同じヨコハマ管轄の、鑑識をしているYという男から聞いた話だ。
腕利で、俺も何度か世話になっている。落語と電車が好きな変わり者だ。
そいつが「入間さん、私は今まで懐疑的な認識でしたが」と前置きして、先日臨場に立ちあった現場での話をしてくれた。
場所は詳しく言えないが、ヨコハマの区内になる。ある一戸建てで、まだ小学生の娘が亡くなった。後頭部からの出血が原因と思われた。錯乱した母親と、取り乱す父親をなだめつつ、Yは鑑識として家中を調べ始める。
玄関から、亡くなった現場である物置部屋、子ども部屋に風呂場、何か証拠になるものはと必死で、文字通り目を皿のようにして見ていたところだ。
・・・・・・おじさん。
・・・・・・ねえ、おじさん。
かすかな、弱々しい少女の声が、Yを呼んだ。
目の前に、傷だらけの足が、浮かび上がるように現れた。
見上げると、先ほど物置部屋で冷たくなっていた少女が立っている。赤いワンピースを着て、真っ青な顔をして。遺体と同じ姿で。
Yが驚き、固まっていると少女はリビングの方を指さして「・・・・・・つかまえて」と言った。
そして、すっと消えてしまったそうだ。
経験で培った勘だろう、Yはリビングに行き、ソファーの下や家具の隙間、その他ありとあらゆる場所をくまなく調べた。
犯人は、しつけと称して、隠れて虐待してきた両親だった。取り乱す様もすべて、芝居だったというわけだ。
Yは「証拠は冷蔵庫の野菜室にありました。死因は脳挫傷、凶器と思われる折りたたみ傘が、丁寧にばらして入っていたんです」と打ち明けてくれた。
しょっぴかれる前、両親は「もう少しだったのに」とこぼしたそうだ。
入間さんがいなくて良かったです、とYに言われた。
俺の話はこれで以上。