「今日からボディーガードをさせていただく、佐藤です。偽名です」

「俺は間宮です。同じく偽名です」



20XX 1月27日  PM12:50



とんでもなく強そうな大柄な男二人が

あたしの玄関前に立っていた。

偽名なのはわかってる。

そもそも本名でリベルテで活動してるのはあたしぐらいだし。

HALのボディーガードのジョーも、

芸能人の夢叶に顔バレしないよう焦ってたぐらいだし。

風愛友誘拐事件で思い切り顔見られてたけど。



あたし「愛美です。よ、よろしくお願いします・・・」



こんなスーツ姿の男二人があたしんちの前に立ってるのも怖い。

お母さんがパートに出てて良かった。

とはいえ、ご近所さんに見つかって噂になったら

またお母さんの心配事増やしてしまう。




あたし「と、とりあえず・・・自己紹介終わったし、LINEの連絡先も貰ったからいいよね今日は終わりで?」

間宮「今からどこか出かけられるのですか?」

あたし「うん、バイト行って、そのあと風愛友の家に行くけど・・・」

間宮「では着いて行きます」

あたし「ま、まじか!?すぐそこだよ!?チャリだよ!?」

佐藤「もちろん。HAL様からは愛美様が外に出る時の護衛を頼まれておりますので」

間宮「俺たちは任務終了まで近くのホテルに滞在してます。もちろん、自転車、バイク、車、武器も全て手配済みです」

あたし「武器って!?殺し屋ですか!?」

佐藤「違います。武器がなくとも余裕で倒せます」

あたし「それなら武器必要ないんじゃ!?」

間宮「相手が銃を持っていたら?こちらもさすがに銃が必要でしょう」

あたし「やっぱ殺し屋じゃ!?」

佐藤「殺しは正当防衛に限ります」

あたし「やっぱするんじゃん!!」

間宮「とにかくもう着替えねばなりません」

あたし「そこまで徹底するの!?」

佐藤「顔が割れるのでここで立ち話はもうやめましょう。今からすぐに自転車を取ってきます。離れて護衛するので人の目は気にしないで大丈夫です」

間宮「家を出る五分前にLINEして下さい」

あたし「いや!えっと17時からバイトで16時30分に家出るから!16時30分に来てください!」

佐藤「了解しました。今後は直接は話せません。隠れて護衛するという契約なので」

間宮「御用の際は、LINEにて連絡、もしくは誰もいない個室での対面会話になります」

あたし「か、かたじけない」




なんてこった。

たかがバイトでついてくるなんて・・・。

しかも直接話せないなんて

友愛とアウトレット行く日も、荷物持って貰うことも出来ないじゃん。

迂闊だった。




ここらへんのホテルじゃ、大したホテルはない。

ビジネスホテルなら駅前にたくさんあるけど

駅からちょっと遠いし、ワンチャンラブホとかに泊まってる可能性もある。

ボディーガードってかなり地味な職業なのではないだろうか。

護衛する人の都合で動かされるから

護衛する人が何処も出かけない日が続いたりなんかしたら

ホテルでずーーーっと、待機してるのかな。

それがもしラブホだとしたら

男二人でラブホで何日も待機・・・。

え。なんか久しぶりのBL展開じゃん。




・・・って、もしこの二人があたしのブログの存在知ってて見られたら暗殺されるから

BL妄想はやめておこう。

それにしたって、武器ってなんぞや。

リベルテは平和組織なんじゃないの?

武器と言ったらせいぜい

マモルのスタンガンとかエアーガンぐらいなんじゃないの?

もし本物の銃とか持ってたとしたら

風愛友誘拐事件の時に、来てくれれば良かったのに。

いや、もしかしたらりペルテの人間ではないのかもしれない。

HALが雇ったからって、全員が全員組織の者とか限らない。

リベルテ内で、いがみ合ってるとしたら

ボディーガードがもし敵の派閥の人間だとしたら

簡単に敵を仕留めてしまう。

挨拶の時の「偽名です」がそれを物語っていた。

リベルテではコードネーム、つまりみんな偽名だ。

なのにいちいち「偽名です」と言うのは

リベルテの人間ではない証拠だろう。




バイトは17:00〜21:00までだ。

約束の16時30分に、遠くに大きな男がいた。

マウンテンバイクに跨り、まるで競輪選手のようなユニフォームとヘルメットで

300m先ぐらいに隠れるように待機していた。

そんな衣装まで持ってるのか。

もう一人はどこだ?

見渡す限り、見えない。

でもいいや、バイトに遅れてしまう。

今日に限って暴漢に襲われるなんて99%ないだろうし

ボディーガードなんて一人で十分だ。

あんなに強そうな人だもん。

競輪選手みたいなスーツがとんでもなく似合うほど

彼は全身、筋肉ムキムキだ。

あの人は佐藤なのか間宮なのか、どっちだ?

