クリスマスの夜。

風の唇とあたしの唇が重なる。

「俺が幸せにしたかった」




あなたはだれ?

本当に、あなたなの?

あたしはまだ、酔っ払っていて

白昼夢でも見ているのだろうか。




座っていたベッドの上。

あたしたちは、気づくと横になっていた。

風は、あたしの上にいる。

まだ、キスをしたまま。

気が遠くなる。

だめだ、これは浮気になってしまう。




「風愛友と愛美さんが例え、体の関係を持ったとしても、わたしは何とも思いません」




HALの言葉が脳裏をよぎった。

そうか。

HALは、あたしの事

何とも思っていないんだ・・・。

それなら、これは浮気ではない。

あたしは今のこの状況を何とかして

正当化しようとしていた。



「だって、HALは許してくれているんだもん」



そう、何度も何度も

心の中で言い続けていた。

この時は、夢叶のこと

1mmも思い出さなかった・・・。




なんで、あなたはキスをしているの?

聞きそうになった。

でも違う、そんなシラケた言葉を

今は言ってはいけない。

だってこれはどうせ、夢だから。

風も、何も言わないで

あたしの 体を

愛し始めた。





日付が変わっていた。

今は12月25日の、クリスマス。

聖なる夜に

聖なる二人が結ばれる。

浮気とか、セックスとか

そんな陳腐な言葉で片付けたくない。

風もあたしも、泣いていた。

なんの涙かは、わからない。

なんで泣いてるのか、誰にもわからない。




過去、あなたに振られて

現在、あなたには彼女がいて

現在、あたしには彼氏がいて

未来、どうなるかなんてどうでもいい。

今、この瞬間が「全て」。

今のこの瞬間が、一番大事。

あたしたちは、お互い

こんなにも、求め合っているんだから。



「好きだ」



何度も、心の中で繰り返す言葉。

言葉には、出さない。

ここまでお互い無言で愛し合う事は

生まれて初めての経験だった。




風が入ってくる。

あたしの、中に。

温かい。

なんでこんなに温かいの?

彼の心みたい。

いつもあなたは、あたしの天使だった。

あたしは天使の下で

踊り狂った。

薄目で見る風は

愛おしそうに、あたしの顔や、体を

優しく撫でまわして

キスをした。




あたし、愛されてる。

ずっと片思いだった彼に、愛されている。





あたし「好き」


風「うん」


あたし「好き・・・!」


風「わかってる」





我慢できなくて、言葉を発した。

「わかってる」なんて。キザだね。

でもそんなあなたも、好き。

好きな人だから

何を言っても

何をされても

好き。




あたしは、夢を見ている。

紛れもなく現実なのに

これは、夢になるんだから。




今、あなたを愛することに

一切の不安はない。

HALを愛してる時には

いつも、不安になる。

そして、風は

あたしのおなかのうえで

果てた。




あたし「風・・・」

風「ん?」

あたし「・・・本人?」

風「うん。自信ないけど、たぶんそう」




風本人だ。

風は解離だから、いつも同じ事を言う。

自信ないけど、たぶんそう。と。

別人格なら、違う。

友也なら「俺は友也だ!」と怒るし

小さいともやくんなら「ちがうよ!」と言うし

ユウトなら「名前を忘れるなんてひどいなぁ」と笑い

未来なら「未来ちゃんだよー!」と聞く前から名乗る。




自分が誰なのかと、不安になる解離性同一性障害なのは

基本人格の、風だけ。




風「愛美、先にシャワー浴びてきなよ」



風があたしのおなかを拭きながら言った。



あたし「う、うん」

風「今日・・・晴れだって。ホワイトクリスマスにはならないね」



風があたしから離れて

カーテンを少しだけ開けて

外を見た。



あたし「だね。東京のホワイトクリスマスって、滅多にないよね」

風「うん。ここは山梨だけどね」

あたし「あ!そうだった!」

風「愛美、まだ酒抜けてないんじゃないの?」




風が笑って、窓を閉めた。

そして、ベッドに寝ているあたしを抱きしめた。




あたし「・・・・・・風は」

風「ん?」

あたし「好きなの?・・・あたしのこと」

風「好きだよ」




なんの迷いもない、即答だった。

でもそれは?

