかった!
子供が遊ぶ遊具も道具も三輪車もなかった!」

風「お!愛美もちゃんと見てたんだ!」

間宮「セコムも入ってるから潜入捜査は無理ですね」

風「どうしようかな……」



その時、車が走る音がした。

佐藤が停める所なくて、放浪してるのかな?

黒いスポーツカーが、一瞬で目の前を通り過ぎた。

佐藤じゃないのか。



獣道に身を隠してるから、向こうからは見えないはず。




間宮「スープラか」

あたし「すーぷら?」

間宮「なかなかの高級車ですよ」




風は茂みからそっと身を乗り出して、施設の方向を見ていた。




風「愛美!潜入するよ!!」

あたし「へっ!?」

間宮「何っ!?」

風「間宮さんは外で待ってて!いい作戦思いついた!LINEするからここで待機してて!」

間宮「んなっ!?」



風があたしの手を取り、走り出した!

き、聞いてないよー!!