遠くてわからない。




とりあえず、自転車を出してこぎ始めた。

ふと振り向くと、ちゃんと離れてついてきてる。

・・・鬼ごっこみたいで面白い。

これであたしがいきなり立ちこぎして、

猛スピードで裏道やら細道に入っても

土地勘のない彼がちゃんとついてこれるのか。

めっちゃくちゃ試したくなったけど

バイト前に疲れたくないからやめといた。




土手沿いの道路でこぎながら振り向くと

ちゃんとヤツはついてきてる。

ふと、左側の土手の上を見ると、

疲れたおじさんらしき人があたしと並走していた。

しかも、チラチラとこちらを見ている。

目が合って、二度見した。




ボディーガードーーーーー!!




・・・いたわ、二人ともしっかりと。

間宮か佐藤、どっちがどっちだかわからんけども。

二人して違う衣装着てるから、全然わからなかった。

しかも土手の上を自転車で走ってる、

おっさんのふりしたボディーガードは

やつれきったサラリーマン風の髪型までしてる。

ボディーガードの「ボ」の字もない。

こやつら、やりおるな・・・。

完全に、リストラされたサラリーマンが

冬の夕焼けを見ながらサイクリングしてるのかと思ってた。



無事にバイト先についても、こちらには寄ってこない。

外では、話さないと言ってたよね。

せっかくついてきてくれたのに

完全無視してバイト先に入ってくのは気が引けたけど

それが彼らの仕事だから仕方ないのか。

無視して、出勤した。



そして、21時に終わるまで

彼らは何度もスーパーに入って買い物をしていた!

何度も衣装替えをしては入ってきて

一時間ぐらいショッピングカートを押しながらしっかりと買い物をする。

他の人のレジに並んでたけれど、天然水箱買いしていた。

それが終わると今度は入れ違いで

もう一人のボディーガードが衣装を変えて入店。

そしてショッピングカートを押しながら

のんびり店内を練り歩き、今度はサトウのごはんを大量に購入!

で、また入れ違いで変装してもう一人のボディーガードが入店・・・

閉店まで、この繰り返し。

ここまで徹底してるなんて、鳥肌が立った。

まるでストーキングされてる気分だ。

どれだけ変装用グッズを持ってきてるんだろう。

あたしのレジにも並んでたのに

あたしですら、わからなかった。

「3253円になりまーす」とお客さんの顔を見た瞬間に

「佐藤じゃん!」って気づいてビビったり。

今日初めて会って顔すら覚えてないのに

毎回帽子被ったりメガネかけたり服装も変えてるから

気づかないのは仕方ないとして。

さすがにバイト先で突然襲われるとか有り得ないから

ちょっと手加減するように、HALにLINEしなくては・・・。

一応、あたしが雇ったわけではなく、依頼主はHALだし

お金を払ってるのもHALだ。

だからあたしが何て言おうが

彼らはどこまでもついてくる・・・。



ボディーガードに見張られながらの仕事は

いつも以上に、疲労が溜まっていた。

バイトが終わって、外に出たら

やはり、二人で固まって待ってはいない。

閉店してるから、駐輪場にはいなく、

隣の団地の裏に、一人が潜んでいた。

あたしが自転車を漕ぎ出すと、脇の公園から

もう一人が自転車に乗ってあたしの近くを走る。

話しかけられないから、余計にモヤモヤした。

そのまま、風の家に行った。




風の家に入ると、さすがに中まではついてこない。

・・・やっぱり、彼らはリベルテの人間ではなさそうだ。

リベルテの人なら、時間差で風の家に入ってきそうなものなのに。

この寒いのに、外で待ってるなんて・・・



「愛美のボディーガードが外にいるの!?」



風は驚いていた。

そりゃ驚くよなぁ。

HALについてるならまだしも、なぜ庶民のあたしなんだ。




あたし「なんかHALがね。キラの最後の言葉であたしの事心配しててさ」

風「それ俺も思った!」

あたし「え!風も!?」




推理力抜群の風が言うと

信憑性が増す。

キラの最後の言葉。




「風愛友の正体が一銭にもならないのならば、次なるターゲットは……
わかるよね?頭のいい風愛友なら。」




風「うん。キラが狙ってるのは、愛美の事だと思う」

あたし「え、Lは?Lも大切じゃない?夢叶とか他にもたくさん・・・」

風「うん。もちろんみんな大切だけど、これは愛美の事だと思う」

あたし「なんで・・・?」

風「ただの勘。強いて言うなら、キラは愛美にメッセージをよく送ってるから」

あたし「ま、まじか」

風「昨日の今日でボディーガード付けてくれるなんて、さすがHALさん・・・・・・あはは。俺は太刀打ちできないや」




風が、切なそうに笑った。




あたし「い、いや!風はボクシング強いし!誘拐された時だって犯人ほとんど一人でやっつけてたし!」

風「それは友也でしょ?」

あたし「あ・・・・・・」

風「・・・俺も、いっぱい勉強して、HALさんみたいなお金持ちにならなくちゃ」

あたし「風・・・・・・」




これは、どう捉えればいいのだろう。

風はあたしの事、HALみたいに守りたかったのか。

あたしは風の事を、守り抜くと何度も言っていた。

風も、同じようにあたしを守りたいと

そう、思ってくれてるの・・・?




風「愛美はボディーガードが付いてくれてるから安心だね。よし!エキストラの話をしよ!」




風はいつも通り、推理大好きな風になった。