右も左もない交差点で笑う女の子は私の一人娘だと言って、スカートの裾をつまんで挨拶した。誰もいない真夜中の交差点は、ちょっとしたディストピアにでも来たような感覚に包まれていく。

 

 君は本当に、僕の娘なの。

 

 女の子は、きゃははははと高い声で笑い声をあげると、ぴょんと跳ね上がり、宙でクルリと一回転すると、一匹の狐に姿を変えた。

 

 まあ、嘘ですけど。

 

 耳の中に直接滑り込んでくるように、鈴がなるみたいな澄んだ声が聞こえた。

 

 こりゃあ、参りましたね。

 僕も結構な嘘つきですが、君もなかなかの嘘つきだ。

 

 しばらくは外で使えない、明治時代の電話機然としたマイクを出して起動させて、僕は狐に向かって呼びかける。

 

 どうぞ、ご無事に。

 

 マスク越しに放った声は曇っていたけれども、それと反して僕の心はすっきりとしていた。

 

 いつ、シブヤは夜に賑わいを取り戻すのか。

 近い未来かそれとも、先のことなのか。

 

 明日には元に、戻るでしょう。

 

 まあ、嘘ですけど。