12月25日。クリスマス。





朝起きた風は、記憶を失っていた。





風「あれ?HALさんの手袋のつもりだったのになんで俺のバックに入ってんの?」





この言葉で、すぐに理解した。





風「はい、これHALさんの!」


あたし「あ、ありがと」


DAI「ねみー・・・もうちょっと寝かせて・・・」


風「朝ごはん抜きでいいなら寝かしますよー。

愛美、レストラン行こ」


DAI「ごはんいらないから寝る。いってら」




DAIは布団を頭まで被った。




まぁ、無料だから無理して食べなくてもいいのか。


あたしも昨日のお酒のせいか、


はたまたお酒飲む直前のデパスのせいなのか


ひたすら頭が痛くて、目覚めも悪くてグロッキーだった。


本来なら、この体調では


絶対朝ごはんなんて食べない。


でもあたしには、やるべき事がある。


昨日迷惑かけた人達に謝らなくては。




朝食の会場も、人がたくさんいた。


これ、みんなリベルテの人なのか・・・。




風「おわ!うまそう!先に行ってるね!」




あたしが謝罪するべき人をキョロキョロ探してたら


風はさっさとバイキングの所へ走っていった。


あたしもとりあえずコーヒーだけでもいれてこようかな・・・


と、思った時。




「愛美さん!大丈夫でしたか!?」




早速、謝るべき人の登場か!?


誰だ!?




振り返ると、友愛だった。




あたし「友愛!昨日はごめん!あたし何やらかした!?」


友愛「特に何も・・・大声で騒いでたぐらいですよ?そのあとはトイレに篭ってたらしいですけど・・・」


あたし「そ、そうなの?友愛に迷惑かけなかった・・・?」


友愛「迷惑も何も・・・」




なぜか、友愛は顔を赤らめた。


そして、あたしの袖を引っ張り


人の少ない壁際へ連れていかれた。





友愛「昨日、愛美さん、風愛友さんと・・・しました?」


あたし「なななななななにをっ!?」


友愛「セックスですよ」


あたし「なななななななんでっ!?」


友愛「・・・忘れてます?私たち、隣の部屋」


あたし「あ!?」


友愛「私たちもしたんですけど、終わってシャワー浴びてさぁ寝ようとした時、愛美さんの喘ぎ声が聞こえてきちゃって・・・」


あたし「は!?」





はっず!!


嘘でしょ!?


高級ホテルっぽいのに、そんなに壁薄いのか!?





友愛「その声で盛り上がっちゃって、もう一回戦しちゃいました (笑)」


あたし「いやいやいやいや・・・・・・」


友愛「愛美さんもついにしちゃったんですね」


あたし「え?」


友愛「浮気」





そうだ。


しちゃったんだ。


友愛とSugarは不倫だった。


でも一般的に見たら、友愛は終と別れたあとだから「独り身」だ。


奥さんがいるのわかってて・・・というのは置いといて


友愛自身は、彼氏がいたわけでもなく


浮気はしていない。


そう考えたら、物凄い罪悪感・・・。


例え、HALが許してくれたとしても。





逆に今なら、あたしはSugarと話が盛り上がりそうな気がする。


「好きな人に誘われたらしちゃうよね!?わーかーるー!」って共感し合いたいぐらいだ。




友愛「大丈夫ですよ。HALさんには言いません。だけど、夢叶さんは・・・」


あたし「・・・うん。なんか、あたしがシャワー浴びてる時に、風が夢叶に別れようってLINEしたらしくて・・・」


友愛「ええっ!?浮気じゃなくて風愛友さん、愛美さんに本気だったんですか!?」


あたし「わからない・・・単に浮気しちゃったから責任取って夢叶に別れようって言ったのかも・・・」


友愛「それ、本気って事ですよ」


あたし「え?そ、そうなの?」


友愛「当然じゃないですか。夢叶さんの事本気なら、最後まで浮気を隠し通しますよ。罪悪感に耐えられないのであれば、浮気を暴露して許してくれって懇願するかのどちらかでしょう?」




・・・本当に?


それならやっぱり、昨日のあの瞬間は


夢叶よりあたしの事が好きだった・・・?





