大切なHALと風が目の前で泣いているというのに

他の人の心配をしてる自分が不思議だった。

ボーッとしてて、女の人が近くに来たのすら

全く気が付かなかった。



「感動的なシーンなのに邪魔してすみません。
HALさん、最後の詰めです」



HALさんの補佐、Amicoさんだった。



HAL「わかりました。すぐ行きます」




たった今まで泣いてたHALは

キリッとした冷静ないつもの表情に切り替えた。

でも、目と鼻が真っ赤だよ。




あたし「はい、HAL」

HAL「あ・・・すみません」




あたしはHALに、ポケットティッシュ二つと

ハンカチを渡した。


風「さすが愛美。最近女子力高くなったね」



涙でボロボロの風が笑った。



あたし「最近じゃなくて昔からでしょ。はい。あんたはみんなの前に出るわけじゃないからティッシュだけね!」

風「ありがと。鼻かんだら全部なくなるかも。
てか愛美いくつティッシュ持ってんの」

あたし「6個持ってきた!」

風「持ってきすぎな!?」

あたし「風邪ひいてる時とか飲み物こぼした時、ティッシュ一つじゃ足りないっしょ?」

風「それはそうだけども」

HAL「ではわたしは行きます。愛美さんたちは好きなように過ごして。食事するのもいいですし、散歩してきてもいいです。終わったらLINEしますね」

あたし「わかった!」

Amico「でももうデザート運ばれて来てますよ。早く行かないとデザートさげられちゃうかも?それでは、私も行ってきますね」




HALは風とあたしの頭をそっと撫でて

笑顔を向けて、パーティー会場へ向かった。




あたし「デザート!」

風「食べよっか?」

あたし「うん!高級ホテルのデザートは食べなくちゃ!」

風「あー、でもメインディッシュの神戸牛ヒレステーキのなんちゃら、食べたかったな・」

あたし「それ同感。食べ足りなかったら、帰りにHALにここのレストランで奢らせちゃおっか!」

風「うわ、HALさんかわいそ!」

あたし「いーのいーの!つか風もお兄さんに奢ってもらいな!」

風「お兄さん・・・か。なんかお兄さんって響き、いいね」




風がテレたように、笑った。

HALがお兄さんなら、アキラもお兄さん?

アキラ・・・。

さっきから胸が、ざわざわする。




席についたら、デザートがまだあった!

さっきアボガドサラダと前菜の良くわからない

冷たいムース状の物しか食べてないから

本当はめちゃくちゃおなかすいてる。

安心したのもあるかも。

HALに裏切られるんじゃないかって

ずっと不安だったから。

でも今ならなんでも食べられそう!

甘い物じゃなくて、風じゃないけど

ガッツリと高級肉を食べたい気分だった。

そんな時にデザートかぁ・・・

でももったいないから食べないと!

二人でデザートを食べてると、また背後にマモルが来た!



マモル「どうだった?大丈夫だった!?」

あたし「ぎゃ!びっくりしたぁ!」



マモルの横にはレイジもいた。



レイジ「全然出てこないから心配で心配で」

あたし「大丈夫よ!HALの計画も上手くいったみたい!」

レイジ「いや、さっき遠かったから良く見えなかったけど、HALと風愛友抱き合ってなかった?」

あたし「抱き合ってたよ?二人が同性愛に目覚めた」

レイジ「は!?」

風「何言ってんの」

マモル「俺らはあれから涼子の事守ってた!50万は貰えたよ!しかも現ナマで!」

あたし「うえっ!?振込みとかじゃなくて!?」

マモル「うん。涼子が今すぐ現金で欲しいって言ったら、菫さんの秘書がポーンと50万出して渡してた!」

あたし「うわ、あたしも欲しい・・・」

マモル「それな」



良かった。

これで涼子のほうは安心だ。



レイジ「そうそう。涼子はパーティーのゲストとしては呼ばれてないから、もう帰るってさ。
大金持ってて危ないから、俺とマモルで駅までタクシーで送ってまた戻ってくる。HALにはLINEしたけど、HALも携帯見る暇ないかもしれないから、もし聞かれたらそう伝えといて?」

