「もし風愛友が愛美の事を好きになったら、HALと風愛友、愛美はどっちを取るんだろうね」





大志の言葉が頭にこびりついていた。


もちろん、絶対ない。


でも大志は「絶対ないとは言いきれないよね」


と言った。





別人格の友也やユウトには好きと言って貰えた。


それだけでも迷いまくって混乱したというのに


基本人格の風があたしの事を好きになったら


本当に、あたしはどうなってしまうんだろう。


とはいえ、HALの事も愛してる。


絶対に、一生手離したくない。


それなら答えはひとつのはず・・・。


いや。


現時点でそんな事起きてもないし起こるはずもない。


こんなくだらない事で悩むのはやめよう。




12月6日




今日もHALとは会えない。

HALは夜なら会えると言ってくれたけど

夜はあたしはバイトだった。


誰かに代わってもらおうかとも考えたけど

明日は月曜日でHALも仕事。

これでまた、寝不足とかで事故起こしたら大変。

あたしは今度にしようと、言った。

本当は少しの時間でもいいから


会いたくてたまらない。


家が近ければなんてことないのに・・・。





夜、友愛からLINEが来た。

ハッピーな報告だ!待ちかねてた!




友愛「Sugarさんが離婚しました!でも、大変な事になってまして・・・今度の金曜日の夜って空いてますか?」

あたし「良かったじゃん!金曜の夜ね。バイトないから空けとくよ!」





明るく返信したけれど、嫌な予感がした。

最近トラウマになってる、

「大変な事になってる」という言葉。


やだなぁ。またなんかあるのかなぁ。




最近心が疲れてる。

精神安定剤のデパスがなくなってしまった。

これがなくても体調良くならなければ

心療内科に行けと言われてる。


体調悪くは無いけれど、夜がなぜか眠れない。


昔は夜にどんなにコーヒー飲んでも眠れたのに。


不安だった。また吐くんじゃないかと。

でも、HALの病院は遠い・・・。


学校の帰りに行ければいいけど、乗り換えがあって面倒だ。

行くなら地元の近い病院がいい。

今度病院探して予約しなくちゃ・・・。




12月7日




今日は学校だ。

講義を終えて女友達のりんと話してると

大志が走ってきた。

またコイツ走ってるよ。




大志「愛美!やっと2016年突入した!」

りん「何言ってんの。あと2ヶ月ちょっとで2016年終わるよ?」

大志「いや、ブログだよ!」


りん「ブログ?」

あたし「!!」




りんに見られないようにあたしは大志にシーッシーッ!っとやった。




大志「あっ!いや、なんだっけ、何言おうとしたんだっけ!」

あたし「さー?知らんわ」


りん「ブログって言ってたよ?」


大志「あ!アイドルのブログのこと!」


りん「大志アイドルなんて好きだったっけ?」


大志「そ、そー!ドルヲタに目覚めた!」


りん「え、アイドル!?誰が好きなの?」


大志「な、なんか忘れた!!」


りん「は?大志ってほんといつも慌ててるよね」

あたし「それな」

大志「いや~あはは!じゃ、またね!愛美、今度LINEするわ!」

あたし「なんでよ。急用の時だけにしてよ」

大志「いーじゃん別にしても!俺たちの仲なんだし!」

あたし「どういう仲よ!」


大志「超特別な仲じゃん!?」


あたし「やめてその誤解生むような事!」


大志「とりあえず夜LINEするー!」




大志はまた走り去っていった。




りん「ねぇ。特別な仲って・・・大志と付き合ってるの?」


あたし「ま、まさか!?あたし超大好きな彼氏いるって言ったじゃん!!大志ふざけてるだけだよ!」


りん「じゃ、大志また愛美の事狙ってるんだね・・・」


あたし「はぁ!?それはない!」


りん「私は大志の事狙ってるけど」


あたし「えぇっ!?そ、そうだったの!?りんと大志お似合いじゃん!!」


りん「それマウント取ってる?」


あたし「え・・・?」


りん「愛美は弁護士のお金持ちと付き合ってるもんね。なのに大志にも好かれてる」





なんだろ。


さっきからりんの言い方が刺々しい。





あたし「あ・・・・・・いや・・・?大志には別に好かれてないけど・・・」


りん「なんか最近怪しくない?前も二人で飲んでたらしいじゃん」

あたし「え?あー!あれね。恋バナしてた!彼氏のこと大志にノロケてた!」

りん「・・・・・・ふーん?」




本当は、恋愛相談してた。

でも「恋愛相談」とは言いたくなかった。

恋愛相談=狙ってる、下心ある。


あたしが大志に弱みを見せて、