あたし「あ、でも風記憶なくしたからこの事は内緒にしてね」


友愛「え?記憶なくしたとは・・・」


あたし「マリアが出てきてさ。HALと別れられないなら風が傷つくから、記憶消すって」


友愛「・・・・・・で、記憶なくなったんですか?」


あたし「うん。見事なまでに忘れてる・・・」


友愛「・・・ズルいですね」


あたし「え?」


友愛「もちろん、風愛友さんを責めてるわけじゃないですが・・・つい、浮気をしたとして。記憶がありませんでは済まないでしょう、普通なら」


あたし「・・・まぁ、そうだよね。お酒で泥酔してやっちゃって、それで記憶にはございませんっていうのはありそうだけど」


友愛「お酒だとしても、責任はありますよ。異性とお酒飲みまくってる時点で、お互いにやるつもり満々だったと思われてもおかしくないです。まぁ、私も人のこと言えませんけど・・・」


あたし「・・・そうだよね・・・」


友愛「泥酔したあとの浮気でも責任を問われると言うのに、解離性同一性障害で記憶がありませんでした、では責任は問われないのは、羨ましいですよね。悪いことしたら、別人格に押し付ければいい話ですから」


あたし「いや、風はそんな事しない、絶対しない・・・!」


友愛「はい、わかってます。これは一般論ですよ。解離性同一性障害の人はそんなずるい事をするような性格じゃないって事も、自分を責めすぎる人がなるって事も、私も勉強しましたし。ただ、マリアさんはなんでいちいち記憶を操作するんですかね?基本人格を傷つけたくないというのはわかりますけど、嘘の記憶と過去をでっち上げられて、風愛友さんは果たして本当に幸せだと言えるんでしょうか」


あたし「うん・・・あたしもそれは前から思ってた・・・しかも何度か記憶取り戻して、本人傷ついてたし・・・」


友愛「マリアさんは風愛友さんを守ろうとして、愛美さんを傷つけてます。愛し合った記憶を消されるのは・・・私だったら嫌です、耐えられません」


あたし「・・・・・・・・・」





友愛の気持ちが、素直に嬉しかった。


だけど、あたしが苦しむのは


当然の報いだ。


だって、あたしにはHALという恋人がいるのだから。


HALと別れようなんて思ってなくて


なのに風と、体の関係を持ってしまった。


本当なら、あたしがみんなから責められる立場なのに


マリアの記憶操作のおかげで


あたしは誰からも責められないのだから・・・。




「おぉ!愛美さーん!昨日あれから大丈夫だった!?」




Sugarが駆け寄ってきた。





あたし「あ・・・Sugar、ごめんなさい!あたし昨日の記憶なくて!Sugarに迷惑かけなかった!?」


Sugar「全く!逆にベロンベロンになってる愛美さん見れて面白かった (笑)」


あたし「そ、そこまでだったんだ・・・」


Sugar「急性アルコール中毒かもしれないって聞いたから、それは真面目に怖かったけどね。大丈夫で良かったよほんとに」


あたし「あ、ありがとう・・・」


友愛「あら。もーSugarさんったら。歯磨き粉が口元に付いてますよ」


Sugar「えっ!うそ!?」





友愛が指で、歯磨き粉のカスを取ってあげてる。


友愛とSugarは相変わらずラブラブだ。


いいなぁ、ラブラブで・・・。


・・・って思うのはヤバいのか!?


あたしはHALと永遠の愛を誓いあって


幸せなはずなのに!


いや、


・・・永遠の愛なんて、ないか・・・




「愛美さんは風愛友と付き合うのが幸せだと思います」




先日のHALのお母さんの言葉が、蘇った。


HALが一生、浮気しないと確定してるなら


あたしはこんなに不安にならずに済んだのに・・・




友愛たちに、コーヒー貰ってくると伝えて


トボトボとコーヒーを貰いに行った。


すると、風がオレンジジュースとコーヒーを両手に持って寄ってきた。




風「あれ、愛美の分も貰っといたのに」


あたし「え、あ、ありがとう!大丈夫!あたしどうせコーヒーおかわりするから」





「愛美ちゃん!大丈夫!?」


次は誰だ!?