あたし「おけおけ!あ。最後に涼子に会ってこようかな」

風「俺も行く!」

マモル「わかった!先に涼子連れてロビーで待ってるね!」

風「了解です!」




二人でデザート一気に食べて

ホテルのロビーまで、見送ることにした。

ロビーに行くと、ド派手な女の人がいるから

遠くからでもすぐに見つかった。

涼子はHALに会わなくてもいいのだろうか。

HALは今、パーティー会場でパーティーを綺麗に終える為、みんなにマイクで話してる。




涼子「あ、HALの今カノさん・・・」

あたし「涼子さん。お金貰えてよかったね」

涼子「はい。ありがとうございます」

風「このまま石川に帰るんですか?」

涼子「もちろんです。泊まりとかにしたらこの50万円がもったいないから・・・」

あたし「立ち入ったこと聞くけど・・・お金に困ってるの・・・?」

涼子「はい。お金に困ってないキャバ嬢なんていませんよ」

あたし「そ、そうなんだ」

マモル「と言っても、お金に困ってるのボーダーラインがわからないよね。借金抱えて生活出来ないほど苦しいほど困ってるのか。はたまた、ブランド品が欲しいから、高級マンションに住みたいから、お金を派手な使い方して、ブランド品買えないからお金に困ってる〜!って言う娘も多いよ?」

レイジ「ほんと詳しいなマモル」

涼子「私の場合は・・・はずかしいけど前者ですね。父親が4000万の借金してて、闇金だからどんどん利息取られて借金が膨れ上がって・・・」

マモル「わお。自己破産すれば?てか、HALに相談すればいいのに」

涼子「いえ、ちゃんと弁護士と警察に無料相談してますからご心配なく。ただ、借金返済よりも毎日の生活費が本当に苦しくて」

あたし「普通の生活してるあたしなんかが・・・お金な〜い!なんて言えなくなってきたな・・・」

風「俺もだよ・・・欲しい物あるとついお金ない!とか言っちゃう。ちゃんと、普通の生活させてもらってるのに」

涼子「慣れてるから大丈夫です。それよりもさっき、アキラと話してきました」

あたし「アキラと!?なんて?」

涼子「過去の事、謝りました・・・。そしたら、終わった事だし全く気にしてないから平気だよって。そもそもそんなに本気ではなかったし、お金はいくらでもあるから気にしないでって。それよりも自分の為に未来へ向かって生きろと。
俺は居なくなるから、二度と会うことはないだろうけどねって。心の重荷が少し軽くなりました」

あたし「アキラ・・・あいつあたしにはボロクソ言うくせに涼子さんには優しいんだ」

風「居なくなる・・・?アキラさんはやっぱり病院の役員をやる気はないのかな。海外へ行っちゃうのかな?」

あたし「確かに。でも理事長って一番偉い人なんでしょ?本当に病院辞められるのかね?」

レイジ「そろそろ行こうか。早めに帰らないと石川県は遠いよ」

涼子「はい」

あたし「りょ、涼子さん!」

涼子「はい?」

あたし「こんな事言われたら腹立つかもしれないけど・・・あの、その、が、頑張って!?乗り越えられると、信じてるから・・・いや、決して上から目線じゃなくて・・・」

涼子「ありがとうございます。上から目線だなんて思ってません。HALと幸せになって下さい。私の事忘れてなかったら、結婚式にも是非呼んでください。ご祝儀はそんなに包めませんけど・・・」