彼氏以外にも色目を使ってる


・・・そう思われる気がした。


だから恋バナにしといた。




りん「愛美も弁護士の彼氏と上手くいってるの?」


あたし「そそ。好きすぎて頭がおかしくなりそうなぐらい!でも向こうの親からは別れろとか言われるしトラブル多発で前途多難なの!!」




これも嘘ではない。


だけどここで自慢してはダメだ。


女の嫉妬は「幸せそうな女」に向くから。


だからちょっと不幸臭を出してみた。





りん「で、大志はキープって事?」

あたし「だ、だから大志もあたしもお互い何とも思ってないし」

りん「昨日大志と愛美が二人で下りの電車に乗ってるとこ、しょうたろうが見たって言ってたよ?大志が下りの電車って・・・愛美んち行ってたんじゃ?」


あたし「・・・!」




しょうたろうに見られてたんだ。


これは疑われても仕方ないかもしれない・・・。


でも、男女の友達でも、一緒に電車乗るぐらい


いいじゃん・・・?


なんでこんな風に責められなくちゃいけないの?


あたし大志の事何とも思ってないのに・・・。




りん「昨日見たのがしょうたろうで良かったじゃん?それもし愛美の彼氏に見られたら終わりだよ?気をつけな?」


あたし「あ、あー、うん、昨日ね。共通の友達に会いに行ってて・・・」


りん「共通のって誰?男?」

あたし「いや、女・・・」




ここで男と言ったらダメだ。


あたしは彼氏いるのに、男の大志と他の男の家に行くなんて


女の嫉妬を加速させてしまう。




りん「共通の友達っていたっけ?」


あたし「い、いるよ。別にその子大志の事狙ってるとかじゃないから安心して?」

りん「ふーん?」





りんがやたらと突っかかってきてる。


女の嫉妬は女に向かう。


いじめ撲滅組織リベルテに入ってから


その構造は、良くわかってる。


嫉妬から、いじめが始まるのだと。


りんは一人だから、これはいじめでも何でもない。


これで、りんが他に仲間を作ってあたしに嫌がらせをしてきたら、いじめになる。


そんな状況になったら、あたしは応戦するし


それか無視をする。


あたしが今なぜ戸惑ってるかというと


りんは、高校時代から仲良くしてきたから・・・


りんとは付き合い長いし


今、明らかに嫉妬されてるのはわかるから。





・・・・・・・・・・・・・・・。





考えるのが、苦痛だ。

一人になりたい。


一人にさせて。






かと言って、一人になるとマイナス思考になる。


放っておいて欲しいのに


一人になると、怖くなる。




「私は大志の事狙ってる」




りんの言葉が、あたしの行動を制限する。


これ以上、大志と仲良くするなって釘を刺したんだ。




「マウント取ってる?」




この言葉も、あたしの心を傷つけるのに


充分だった。


マウントなんて、取ってない・・・。


あたしは自分がモテるなんて、ひけらかしてない・・・。


確かに「お金持ちの弁護士が彼氏」と公言してる。


それは羨ましがられたくて言ってるんじゃなく


合コンにいちいち誘われるのが面倒だから。


ただの「彼氏がいるから」だと


「いーじゃんそんなの~」ってなるから


「お金持ちの弁護士の」って枕詞は重要なんだ。


それを自慢と受け取られたのかも・・・。





電車の中でスマホを出した。


真っ先に、地元の心療内科を検索していた。


だって電車の中でも


勝手に涙が出てきそうになるんだもん。


大志に悪気がないのはわかっている。


でも、女の怖さというものも、少しはわかってほしい。


いじめ撲滅組織の正式メンバーなら尚更。


帰宅してから、電話で心療内科を予約した。

早めに・・・・・・早めに動かないと


また、危険な気がした。





夜、風愛友のタイムラインをチェックする。






正論か・・・。


「いじめは良くない」

これは正しい。

でもこの正論を言ったって

確かにいじめしてる人の心には

少しも、響かないだろう。

ならば、どう言えば心に響くんだろう。

そんな奴らには何を言っても、ダメな気がする。

いじめしてる人なんか

そういう奴らと勝手につるんでればいい。

そして誰もいじめしないで

誰にも迷惑かけないで

お互い勝手にやり合ってればいいのに。

そのかわり、

いじめしない人間を巻き込まないで欲しい。



12月8日




学校行きたくない。

なんか、昨日の事があってから本当にやだった。

でも、今日はりんと違う講義。

だからなんとか行けた。

帰宅中、電車の中でボーッとスマホを眺めると

風愛友からLINEが!

