恋とは、ため息と涙でできたもの。

                                                   シェイクスピア  



「初めまして。愛美です」

「初めまして。工藤です」

「初めまして。川嶋です」




ここまで、簡潔な挨拶というものがあるのだろうか。

工藤は、ボディーガードとは思えないほど

かなりの華奢であった。

川嶋は、ガッシリとしてはいるものの

佐藤と間宮ほどの、ゴツイ体格ではなかった。




あたし「特技は?」

工藤&川嶋「はい?」

あたし「えっと、ボクシングとか、格闘技とか...」

工藤「あぁ。僕は空手と少林拳、八極拳をやっております」

あたし「なるほど、わからん」

工藤「空手は日本では有名ですが、少林拳と八極拳は中国の武術です。少林拳は、少林寺拳法とは違うので間違えないように」

あたし「なるほど、わからん...」

工藤「八極拳は、中国武術の中では一瞬の破壊力が、ずば抜けて高いです。一発で内臓破裂させるほどに。自分はまだまだ修行中ですが」

あたし「な、内臓破裂!?」

工藤「はい。日本で言うところの、肉をたたずに骨をたつという信条のもとに...」

川嶋「工藤。時間がないです」

工藤「あ、そうですね」

川嶋「自己紹介は後ほど。では行きましょう」




ボディーガードでも、色んなタイプがいるのか。

間宮と佐藤は、二人とも格闘家タイプだったけど。

中国武術なら、これだけ華奢でも強そうだ。

知らんけど。




とりあえず、風愛友の家へ向かった。

風にLINEで「ズボンで来て!」と言われていた。

スカートじゃ、何がダメなのだろう。

ま、

まさか

スカートだと、えっちな気分になるから...?

どっちにしても、自転車こぐなら

普通にズボンで楽だった。

だけど、SP二人は自転車とかではなく

ガッツリ走りながら、ついてきた。

自転車で15分の道のり...。

あたしも走った方が、体力つくのかもしれないな...。



風の家に着くと

玄関の前に、三人立っていた。

ん?

あの懐かしい顔は……?




あたし「L!DAIじゃん!?」

L「お久しぶりです!」

DAI「おひさー!」

風「よし!やっと行ける!愛美待ってて!」




風だけ、家の中に入っていった。




あたし「二人とも、受験勉強大丈夫なの!?」

L「え!?」

DAI「愛美さん、まさか誕生日迎えて、脳みそだけが一気に老化した?」

L「この前、合格発表でしたよ?二人とも合格。...ってもしかして誰からも聞いてないんですか?」

あたし「うそーーーーーーーー!?」



すっかり忘れていた!

そうか!今日は3月6日!

もうすぐ卒業式じゃん!




DAI「でも、山梨の病院にいたから仕方ないのか」

L「だね。俺も合格したよって風にLINEしたけど、なかなか返事来なくて焦ったよ」

あたし「あたし達が入院中にわかったの?」

DAI「そそ。3月1日ね。あの日もHALさんのグループでは物騒なトークばかり繰り広げられてたし、みんなに合格しましたなんて言える雰囲気じゃなかったよなー!」

L「でもこれで晴れて自由の身!塾も行かなくて済むなんて最高!」

DAI「それな!遊びまくれる!高校で彼女も作れる!」

あたし「良かったね!おめでとう!」




そうか。

Lもこれでやっと、ストレスの日々から解放されたんだ。

DAIは受験生なのにいつも遊んでたから

違う意味で心配してたけれど、

二人とも無事に受かって良かった!




風「言うタイミングはあったけど、HALさんを真似して内緒にしてたんだー!」




風とマモルが出てきた。




あたし「あれ?マモルもいたの!?」

マモル「いちゃ悪いー!?」

あたし「悪くないけど、鼻大丈夫なの?」

マモル「それがさ、全然大丈夫じゃないのよ!昨日も酒飲んでみたら激痛で鼻血ブー!」

あたし「あんた...酒やめた方が...」

風「とりあえずもう行こう!遅くなっちゃう!」

DAI「だよなー!急げ急げ!」

マモル「というわけで車取ってくる!君たちは同級生に見られないよう隠れてなさい!」

風「しくった!先輩達家の中入って!隠れましょ!」

L「やば。忘れてた!浮かれすぎかな...」

DAI「もう卒業だし、俺らの正体バレたってかまわないけどな」

L「普通にダメでしょ!ルール違反!」

風「俺まだあと一年ありますよ!?」

あたし「いいから早く中入って!」




全員を、風の家の中に押し込んだ。




あたし「車でどこか出かけるの?」

風「内緒!」

あたし「いや、マモル車取りに行ってんじゃん」

DAI「HALさんの真似して内緒にしてんの?」

風「あ...はい...」

L「確かにHALさん、愛美さんにいつも行き先言わないですよね」

あたし「昨日もそうだったわ」

L「HALさんに、どこに連れて行かれたんですか?」

あたし「お、お台場だよ」

DAI「もちろんお泊まりっすよね!?」

あたし「う……」

L「どこ泊まったんですか?HALさんち?」

あたし「ヒ……」

L&DAI「ヒ?」

あたし「…………ヒルトンホテル…………」

DAI「ホテル!?」

L「えーっと……」




言いたくなかった。

風の前でこんな事……。





DAI「もちろんしたんすよね!あれ!」

あたし「…………」

L「ちょ、DAIやめろって」

あたし「あ!DAIは彼女出来たの!?」

DAI「んなっ!?何度も言ってるじゃないっすか!高校入ったら作るって!」

あたし「そう言って高校三年間、ずーーーっと独り身だったりして!」

DAI「はぁ!?俺が本気出せば、十人ぐらい作れるわ!」




あたしの必殺技、効いた。

話すり替えるのは、お手の物だ。

ただ、風の顔だけは見れなかった...。




風は、まだあたしの事を好きなのだろうか。

特に何も言われてないということは

好きって事で、いいのだろうか。

逆に、他に好きな人が出来たら

それはそれで、言いにくいものかもしれない。

「待ってる」とかかっこつけて言ったくせに

もう他の人好きになってるじゃん!みたいな。

ただ、風は律儀な性格だ。

あたしがHALと上手く行ってるから

何も言わないだろう。




いつの日か、風は

他に好きな人が出来るのだろうか...。

さっきまで、HALと幸せいっぱいだったのに

もう、気持ちは

沈んでいってしまっていた。