今度はレイジとマモルだ!




あたし「レイジ!マモル!昨日は本当にごめん!!」


コーヒー片手にスライディング土下座しそうになった。


難易度高すぎてやめたけど。





マモル「愛美ちゃん、ちゃんと生きてるー!マジでよかった!」


あたし「そ、そこまでひどかった?」


レイジ「初めて見たよ、あんな姿・・・」


あたし「ど、どんな姿!?」




まさか裸になって腹踊りとかしてたの!?




マモル「叫んで笑って号泣してひっくり返って・・・とにかく凄かったよ。ね、風愛友」


風「え?」




風はキョトンとしている。


ま、まさか・・・?




風「愛美、昨日なんかあったの?」


マモル「へ?風愛友どした?昨日の愛美ちゃん凄かったじゃん!」


レイジ「まさか風愛友・・・未成年なのに酒飲んだ・・・?」


風愛友「ええ?俺病気だし薬飲んでるしもちろん未成年だし、飲むわけないですよ?」


あたし「あ、あー、風はね、解離がひどくて昨日の記憶あまり覚えてないんだよね!?」


風「うーん・・・確かに昨日って何してたっけ・・・ステーキ食べてたような記憶はあるんだけど」


レイジ「そうなのか・・・二人して記憶ないのはある意味凄いね」


マモル「でも良かったんじゃん!愛美ちゃんもあんな醜態、元好きな人に見られたくなかったでしょうに!」




「元好きな人」という言葉に


胸がチクリと痛んだ。





あたし「それより、覚えてないんだけどあたしが迷惑かけた人って、他にはアイナさんとS2だけ?」


レイジ「あれ?そこは覚えてるんだ?」


あたし「あ・・・」





アイナさんとS2に迷惑かけたっていうのは


記憶を失う前の、風から聞いてたんだった・・・。


どうしよう。あたしまで、頭がこんがらがってきた。




マモル「そうだと思うよ?すぐ会場から連れ出したからね」


あたし「そ、そっか。謝りたいんだけど、どこかで見かけなかった?」


レイジ「いや、見てないな・・・」


あたし「もし見かけたらあたしが会いたがってたって伝えてくれる?」


レイジ「おけ、わかった。それより時間制限あるから早く食べた方がいいよ?」


あたし「う、うん」


マモル「それにしても愛美ちゃんがあんなになるから、俺も一気に酔い冷めたよね~!おかげで飲みすぎなくて済んだ!二日酔いもしなくて済んだし」


あたし「あ、あはは・・・・・・ごめん」


レイジ「大丈夫、気にしないで。マモルを介抱する事考えたら、愛美ちゃん介抱してた方が断然いいし」




急に思い出してしまった。


記憶ない記憶ないとか言ってたけど


「レイジはまだあたしの事好きなの?」って質問したら


「未練はあるよ」とか言ってたのはハッキリ覚えてる!


しかもあたしなんで、あんな事聞いてしまったんだ!


失礼極まりない!!





急にいたたまれない気持ちになって


レイジとマモルにご飯取ってくるからまたあとでと言って


その場を離れた。


食べないけど。


風はついてきた。




風「愛美、昨日何があったの?」


あたし「あ、あはは・・・。あたしも酔い潰れたらしくて覚えてないんだ・・・」


風「体調大丈夫?二日酔いは?頭痛い?」


あたし「だ・・・大丈夫大丈夫!」




風は、覚えていない。


あたしがHALの事を酔っ払ってる時に言っていたらしい。


それを聞いて、風は「愛美は幸せになれてない」と言っていた。


という事は、あたしはHALの何か愚痴的なものを言ってしまっていたんだ。


それが、風の記憶から消えた。


その事は少し、安心した。


だけど、風の気持ちがあたしに向いたこと。


夢叶を振って、あたしを幸せにしてくれようとしたこと。


それを忘れられてしまった事は、


・・・悲しい。


自分勝手なのは、わかっている。


HALと別れようと思っていないんだから。


なのに複雑な気持ちだった。


また、風が思い出す事になるとは


この時は知らずに・・・。