恋をすることは苦しむことだ。
苦しみたくないなら、恋をしてはいけない。
でもそうすると、恋をしていないことで、また苦しむことになる。

                                                  ー  ウディ・アレン  ー







「手を上げろ!!」




マモルが銃を向けながら、部屋の奥に入った!

あたしはスタンガンをブルブルと

震える手で持っていた。

マモルが、もし撃たれたらと思うと

こんな近接武器のスタンガンで

何も出来やしないというのに。

マモルが撃たれるのではないかという恐怖で

今すぐマモルの腕を引っ張って

こちら側に連れ返そうと、

反射的に体が動いたその時!
























「アキラさん!?」



アキラ!?

マモルの声に、あたしは犯人がいるかもしれないという心配すら忘れて

思わず、飛び出していた。




暗くて良く見えないけれど

芋虫のように縛られて倒れている人物が

確かにいた。

大志が、スマホのライトで照らした先には

やはり、アキラ一人が転がっていた。




あたし「アキラー!!」




急いで、アキラの元へと駆け出した。




アキラ「なんで…お前がいんだよ…う、眩しい」




大志が照らしたアキラの顔は

血だらけになっていた……!




あたし「大丈夫なの!?どこ殴られたの!!」

アキラ「痛い……大声出すな。頭に響く…」

あたし「今すぐ!縄切るからじっとしてて!」

マモル「愛美ちゃん大丈夫!?切るの大変だよ!」

あたし「でも!犯人が入ってきたらマモルが撃たないと!」

マモル「た、確かに…」

大志「愛美、このスマホ持って!俺がかわりに縄を切る!」

あたし「う…うん…お願い」




あたしは大志のスマホを受け取り

アキラの手首を照らす。

今すぐに、アキラの血を拭いてあげたいのに…!




あたし「アキラ…!もうちょっと辛抱して…」

アキラ「……」




返事するのも辛いの?

目を閉じて、されるがままになってる。

アキラの口には、ガムテープが貼られていなかった。

あたしたちの声が聞こえた時、

助けを求めるのに、口を塞がれてないならば

声を出せたはずだ。

なのに声を出さないということは

かなり暴行されてたって事じゃ……!

現に、もう目の上も切れて流血してるし

頭から頬から口からも、血が出てる……!





大志「ちょ、愛美見えない!」

あたし「あ……ごめ……」





涙が止まらない。

見たくなかった。

いつも強がってる、アキラのこんな姿を。

アキラもきっと、プライド高いから

こんな姿を見られたくなかっただろうに。

あたしの涙が、

アキラを隠してくれた。

見られるのは屈辱なのかと思い、アキラの顔から目を逸らすと

手首からも、大量に血が流れていた。




大志「愛美、しっかりしろ!ライトズレてる!」

あたし「う、うん」

マモル「大丈夫?愛美ちゃん代わろうか?」

あたし「アキラが大丈夫じゃない!アキラが…」

マモル「うん。早く病院に連れて行こう!その為にしっかりと、今出来る最善の事をしようね!?」

あたし「う、うん……」




マモルの言う通りだ。

泣いてる場合ではない。

泣く前に、最善の努力をしなくては。

最善を尽くした後に

好きなだけ、泣いて、後悔すればいいんだ。




大志「よし!あとは足だけ!」

マモル「……体は縛られてなかった?」

大志「はい、手首と足だけです!」

マモル「縛り方が随分と雑だな……。アキラさんはかなり抵抗したって事かな」

あたし「うん……だってめちゃくちゃ怪我してる!アキラだけ、血がいっぱい出てるもん……!」

マモル「アキラさん……守れなくてごめんなさい……」




アキラは目を閉じたまま、答えない。

相当、抵抗したんだろう。

抵抗したら、銃で撃たれてる可能性がある。

大志に、少しだけライトを外すと言って

全身を照らして、くまなく見た。

……特に、撃たれてる気配はなかった。

良かった。そこまで極悪非道な犯人ではなかったんだ。

暴れ回って抵抗したけれど、犯人に殴られて……

アキラが弱ったところへ

縄で雑に縛られた、という事だろうか。

こんなに暴力をふるって

こんな臭い部屋の、一番奥に放置するなんて……!

怒りの炎で、全身が熱くなってきた。




大志「切れた!」

マモル「アキラさん!動けそう?」

アキラ「…………」




アキラは薄目を開けたけど

何も反応しない。




あたし「アキラ……!!」

マモル「よし。愛美ちゃんがこれ持って。リボルバーだけど、一発目はいつでも撃てるようにしてある」

あたし「……」




マモルから銃を受け取った。

マモルと大志が、アキラを左右から担いだ。




マモル「安全な場所に隠そう。こんな臭い部屋にいるだけで頭おかしくなる」

大志「そうですね。救急車はまだ来てないのかな……」

マモル「救急車呼んだの?」

大志「さっき、一階で捕まってた人たち。学長が、救急車でも呼びなさいって言ってたから」

マモル「あぁ、アイナさん達か。てか、彼女たち何でこんな所に?HAL派でもなんでもないというのに」

大志「さあ……」




アイナさん達が、HALをLowyaだと疑っているから。

なんて、今言っても混乱させるだけだ。

今は、アキラを安全な場所に連れていくのに専念しないと。




やっと、廊下に出た。

だけど良く考えると、あたしの予想は当たっていたのだ。

階数ごとに、人質と犯人が隠されているという推理だ。

この階には、人質としてアキラがいた。

アキラの傍には、犯人は居なかった。

恐らく、部屋の異臭に耐えられなくて

傍で見張る事をやめたのだろう。

という事は、他の部屋に犯人が潜んでいるはず。

風とレイジは無事なの……!?



マモルと大志が、アキラの重さに耐えられなくて

階段の踊り場にいったん、アキラを下ろした瞬間だった。




遠くに、光が見えた。

風が持ってる、スマホの光か?




パンッ



今日何度聞いたであろう、嫌な音が聞こえた。






「風!!」




あたしは考えるよりも先に

音が鳴った方へ、走り出した。

その瞬間





あたしは、真っ暗で何も見えてないなかった。


床に穴が開いてる事に


気づかなかったのだ。


気がつくと、あたしは宙を舞って


ブラックホールに吸い込まれるかのように


真っ逆さまに、


三階から、二階へ落下した。