あたし「う、うん!おけ!」

涼子「ではまたいつの日か・・・」




涼子は軽く会釈をして

ホテルの玄関をレイジたちと出て行った。




あたし「思ってたより、悪い子じゃなかった」

風「うん・・・」

あたし「どしたの暗い顔して?」

風「なんか、ごめん。涼子さんの言葉が妙に引っかかってて」

あたし「なんの?」

風「あと、笹野さんの言葉も」

あたし「笹野!?いつ話したっけ!?」

風「思い過ごしならいいんだけど。とりあえずパーティー会場に戻っていい!?」

あたし「えっ、あ!?」




あたしの返事も聞かず、風は駆け出した。

最悪だ。

風の「嫌な予感」というものは

毎回当たるんだ。




パーティー会場に入って、風は小走りで

ひとつひとつのテーブルをまわって

みんなの顔を確認してる。

パーティーのお客さんたちは

風の行動を不思議そうに見てた。




「あれですよ、マスターのお気に入りの風愛友って」
「あの子が風愛友!?イメージと全然違いますね!?」
「美男子という噂は事実だったんですね」
「やめなさい、あんな若い子相手に・・・くすくす」
「思ったより気が弱そうな顔してますね」
「どうやら風愛友はロバートさんではなく鷹派らしいですよ?さっきも菫さんと新藤さんと一緒にいたらしいし」
「鷹派が風愛友をどうやって丸め込んだのか気になりますね」
「自分は風愛友はアリサ派だという話を聞きましたが」
「アリサさんは違うでしょう?このパーティーに呼ばれてないですし」
「そうですよね。アリサさんはとうとう弾かれたというのが妥当ですね、うふふ」



風が会場を縦横無尽に歩き回っていたから

一気に風の噂話が始まった。

みんな好き勝手話してる。

アリサ派。

どこの派閥にも属さない派閥。

アリサさんがどんな人なのか会ったことないからわからないけれど

こうやって、陰で何を言われてるのかわからないのは

中学生だろうと大人だろうと関係ない。

子供だろうと大人だろうと高齢者だろうと

人間という生き物は

「他人の噂話」が大好きなのか。

なんかちょっと、胸糞悪い。

吐き気がしてきた。



「愛美さん」



背後から急に声をかけられた。

振り向くと、新聞記者の笹野だった。




笹野「HALの計画は、無事に遂行されました。
分裂してるロバート派が邪魔しに来たけど、それも我々の読み通り。弾き返したよ」

あたし「えと、とりあえずHALは破滅しないのね?アキラはどこにいる?」

笹野「さあ。HALの言う通りに役員になってくれれば破滅しないけど。アキラはあの性格だからねぇ。さっきも強がりで嘘八百並べてたし」

あたし「え!?なんて!?」

笹野「個人的な貯金もたくさんあるから、海外でやり直そうと思ってたってやつよ。俺達の調査では、アキラの個人貯金はゼロ。佐野派と手を組む時、佐野派が出した提案だ。佐野派もアキラに裏切られるのを恐れたんだろう。アキラの資産を全額渡す事を条件に、手を組んだからね。地獄行き列車の切符を、全財産はたいてまで買ったって事だ」


あたし「は!?てことは、アキラは既に無一文ってこと!?」

笹野「そう。そしてこの事実はHALも知らない。そんな事知ったらHALの計画もめちゃくちゃになる可能性があったからね。HALを非情にさせるため、俺はアキラの事全てHALには話してない」



パーティー会場を回った風があたしの元へ戻ってきた。



風「アキラさんがどこにもいない!メシ食うって言ってたのに!嫌な予感がする!」

あたし「アキラ・・・!」



急いで、LINE通話をかけた。

出ない・・・・・・!



廊下でバタバタとホテルの人、警備員が走ってる。

外が慌しい。

嫌な予感はグングンと大きくなる。



笹野「まさか・・・嘘でしょ?」



風が走ってるホテルの人の腕を取って

無理やり止めた。



風「すみません!何があったんですか!?」

ホテルの人「すみません!今は言えません!」

あたし「あの!あたしたちの友達が行方不明なんです!」

ホテルの人「・・・男性ですか?」

あたし「そう!」

笹野「大事にはしません。こちらも急いでるんです。教えて下さい」

ホテルの人「け、警報が鳴って・・・」




ホテルの人も青ざめていた。

そして恐怖の言葉を、吐き出した。




「飛び降りです」