がっかりした時はね、相手を責めるんじゃなくて期待しすぎた自分を責めるべきだよ。

                                                                 ー  ローラ  ー







大阪のユニバ近くの、大きなホテルに到着した。

チェックインをする、HALの隣であたしはHALを見守る。

予約とか一切関与してないから、何も出来ないんだけど

それでも、HALを見守っていたかった。

隣にいたかった。

見ていたかった。




部屋は、6階だった。

スイートでもなんでもない、普通のツインルームだ。

佐藤と間宮の部屋。

その隣は、あたしとHALの部屋。

向かい側は、風とLとDAIの部屋。

アキラとマモルは、2階の部屋らしい。

まだ彼らは大阪に到着してなくて、チェックインすらしていない。

時間は、11時過ぎていた。

荷物を置いて身軽になってから、またみんなで集合して

タクシーで道頓堀へ向かった。




あたし「道頓堀!あの有名な!グリコマークある!?」

HAL「ありますよ。ここからだと結構歩きますが」

風「HALさん大阪詳しいですね!仕事で何度も来たんですか?」

HAL「仕事ではなくプライベートで何度か」

風「プライベート?」

HAL「あ」

風「レイジさん達と、ですよね!」

HAL「いや…」

風「……」

あたし「……」




元カノか!?

元カノと大阪旅行に来たのか!?

くくくくくく悔しいっ!!

あたしは大阪なんて初めてだと言うのに!

しかも「レイジさん達とですよね」と風がフォローしようとしてくれてたのに

HALはその嘘に乗っかってもくれない!!

更には「いえ、会社仲間と」とか「男友達と」とか「大学の友人と」とか付け足してもくれない!

それすら言わないってことは絶対元カノじゃん!!

その元カノもグリコの看板見たいとか言ったのか!?

HALも「何処だろう」ってなって、二人で探した思い出があるのか!?

楽しかったんか!?ああん!?




DAI「いいなぁ、やっぱお金持ちだから日本全国行きたいとこ行けるんすねー!」

L「それな。俺もお金持ちだったら、海外とか行きたいなぁ」

DAI「っつっても、行く相手いないと無理じゃね?さすがにひとり旅は寂しすぎるし」

L「確かに!HALさんはたくさん相手いそうだし」

HAL「いえ、そんなことは」

風「HALさんは仕事仲間とか全国にいるから、あちこち行くんですよ!」

HAL「いえ、そんなに仕事の知り合いはいませ…」

風「行、く、ん、で、す、よ、ねっ!?仕事関係で!!」

HAL「え……あ……はぁ……」



風があたしを全力で庇おうとすればするほど

HALのボロが出てくる。

どう考えても「プライベートの仕事関係で大阪旅行」なんて、矛盾のオンパレードである。

仕事関係で出かけるなら

それはもはや「プライベート」とは呼べない。

「仕事で」と言うはずだもん。




それよりも、あたしはこんなにも嫉妬深かったのか……。

過去の事なのに、過去の相手に嫉妬している。

こんなにも馬鹿げてる事は無い。

ただ、道頓堀を歩いてる時に

「あ、ここで元カノと写真撮ったな」とか

「この店で元カノとたこ焼き買ったな」とか

思い出されるのが、辛い。



思い出は

男はフォルダ毎に並べて保存し

女は上書き保存をすると言われている。

男は過去の事も、平気で思い出しては

現在の彼女と比べたりする。

女は違う。

過去の男は、現在の男で上書き保存されるのだ。

つまり、思い出すことすらない。

思い出したとしても、今の彼氏と比べたりなんてしない。

比べたとしても、今の彼氏のほうが最高の位置にランク付けされているから

絶対に、今の彼氏のほうが素敵だと思うだろう。

男の過去の彼女は、その時で止まっている。

まさに「思い出は美化される」のは女ではなく

男の方だ。

未練がましいのは女より男だと言うし。

男は元カノとえっちしたホテルとか覚えていて

今カノと入ったとしても、元カノとの行為を思い出しては

「あの時はこんなプレイしたよな」とドキドキキュンキュンする。

当時の感情を、わざわざ思い出すのだ。

ムカつくから、男に教えてやろう。

その当時の彼女は、現在は他の男と幸せになって

あなたの事は少しも思い出してませんよ、と。

思い出に浸ってウキウキニヤニヤしてる男性陣全員に、ガチで言ってやりたいぐらいだ。



とか言いつつ、HALより素敵な男なんてそうそういない。

この事実が、あたしを打ちのめしてくる。

もしかしたら、HALの事を忘れられない女たちもたくさんいて

そして、今カレとHALを比べては「HALさんだったらもっと色々してくれるのに……」と比べてるのかもしれない。

あたしももしHALと別れて次に彼氏が出来たとしても

HALの事を、ずっと思い出し続ける自信がある……。

思い出すというより

忘れられない。

いや、そもそもHALと別れたら

二度と恋なんて出来やしない。




モヤモヤしながら、「くくる」というたこ焼き屋さんに入った。

物凄く美味しい!

東京のとは全然違った!

東京のは結構カチカチに中まで火を通してるけれど

ここのたこ焼きはとてつもなくトロットロのクリーミーさ!

あたしこっちの方が断然好き!

たくさんお持ち帰りして、実家で食べたいぐらい!



DAI「あー、でも飛行機乗りたかったなー」

HAL「ですね。飛行機ならすぐ着いたのに」

DAI「なんでLと風は新幹線がいい!って駄々こねた?」

L「俺はちょっと……乗ったことないから怖くて……」

風「俺も少し不安だったかな。高所恐怖症ではないけど、パニック発作出たらどうしようって不安。飛行機じゃ途中下車なんて出来ないし」

HAL「そうなんですか……それなら仕方ないです。無理は禁物。時間かかっても新幹線で大丈夫ですよ」

風「ありがとうございます」

DAI「ゆうて新幹線でもなかなか途中下車できなそうだけどなー」

風「そうですけど、空の上にいるのと、陸地にいる違いも大きいんですよ」

あたし「……」



あたしはずっと元カノにモヤモヤしていたから会話に入らなかった。

でも、あたしも風と同じで

飛行機は苦手かもしれない。

苦手というか、恐怖心。

パニック発作よりも、もし人格交代したらどうしようっていう不安が大きかった。

あたしがまなみに交代して

シートベルト外して風に抱きついたりしたらどうしようと。

キャビンアテンダントからシートベルトを閉めてと怒られ

乗客には、アホなあたしの姿をさらけだすという不安。

いくら別人格です!中身は違います!と騒いだって

他の人から見たら、完全にそうではないから。

HALにも迷惑かけてしまう。

だから実は、飛行機だけではなく新幹線も少し怖かった。

それが不安になり、不安が大きくなるとこれまた人格交代しやすくなるものだから

安定剤を二錠飲んでから新幹線に乗った。

その副作用で、爆睡してしまったという次第だ。




ふと、隣に座っているHALの顔をこっそり見た。

HALはDAI達に向けて

優しい笑みを浮かべていた。



HALは今、元カノの事を思い出してる?

それとも100%、あたしだけを見てくれている?

元カノとの思い出なんて、全て捨ててくれる?

……胸が、ギュッと苦しくなる。

あたしってなんて醜い人間なんだろうと。

こんなにも、嫉妬深かったなんて気づきたくなかった。

そんな自分がやはり大嫌いで

溢れ出そうになる涙を、ずっと堪えていた……。