度胸試しで金を賭けようと、カジノ仲間で千駄ヶ谷トンネルに行ったときだ。時間はそうだな……日付が変わるころ、24時前後になる。人数は全部で3人、みんな借金抱えてくさってたり、取り立てがやってきて明るい時間は外に出歩けないっていう連中ばっかだ。

まあ、そんななかでも博打はやめられねえってことで、ギブアップした奴がみんなに酒でもおごるって話になった。

 ちなみに千駄ヶ谷トンネルっつーのはシブヤディビジョンにある古いトンネルでな、噂によると「出る」らしい。

もともと、化け物より借金取りのほうが恐いって連中だから、暗くて物騒だなとは思ったが、スマホ片手に歩いて行った。

 

トンネルの中を歩いている途中、ひとりが「おい帝統、あれ……」と深刻な感じで呼びかけてきた。

俺たちが歩いている、ちょっと先を指さして。

 

 なんだ?と思って、俺も目をこらしたが、暗いからよく見えねえ。

 でも、声は聞こえてきた。か細く、悲しげな声だった。

 ……けて、助けて。助けて。

 声からして、女だと思った。

 物騒な場所だし、悪い奴らになんかされたのかと、なけなしの正義感を抱えて慌てて駆けつけた。

近づくにつれて、そいつがふわっとした人影から、だんだんと「何者か」はっきりしてきたとき……俺たちは、背中を向けて引き返すしかなかった。

 

 助けを求めていた奴を目の前にして、俺は思わず、ヒプノシスマイクを使おうと思ったぐらいだ。

 

 女なんか、どこにもいなかった。

 両足切られて逆さに吊られて、ぼろぼろになったマネキン人形が、赤く塗られた顔をゆがませ「助けて、助けて」って、繰り返していたんだ。

 

 スマホで照らしたとき、塗料がはげてグレーの下地がのぞいてたんだから、間違いねえ。

 

 引き返したあとは、ファミレスで震えながら、朝まで過ごした。

 

 けど、気持ち悪いのはここからだ。

 そのうちの一人が、毎晩のように千駄ヶ谷トンネルへ、通うようになっちまったんだ。カジノにも顔を見せねえ、部屋にもいねえようになった。

 

 近所にある飲み屋でな、妙な噂が聞こえるようになったのも、それからだ。

 

 千駄ヶ谷トンネルには、マネキンの首を抱えて立つ、男の幽霊が出るらしい。 

 

 あいつは、助けてという声に騙されて、連れて行かれた。

 それとも、とうとう借金取りに追われて、やばくなっちまった。

 

 お前らは、どっちの説に賭ける?

 俺の話はこれでおしまいだ、さあ、次にまわしてくれ。