二郎は怯えるし、三郎は眠れねえって悩み始めるから、弟たちが不安がる様子を見ていて、兄貴としてさすがに頭にきた。
どんな奴か知らねえが、俺の弟を困らせるとはいい度胸だって思って、どんなもんが出てもいいように軍手を二重にはめて、ひもをはずして、封をしていると思われる札も外して、木箱の蓋を開けた。
さあて、何が入っているんだと兄弟3人で中を覗き込んだ。
結果、その箱はもぬけの殻だった。なんも入っていねえし、何かが入っていたという感じもなかった。なんだよこれ、と拍子抜けしながらも内側にびっしりと、隙間なく貼られていた紙に気が付いた。
それは短冊、ほら七夕とかで願い事書くやつあんだろ?あれぐらいの大きさの紙に赤黒い文字で、こう書かれていたんだ。
……〇〇箱って。
さっき合歓ちゃんが来ていて、もし左馬刻と合歓ちゃんが交替するってなればこの話はしないで、他のネタにするつもりだった。漢字はあえて伏せておこうと決めた。ネットで調べりゃ、どんなものかすぐにわかると思う。
困るのは、木箱の始末だ。正直、事務所に置きっぱなしじゃ精神的にきつい。かといって、知り合いの住職やら神社やらかたっぱしから連絡とったんだが、「うちじゃとてもじゃないけれど、強すぎて引き取れない」って答えばかりだ。そうこうしているうちに時間すぎて、箱を引き取って2カ月ぐらいしたころだろうか、電話がかかってきたんだ。
紀尾井町にある、箱を引き取ったお屋敷からだ。
もし始末していなかったら、家のものをよこすので、木箱を返してほしいと。
俺は二つ返事で了解し、事務所に来てくれるように頼んだ。
夕刻、ゲリラ豪雨が降り出して外から激しい雨音が聞こえるころ、紀尾井町の屋敷で手伝いをしているという、若い男がやってきた。
痩せていて、みすぼらしくて、顔が青白く妙に怯えた感じがある男だった。
男は近くに車を待たせていると言い、早く箱をくださいと、骨ばった両手を差し出してきたから、二郎が渡してくれた。
箱が一瞬だけ、ごとりと動いた。
空っぽなはずなのに、何かがいるような、そんな動きで。
男は「ああ、入ったようだ」と安心したようにつぶやいた。
じゃあ、と箱を抱えて車に戻ろうとする男に、俺は「あのおばあさん、どうなったんです」と訊いたんだ。
男は「今朝、亡くなりました。だからここにお電話したんです」と答えた。
兄弟そろって驚いていると、男はにたにたして、こう続けてきやがったんだ。
ようやく、私の家になりましたよ。ようやく「私たちの」土地になりましたよ、と。
いま、その屋敷には特別な許可を得て、男は暮らしているらしい。
あのおばあさん、土地も屋敷も、自分のもんじゃなかったみてえだな。
ちなみに箱を返してからは、カラスや赤ん坊の声はなくなった。
以上、BBの山田兄弟連作怪談、これにて終わり。