手首ネタで盛り上がっているところ、水を差すようで申し訳ないのですが、テーマは「家」なので、流れを戻していきたいと思います。
 
 実は、小生も以前一二三くんや独歩くんみたいな毎日を過ごしていた時期がありまして、ええ、ポッセに入る前の話です。
 
 なにしろ、駆け出しの作家でしたから原稿料も雀の涙。執筆する時間はほしいし、お金も欲しい。短期契約のバイトをして、どうにか食いつないでいました。
 
 家賃だって、良い部屋に住むにはそれなりにお金がかかります。それでも、ある程度は・・・・・・と欲するのは人間の我が儘でしょう。
 
 小生も、何はともあれ人らしい生活がしたい。不動産に駆け込み、どこか安い部屋、ちゃんとした部屋はないかと訊き回りました。ええ、もうなりふり構わず、安ければ、過去は問わないと。部屋のたどった歴史は、この際目をつぶりますと。
 
 汗水をたらして探し回った結果、ある不動産で「こちらの部屋ですが、本当によろしいですか?」と前置きされて、連れて行ってもらいました。新築のにおいがするデザイナーマンションで、家賃は風呂無し、トイレなしの部屋と同じぐらいでした。
 
 差し支えなければ、と理由を訊いたところ「住み着いているんです」と不動産の方は、そうおっしゃいました。
 なるほど、と小生は合点がいきました。
 
 住み着いていましたよ、壁中に。
小袖姿の女性と、主人とおぼしき首無しの侍が。
刀をふりまわし、小生を威嚇するようにして、睨んでいました。
 
 これも話にできるでしょう、と小生は契約し、2年ほど住んでいました。
 彼らも小生が何者か察したらしく、時折すっと原稿用紙をのぞいては、興味深く背後でべちゃべちゃと喋る声が聞こえてきました。
 
 まあ、嘘ですけど。住み着くモノはいますよ、どこにでも。
 小生の話は、これにておしまいです。