小官はキャンプで野営して生活しているからか、どうやら、「境目に住む者」とのつながりが貴殿たちより深いかもしれないと、考えさせられる事がいくつかある。
先日、とても蒸し暑い夜のことだ。
MTCのメンバー、左馬刻も銃兎も忙しいので寄られないということでひとり、適当にパンでもかじって寝ようと軽い夕飯を食べていた。
森の奥で、ふわふわとゆるやかに、黄色く光るものが揺れている。
蚊柱、蚊が群がって飛んでいる場所をそう言うらしいが、蚊であれば光るはずがない。
水質は、こまめに調べているがさほど汚染されていないようなので、蛍だろうかと小官は目を凝らした。
すると、その揺れる光がだんだんと、人の形を成してきた。
発光する人体ならば、海外ドラマ等でも放送されたことはあるが、日本において江戸川某の小説でもあるまいし、と傍らに置いていた双眼鏡を手に取った。
夜間仕様であるからして、正体がつかめそうだとレンズを覗いた。
そこには、群になり飛び交う蛍の姿があった。
種類はわからないが、蛍は人の形を成して踊るように、森の木々の隙間をぬうようにして、こちらに近づいてきている。
見とれてしまう反面、なぜ蛍がそのような行動をとっているか気になった。
動きを観察しているうちに、小官は無意識に立ち上がり、森の奥へ、奥へと歩みをすすめてしまっていた。いけないと思いながら、足が止まらなかった。
正体を見たいというより、触れ合いたいという欲求が心に満ちていく。
蛍たちは形を成しながら、小官を手招きする少女のような姿へと変わった。
もう少しで、近づけると思った時だった。
ヒプノシスマイクが、バッテリー切れを告げるアラームを鳴らした。
途端に、蛍たちはいっせいに個々の小さな者たちへ戻り、一瞬明るい光が飛び散って、瞬く間に暗闇と、静寂が小官を包んだ。
ヒプノシスマイクの電源を切り、モバイルバッテリーにつないでから、懐中電灯で足元を照らし、ぎょっとした。
小官のいる場所、数歩先に、がらんとした深い穴が広がっていた。
そこからはすうすうと冷たい風が吹いてきて、二の腕がふつふつと粟立つのがわかった。
あれは、果たして本当に「蛍」だったのか。
いまだにわからないが、無事に貴殿たちと会えたこと、そしてヒプノシスマイクのおかげで危険を回避できたことに改めて感謝し、この話の結びとする。