ガバッと食いつくようにLINEを見た。




風愛友「明日ジャックさんが夜うちに来るんだけど、愛美も来る?」

あたし「行く行く!!」




スケジュールも確認しないで、即返信。

ジャックにも会いたいけど、

風愛友に会いたい。

会いたくてたまらない。

風愛友はあたしの精神安定剤になっていた。



12月9日




ジャック「安定してるねぇ!これが恋の力ってやつかな?」

風愛友「そうなんですか?恋すると人格交代減るんですか?」

ジャック「個人差あるけどね。そういう患者さんいますよ。恋が上手くいってる時に限り、だけどね」

風愛友「めちゃくちゃ上手くいってます!」




ジャックと風愛友は楽しそうに談笑していた。

あたしは今日は、学校終わってから


そのまま風愛友の家に来た。


やっぱりそうなんだ。

風愛友は恋愛が上手くいってれば

解離の症状が軽くなる・・・。


それこそ、風愛友の運命は

夢叶の腕にかかってるって事だ。




ジャック「良かったですね。問題は愛美さん・・・」


あたし「へっ!?あたし!?」

ジャック「上から聞きましたよ。体調崩されてると。でも、検査では何も見つからなかった。精神的な問題だと・・・」


あたし「あ。そうそう!その上の人って誰ですか!?あたしを検査しろって命令してくれた人」

ジャック「・・・・・・」


あたし「HALはあたしが体調崩してたの知らなかったみたいだし・・・アキラですか?」


ジャック「それはすみません、言えません」

あたし「その上の人に、内緒にしろと言われたんですか?」

ジャック「いえ。内緒にしろとも、言ってもいいとも何も言われてないからこそ、言えないんです」


あたし「・・・え?」


風愛友「本人に言ってもいい。と言われれば言ってもいいけど、特に何も指定がなければ言ってはいけないという事。それが組織のルール・・・ですよね?ジャックさん」

ジャック「はい」




風を見たら



なぜか不敵にニヤリと笑っていた。




ジャック「薬はもう飲んでませんか?」

あたし「あ、はい・・・なくなりました」


ジャック「それからはどうです?」

あたし「眠れない日もあったり、普通に眠れたり・・・まちまちです」


ジャック「食欲は?」

あたし「あまりないです・・・」


ジャック「吐き気は?」

あたし「時々、不安になると気持ち悪くなったりします。吐いてはないんですけど」


ジャック「ふむ・・・これはもう少し通院したほうがいいですね」


あたし「あ、予約しました!最寄り駅の心療内科!」

ジャック「え!?アキラさんの病院じゃなくて!?」

あたし「はい。遠いもん」

ジャック「・・・困りましたね・・・」





は?

何が困るの?

誰が困るの?




さっきからジャックはあたしの質問をしながらカルテみたいなのに記入してるけど

なぜか、風もさっきからメモを取ってる。


ジャックが書くのはわかるけど


風は何を書いてるの?




ジャック「でもわたしから愛美さんに勝手に薬は出せないので・・・今辛いなら、近場の心療内科で出してもらうのは仕方ないですね」


あたし「そりゃそうでしょ。患者にだって病院を選ぶ権利はあるし」


風愛友「当然。患者は病院を自由に選択できる権利がある。日本医師会のホームページにも書いてあるぐらい、基本中の基本」





風はニヤニヤしながらペンをクルクル回してる。


ど、どうした風・・・?


さっきから様子がおかしい?




風愛友「愛美がHALさんの病院で、無理やり検査されまくったんだっけ?それってインフォームド・コンセントに反するよね?なんの検査をするのか患者に十分な説明しなくちゃね?説明と同意がないのに検査するとは日本じゃないね?ここがアメリカなら、愛美がHALさん味方につけて、裁判起こせちゃうかもね?」


ジャック「よ、よくご存じで・・・」


あたし「風・・・本人?」


風「当然」




風「医療法で医師は患者に十分な説明をし、患者側の同意を取る義務がある。検査の説明する責任がある。まあ今回は愛美は検査拒否してなかったからあれだけど。これで何かあれば訴訟起こせるよね。

日本国憲法第13条かなんかに抵触するかもしんないね?日本人じゃそうそうない事例だけど」

ジャック「・・・ですね」


あたし「・・・こ、小難しいことよく知ってるね・・・」





ニヤニヤしながら話す風は


この時、完全に別人格に見えた。