女性社員なら恫喝にセクハラ、男性社員なら恫喝に加えて暴力とパワハラ、憂さ晴らしをするように新人を怒鳴りつけている、そんな部長がいたんです。成績はよかったから、人事も何も言えなくて、されるがままでサンドバッグになっていた同期はみんな、身体を壊して辞めました。
 
 ある日、そいつが珍しく真っ青な顔で出勤してきたんです。

 嫁が娘をつれて、出て行ったって……。

 か細い声で、絶望しながらつぶやいていました。
 
 怒鳴りつけていた姿はどこへやらという感じで「なあ、観音坂。お前、これ見てくれないか?」と、ずいぶんと覇気がない声で言い、スマホの画面を僕に差し出してきました。

 そこには……家族の名前が書かれた紙に包まれた、真っ黒いものがうつっていました。三箇所が、こよりみたいな細いヒモで結ばれていて、頭、胴体、手足とわけているようでした。

 人毛だよ、とそいつは吐き捨てるように言いました。
 
 これなあ、家の前に、段ボール箱に入って、置いてあったんだよ。

 一緒に、なにが入っていたと思う?毛虫やミミズ、ネズミの死骸だ。

 嫁が怖がって、子どもは泣くし、俺は口をすべらせて、会社でしてきたことが、全部ばれちまった。
 
 二人とも「信じられない」と、怒っていやがった。世の中を知らねえんだよ。
 
 いい親父演じてたのによお、観音坂ぁ、お前も俺が嫌いなんだろ?

 憎いんだろお?なあ?
 
 しつこくて気持ち悪かったので、僕は「外回りしてきます」と言って、ふりはらって会社の外に出ました。電車に乗ってしばらくしてからでしょうか、会社から電話がかかってきて、すぐ戻ってきてほしいとのことでした。
 
 屋上から、そいつが飛び降りて亡くなったという知らせでした。

 急いで戻ると、パトカーや救急車、野次馬などで会社の周りが大騒ぎでした。

 喧噪のなか、ふと僕は屋上を見上げました。

 辞めていったはずの同期が、こちらを見下ろしニヤニヤと嗤っていました。

 僕の話は、これでおしまいです。