悪魔は招かれぬ所へは出向かぬ紳士である。

                         ー  エイブラハム・リンカーン  ー







車のライトが見えた。

ついにHALが到着した。

やっとHALに会える。

HALは心配してるだろうに、なのにあたしはHALに会えるのが嬉しかった。

ジェイルはHALにどんな交渉を持ちかけるのだろう。

車が三台、急ブレーキをかけてこの広場に突っ込んできた。



HAL「愛美さん!!」



あぁ、あたしの王子様……!



川嶋が運転席から、HALは助手席から

後部座席からは、間宮と本橋と知らない男が同じ車から降りてきた。

もう一台からは、運転席から進、助手席からは美鈴さん、

後部座席からはJ、工藤が降りてきた。

最後の車からは運転席から、KENちゃん、学長、マモル、レイジが出てきた!

こんなにたくさん来てくれたの!?

嬉しいけれど、申し訳ない...。

あたしの不覚で、みんな仕事とか忙しいはずなのに

軽井沢まではるばる来させてしまった。

学長に絶対後で怒られそう。

HALと間宮と川嶋が、先陣を切ってこちらに向かってきた。



ジェイル「ストップ!ここから交渉だ」

HAL「まずは愛美さんを離せ」

ジェイル「それならHAL一人だけこっちに来て。少しでも変な動きをしたら即愛美を傷つける」

HAL「……」



あたしの隣に、ジェイルの手下が二人来た。

そして小さなナイフをあたしの首に両側から当てられた。

まあ、人質というものはそれが役目だろう。

とはいえ、多分コイツらはあたしを傷つけはしないと心のどこかで安心はしている。

この変な十字架、ジェイルの手下が作ったというのなら

地面から引っこ抜けないだろうか。

ちょっと膝を曲げて思いっきり立ち上がって十字架を抜こうとしたけど、ビクともしなかった。

縛られてる腕と腰に、ガクンっという音と共に、縄が肉にめり込んで痛かった。

そりゃそうか。

これで簡単に抜けて、十字架背負ってがに股で逃げ出すのもとんでもなく滑稽だ。

想像しただけで、なんかもう情けなくて恥ずかしくすらなる。

一生伝説になりそう。



HAL「で?要件は?」



知らない間にHALがすぐ近くに来ていた!

私の王子様……!




ジェイル「雨も激しくなってきたし、簡潔に言おう」

HAL「……」

ジェイル「HAL、こちら側につけ」

HAL「ふっ。結局想像してた通りか。そもそもこちら側とはどちら側でしょう」

ジェイル「世界を操る裏の人間、つまり都市伝説大好きな人たちが騒いでる闇の組織だよ」

HAL「ルミエール?」

ジェイル「半分正解。ルミエールの中にも組織がある」

HAL「組織の名は?」

ジェイル「うちの組織に入ると言うなら答える。今の段階では言わない」

HAL「狙いはそれだけ?その組織に入って何をしろと?」

ジェイル「別に何もしなくていい」

HAL「は?」



この答えに、ふとリナの顔が思い浮かんだ。

「愛美はうちの組織にいるだけでいい」

この言葉を。



HAL「肩書きだけが欲しいのか?HAL派を手に入れたという」

ジェイル「そんなお子様みたいな浅い考えではないよ」

HAL「じゃなんのために?」

ジェイル「HALは俺の仲間だからだよ」

HAL「仲間?なんの」

ジェイル「悪魔の子」



悪魔の子。

なんの悪魔だろう。

リナもHALのこと、悪魔の血筋とか言っていた…。

あたしがリナの組織、ティンクに入ったらその事詳しく教えてもらうはずだったのに

聞く前にこんな事になってしまうなんて…。



HAL「とにかく愛美さんを早く解放して!雨がひどい!」

ジェイル「まあまあ。早く答えを出せば済むことじゃん」

HAL「わけのわからない組織に入れと?なんの説明もなしに?何をしてる組織なのか!」

ジェイル「何をしてるかなんて話してたら何時間もかかる」



雨が強くなってきて、二人の会話が聞こえずらくなってきた。

寒い……。

本当に寒い。

ジェイルにかけてもらった上着も、雨を吸い込んでどんどん重く冷たくなり

あたしの体の熱を奪っていく。



HAL「とにかく愛美さんを雨に濡れないようにところに!」

ジェイル「簡単に言うよ?俺はアメリカのとある派閥から使われてる」

HAL「アメリカ……?日本ではなく?」

ジェイル「彼らからの司令はこうだ。河野派と鷹派を潰せと」

HAL「え!?」

ジェイル「面倒だからもっと端折って言うよ?耳の穴かっぽじいてよーく聞け」



雨の音がうるさい。

ちゃんと聞こえるようにジェイルは大声で言った。



ジェイル「HAL。お前は俺の兄だ」

HAL「は……?」

あたし「!?」



HALの弟が

ジェイル……!?