新たな証拠をつかむことよりも、むしろ、すでに知られている事実をいかに取捨し、選択していくか
その点にこそ推理という技術を生かすべきだ。

                                                        ー  コナン・ドイル  ー




風「まずは、まとめよう!」



風はルーズリーフとペンを出して、目を輝かせていた。



あたし「えっと。Lowyaについて知ってること話せばいいの?」

風「うん。まずLowyaはキラを使って、俺と愛美を追いつめた...」

あたし「うん。でもLowyaの狙いは、HALが狙いかもしれない」

風「キラの狙いは確定で愛美だったよね。
だけどそこで、Lowyaがキラを使った理由がハッキリしないんだよね。
俺と愛美を狙わせることによって、Lowyaは何か得する事があったのかどうか」

あたし「HALとあたしが付き合ってるから、
HALの色んな情報を得られる……と思った?」

風「そうだね。それしか考えられないよね。
だけど、Lowyaがもう既にHALさんの事をしっかり調査済みだったとすると、話は変わってくる」

あたし「調査済み?探偵とかを使って?」

風「そう。実際、キラはJさん達のハッキングをくぐり抜けて逃げてきた。
キラが捕まったのは、俺達の前に堂々と現れたから。
もし清里の時に来なかったら、未だに捕まってなかったかもしれない。
キラがあれだけ逃げられた事を考えると、
Lowyaはもっと凄い技術を持ってるはず。
キラを逃がしてきたんだから、本人はもっと凄いでしょ?」

あたし「確かに、そうだ。Lowyaはハッキングから逃げ延びてきた。
それならLowyaは、HALの事をあたしより知ってる可能性は高い……!」

風「そう!そこだよ。LowyaはHALさんの事はもう調べ済みだと思う。
だからキラを使った理由で、HALさんを深く知る為、というのは無理がある気がする」

あたし「そうか……なら、何のためだろう」

風「可能性としては、①愛美とHALさん両方が狙い。
②ただの暇潰しか、遊びで特に意味はない。
③愛美とHALさんを……」




風が真剣な目になった。

何となく、言いたい事はわかった。




あたし「……別れさせるため?」

風「……」




風は頷いた。




風「もし、愛美と男のツーショを送ってきてるのがLowyaだと仮定すると、それしか思い浮かばない」

あたし「じゃ、やっぱりLowyaの正体は女……?」

風「そこがわからないんだよね。
Lowyaはキャバクラとかの女を犯してたりするんでしょ?
女が女を犯せるわけないから」



「女が女を」

この言葉で、あたしはリナを思い出してしまった。

いや、違うはずだ。

前にマモルがどこかのクラブの監視カメラを画像を女の子に貰った。

それをJに渡して、解像度を上げてもらったら

確実に男だった。

……いや。

髪の毛は、サラサラのロン毛だった。

ロン毛?

ロングヘア……?

まさか

やっぱり女……!?

女の人でも、男っぽい顔の人はいる。

しかもあの画像では、そこまでハッキリとは映ってなかった。

パッと見、服装と顔だけで男と判断したけれど

実は男っぽい顔をした女という線も有り得る!?



あたし「風、風!これLowyaの写真なんだけど、
男に見える?女に見える?」

風「え!?写真あるの!?なんでそれ先に見せてくれないの!」

あたし「ご、ごめん。これなんだけど……あまりハッキリ写ってないし」

風「どれどれ……」




風は暫く固まった。




風「……髪の毛長いけど、男っぽいな」

あたし「だよね、あたしも単にロン毛の男かと思ってた。
しかも、美男子に見えた。だけど男っぽい女の人って事はないかな……?」

風「いや、これじゃわからないな……」

あたし「あちこちのクラブで、キャバ嬢を犯した賞金首。
最初の情報がこうだったから、あたし達もしかしたら……
先入観に縛られて、男だと思い込んでいたのかもしれない」

風「だけど山梨時、雄大さんはLowyaが女という話は聞いてないみたいな事言ってなかったっけ」

あたし「……もし、学長がLowyaの仲間だとしたら……?」

風「え!?」

あたし「学長の事、あたしずっと信用してなかった。
HALは信じてるから、あたしも信じたけど……。
昔から学長はLowyaの事、詳しすぎる」

風「確かに、昔は俺も正直言うと、疑ってたよね。疑ってたというより、信用するのはまだ早いって思ってた」

あたし「そうなんだよ。学長は元々、HALを狙っていた。
今はHALの為にスパイみたいな事をして動いてるみたいだけど、
それはHALの信用を得る為……と思うと、百パー信じていいのかどうか……」

