はいはーい、女の腕で思いだした話があったんだー。
 またまたお約束の円山町なんだけど、お姉さんとサブカル的なイベントを見て、そのあとちょっと関係者だけで二次会ってことで呼ばれたんだよね。
 業界の人も来るから、デザイナーとしても売れないとポッセが食べていかれないでしょ?だからお仕事のひとつとして顔を出したんだ。
 
 そこで、主催の雑誌編集者さんだったかな?
 かなりおしゃれで、そうだなあ、寂雷より10歳上だったかな?ちょい悪おじさんってはやったじゃん、あんな感じの着こなしが似合ってた。
 
 名前は、仮にSさんとしておくね。
 Sさんもお姉さん大好きだから、飲みに行ったり、自分の部屋に呼んだりするんだって。たまにかち合って、喧嘩になったりすることもあるんだって。もてるってすごいよねえ。
 
 つい最近、雑誌の撮影で目をつけたモデルさんを、自分の部屋に連れて行くことができたから、今日こそはなんて考えながらドアを開けて「さあどうぞ」とエスコートした。
 
 きゃっ、とモデルさんが叫んで、足下を見た。
 モデルさんの足首に、巻き付くものがあった。
いや、巻き付いていたんじゃない。
 
赤いネイルを塗った、爪を伸ばした女の手が、モデルさんの足首を掴んでいた。
 
「いやあああ!」
 
 モデルさんは、必死にそれを振り払って、出て行ったんだって。
 
 チャンスも逃したし、あんな派手な爪の女は知らない。
 Sさんはそう言っていたけど、なんとなく、目が泳いでいた。
 
 モデルさんは、雑誌の仕事を辞めて、事務所も辞めて、実家に帰ったそうだよ。
 僕の話はこれでおしまい。