あるはずのものがない、ないはずのものがある。

 例えばクローゼットにしまったはずのネクタイが見当たらねえ、と思ったらなぜかサイドボードの引き出しにしまってあった、なんてのはよくある話だ。

 

 合歓のバッグから、血まみれの手袋が見つかって、ひと騒動になったことがあってな。

 俺は犯人を探し出そうと躍起になって、銃兎にも頼み込んで、サツの世話にもなったが見つからなかった。

 

 いや、見つけられないっていうほうが、正しいかもしれねえな。

 

 バッグから出てきた、手袋についていた血液は、鑑識の結果じゃありえねえほど古いもんだったそうだ。

およそ19世紀後半、つまり骨董品、博物館に展示されていてもおかしくない年代で、一般人のバッグから出てくるような代物に、付着しているような血液じゃねえとの話だったのさ。

 

 気味が悪いから、手袋はそのまま引き取ってもらって、バッグは俺が捨てたんだ。

 あれはどこで買った?と合歓に訊いたところ、フリマを見かけてそこで買ったそうだ。

 だが売っていた奴がどんな奴だったかは、つい最近だったのに、全く思いだせねえと悩んで、俺に何度も謝っていた。

 確かに古臭い上下そろいのスーツを着ていた、小柄な爺さんってことしか記憶になくて、顔も、バッグ以外に売っているものもおぼろげで、はっきりしないそうだ。

 

 こないだ、中華街を歩いていたら、あのバッグを持って歩いている女を見かけた。

 話しているだけでイラついてくるぜ、ちくしょう……。

 悪い、どうしても納得できねえんだ。

 百均で買った鋏で、俺がバラバラにして捨てたはずなんだよ、あのバッグは。

似たようなもんは確かに、あるかもしれねえよ?

 

けどさ、バッグの口からはみ出していやがったんだ。

 

血まみれの手袋が、ずるりと。

 

馬鹿にしていやがる、って話だ。愚痴になっちまったが、俺の話はこれで終わりだ。