風「動機としては、大いに有り得るよね。
という事は、Lowyaは既に、HALさんを仲間に出来たってことだ」

あたし「うん。だから最近、Lowyaは特に動きがなくなった……?」

風「なるほど。という事は?盗撮して送り続けてるのは実はLowyaではなく、別の犯人?」

あたし「…………もし、それがLowyaと同一人物なら……」




推理力抜群の風と話をしていたら

どんどん、あたしの頭が冴えてきた。

そして、話しながら

気づいてしまった……。




あたし「Lowyaと同一人物という方が、しっくり来るかもしれない」

風「なんで?」

あたし「HALとあたしを別れさせるため」

風「え?」

あたし「風やあたしが、最初から学長を信じてないって、バレているのかもしれない。
盗聴とか、ハッキングとか使って」

風「……もしLowyaなら、それぐらいお手の物だろうね。
なら、Aチームを作った理由もそれか。
俺と愛美が変なことをしないか、監視する為?」

あたし「うん。あたしと風をチームリーダーにしたのもHALを呼び寄せる為だけじゃなく
あたしと風の動向を把握するためだとしたら?」

風「という事は……あの、テレビ局のエキストラのミッションも、ガセだったって事か」

あたし「うん。例えばLowya……学長が、大きく動く時。
あたし達に適当なミッションを振って、学長にとって安全な場所へあたし達を誘導する事が出来る。
だからこそ、あんな重要でもなんでもない、
エキストラなんていう、わけのわからないミッションを出したのかもしれない」

風「……もしそれが真実なら、黙って見ていれば直にLowyaの正体がわかるかもしれないね」

あたし「なんで?」

風「まず、愛美がLowyaから襲われることがなくなる。
それが第一の兆候」

あたし「そ、そうか」

風「そして、盗撮写真が送られ続ける。
愛美と別れさせるために。そして、HALさんの心を弱らせる。
これが、第二の兆候」

あたし「や、やだ……なんて卑劣な手口を……!」

風「そして、HALさんの精神をボロボロにした時に、HALさんに大きな頼み事をする。
これが、第三の兆候」 

あたし「そ、そんな……!」

風「情緒不安定になってる時は、判断能力が落ちると言われているからね。
YESと言いやすくなる。」

あたし「……うん。あたしも大学でそう習った……」

風「もう、雄大さんはHALさんを手に入れている。
写真も送られ続ける。
そこから、雄大さんはHALさんに大きな頼み事をする。
雄大さんの目的が、HALさんの名声と権力ならば、ね。
ここまで来たら、もうほぼ確かもしれない……」

あたし「そ、そうか。じゃ、あたしは常にHALに学長と会ったかどうか、
連絡が来たかどうか、毎日確認しなくちゃ!」

風「うん。今最優先する事はもしかしたら、
Lowyaを追うのではなく、写真の犯人を追う事かもしれない。
そうすれば自ずと、雄大さんに繋がってくる。
雄大さんがLowyaだとするならばね」

あたし「そ、そうなのね……ちょうどいい!
明日、アキラと梅田の所行くの!
封筒から、指紋が検出されたんだって。
もちろんLowyaはそんなヘマしないだろうから
指紋の人は使われていただけだろうけど。
その時に、梅田に学長が怪しいから探ってもらうよう、依頼する!」

風「でも、もし……もしもだよ?
探偵の梅田さんも、雄大さんの仲間だとしたら?
そんな事依頼したら、即、雄大さんに情報がいく。
愛美が危ないかもしれない」

あたし「あ……!」

風「今の推理は、かなり辻褄が合うと思うよ。
だけど、それは動機から推理しただけ。
犯人の動機なんて、千差満別だからさ。
やっぱり、証拠がないと雄大さんがLowyaだと断定出来ないのが辛いんだよ」

あたし「そうだね……Lowyaは頭がいいはず。
学長を疑わせるように仕向けてる可能性もあるし……」

風「そう。雄大さんと梅田さんが元々仲間だという可能性もあるしね。
まだ派手に動かない方がいいかもしれない」

あたし「HALに、相談してみる……?」

風「そうしたいのは山々だけど、HALさんの精神状態は大丈夫なの?」

あたし「あ…………」

風「もし、精神状態悪かったなら、仲間だと思っていた梅田さんと雄大さんが敵かもしれないと思ったら……。
HALさんがもっと追いつめられていくかもしれない……」




送られ続けてる、写真。

シオンと交代も、頻繁にある。

そして、企業のストレスや、組織での派閥問題。

HALはいつも冷静で、ストレスなんて感じてないように見せているけど

それは、強がってるだけだ。

昨日HALが言ってたように

「男のプライド」なんだ。

女のあたしに、助けを求めるなんて事はしないはず。

辛いと、弱音を吐くことはない……。




風「派閥について、詳しくなれればそれが一番なんだけどな……」

あたし「…………」




派閥に詳しい人は、いる。

リナだ。

アキラも詳しいかもしれないけれど

リナはアキラよりも段違いで詳しいはずだ。

上の組織から、色んな派閥の人達から

たくさんの依頼を受けているんだから。

もちろん、極秘と言われているだろう。

だけど、リナなら……

もしかして教えてくれるかもしれない。



リナの組織に入りたい。



その気持ちが、さらに強くなっていた。