友達として?

家族として?

人間として? 

なぜ、風はあたしを、抱いたの?

たくさん、聞きたい事がある。

でも、聞けなかった。




風「あ、DAI先輩戻ってくる前にこれ」

あたし「え?」




風は自分の荷物の中から

ラッピングされた袋を取り出して

あたしに渡してきた。




あたし「こ、これ・・・」

風「メリークリスマス」

あたし「あ・・・あ・・・あたしもあるの!」




あたしも急いでバスタオルを巻いて

急いでキャリーバッグの中から風へのプレゼントを渡した。




あたし「メリークリスマス!」

風「あ、ありがとう・・・!」




あたしからのプレゼントは、NIKEのシューズ。

Lに事前調査として聞いたら

風の学校ではadidasとNIKEのシューズが流行ってるらしい。

で、風はadidasのシューズは持っているけれど

NIKEは持っていなかった。

学校に履いていけるようなものではなく

友達と遊ぶ時用の、赤と黒のカジュアルな物にした。




風「こ、こんな高い物・・・ほんとにいいの!?NIKE欲しかったんだ!」

あたし「いいのいいの!そんな高くなかったし!」




去年のクリスマスにも、同じようなやり取りしたなぁ。

いや、でも本当に、NIKEの割に最新モデルじゃないからか

そこまで高くなかったんだけど (笑)

あたしも、風からのプレゼントを開けた。

中身は・・・・・・





あたし「え・・・?」





黒の手袋と

淡いピンクの手袋だった。

色違いの、お揃い・・・?




風「あ。これ!」




風が、黒の手袋を取った。




風「これは、俺の!」

あたし「え・・・」




風と、お揃い・・・!?




いや、違う。

これはたぶん、HALのだったんだ。

風がそんな事、するわけが無い。

さっきあたしは酔っ払って

何をぶっちゃけちゃったのかわからないけれど

「俺が愛美を幸せにしたかった」

その言葉で、理解してしまった。




あたしが何かを言ってしまう前まで

風は、あたしとHALの幸せを願っていた。

じゃ、今は・・・?

風はあたしと、どうなりたいの・・・?




あたし「あ、あの・・・」

風「さーて。そろそろ仕事しなくちゃ!」




風はベッドに飛び乗って

自分のスマホを手に取った。

・・・こんな時にも、いじめ相談か。




あたし「じゃ。お先にシャワー浴びてくるね」

風「おけ」




シャワーを浴びる。

たった今まで、こんなにも愛してやまなかった彼と

愛し合っていたんだ・・・。

前にも風とそういう事したことあるけど

あの時はまだ、HALとも付き合ってないし

風も夢叶とは付き合っていなかった。




・・・・・・あ!!



夢叶を裏切った・・・・・・!



この時になって、初めて気がつく。

HALだけではなく、夢叶を裏切ってしまったんだ。

どうしよう・・・あんないい子なのに・・・

あたしにも、「感謝してます」って言ってくれる子なのに・・・!





ダメだ。

デパスを飲んで、泥のように眠ればいい。

そうしたら、今夜の出来事は全て

「夢だった」と気がつくはず。

あ、でも19時前に飲んだけど・・・

もうデパスの効力切れてるよね・・・?

でもさっき、デパス飲んでお酒飲んであんな事になっちゃったから

今飲むのは危険な気がする・・・。

悩みながら持参したパジャマを着て、部屋に戻ると

風は、スマホを持ったまま、倒れていた。




あたし「風!?」




あたしは焦って風の元へ・・・・・・

あ、なんだ。生きてる。

微かに寝息を感じた。

と思ったら、いきなり風は目を開けて

あたしはギョッとした!




あたし「び、びっくりしたぁ!寝たフリかい!」

風「・・・・・・・・・」




風はあたしをじっと見て

起き上がって、ベッドの上に正座をした。




風「・・・マリアです」

あたし「へっ!?」

マリア「あなたとお話をしたくて」




その時、風のスマホの通知が来た。

マリアが難しい顔をしてスマホを見るから

つい、あたしも釣られて見てしまった。

夢叶からだ。




「やだよ。なんで?別れたくない。理由を教えて」