Images DEAN - what2do (ft. Crush x Jeff Bernat)
雨に濡れた猫でも拾ったような顔で、理鶯さんは俺を見て「腹が減っているだろう?」と、ヘーゼル色の眼を向けて問いかける。
減ってると言えば減っているけれども、その眼に見つめられるほど、胸がぐわっと熱っぽくなり、満たされたように身体がふっと心地よくなる。
ぽたぽた、ぽたぽた。
雨音が理鶯さんのはっている、テントにあたって軽くはじけている。
ここに来るのは、いつも雨で素寒貧になった日だ。
なんだかそんな時は無性に、理鶯さんに会いたくなってしまう。時折、あのおっかねえ左馬刻と銃兎とかち合うときもあるが、「いいんじゃないか?お互い様だろう」と優しく迎えてくれる理鶯さんに対して、ふたりは何も言わないし、言えないみたいだ。
ほら、ちゃんと食え。
珍しく白飯にのりを巻いたおにぎりと、畑でとれたらしきパプリカの炒め物。
本当は、パプリカはにおいが嫌いで避けてしまうけれど、理鶯さんが出してくれたし、食べなきゃと箸をつける。
シンプルに塩と胡椒と、それからふわりと香るオリーブオイルとパセリの香り。
うまい。うまいうまいうまい。箸がとまらない。
うまい、と思わず言ったら、理鶯さんはにこにこした。料理をほめられることが、なによりもうれしい理鶯さんらしい反応だ。
何度も泊めてもらって、隣り合わせで寝ているのに、なんにもないっておかしくない?
脈なしか、それとも猫ぐらいにしか思っていないんじゃないでしょうかねえ。猫でも何度もくれば情がわくでしょうが、うーん。
乱数と幻太郎による言い分では、俺は一方的な片想いというものなようだ。楽しそうに話すふたりには、どうやらそれが蜜の味みたいにしみわたるみたいだけれど、俺にとっちゃ大問題だ。
今日はちゃんと、ここに来る前に実は銭湯で風呂入ってきたし、着替えてきたし、コンビニで売ってたボディスプレーみてえなもんを吹き付けてきた。
理鶯さんは、「やれ食えそれ食え」と飯をすすめてくるばかり。鈍感なのか、それともそれだけの扱いしかしないつもりか。わからない。
「……理鶯さん」
おにぎりと、パプリカの炒め物を平らげて俺は静かに、箸を置いた。
「どうした?最近番茶が好きで、よく飲むのだが帝統もどうだ?あたたまるからいいと思うぞ」
「そうじゃなくて」
そう、そうじゃなくて。
目の前で、理鶯さんが首をかしげる。
そんな顔しないで、頼むから。
困らせたくない。
よそよそしくなんか、なりたくない。
言ったらどうなる?
小官にどうしてほしいんだ?と、真剣に訊いてくるだろうか、それとも素寒貧だろうか。
「やっぱ、なんでもねえっす」
「どうした?珍しく歯切れが悪いな」
すい、と顔を近づけてこないで。
理鶯さん、だめだよ。
俺は、本当は、そう、本当は……。
「帝統、隠し事はよくないな」
「えっ?」
ぶわっと、耳が熱くなる。
「ピオニー、芥子の花のかおりがする。アメリカでも売れているボディーファンタジーの、ピオニーファンタジーかな?髪からも、かすかだが洗い髪のかおりがする。こっちはグリーン系だ、心地よい緑のにおいかな?小官は鼻がいいんだ、どこかで風呂に入ったのか?銭湯なら……」
「やめて、理鶯さん」
分厚い胸板に、両手をあてて引き離す。目の前で、理鶯さんが困った顔をする。やめろよ、そんな顔しないでよ、理鶯さん。
「今日はおかしいな、帝統、具合が悪いのか?」
「具合が悪かったら、完食しないっすよ。すげえな理鶯さん、全部あたり。俺今日ここに来る前に風呂入ったんすよ、だから髪の毛も洗って、あーすっきりしたと思ったら雨だし素寒貧だし、そんな感じっすね?」
心が、ずきずきしながら俺は平静を保つように、いつも通りのギャンブラーで、適当な自分を演じた。
そいつは災難だなあ、と理鶯さんはまた、優しそうに微笑んだ。
「でも、ここに来てくれて嬉しい。小官は帝統と過ごす時間が楽しみだ。ちなみに、左馬刻や銃兎、合歓にも言ったことがない。だから、ふたりの秘密だ」
「そ、そうなんすか?」
「小官は、嘘がへたくそだ。帝統とそこも、お揃いかもしれない。情けないだろう?軍人だというのに、腹芸ひとつできない。銃兎や幻太郎がうらやましくなる時だってある」
「いやいやいや、理鶯さんはそのままで全然オッケーすよ!俺ぜってー秘密にしますから!」
そうか、と理鶯さんはほっとしたように深く、息を吐き出した。
「本当は、もうひとつ秘密にしていることがあってな、これは小官も、秘めておこうかどうしようかと、迷っていることなんだ」
「なんすかもう、理鶯さんらしくないなー。この際ぶっちゃけましょうよ、ね?」
ねえ、それって、どんな内容ですか?
理鶯さん、早く言ってよ。
ああ、笑顔作るの、まじ辛いや。
「実は小官、おにぎりを作るのは初めてなんだ」
「……え?」
「帝統が来たから、米を炊こうと思って、炊けたがJapanese Traditional Styleとは何かと推敲した結果、帝統に毒味みたいなことをさせてしまい……申し訳ない!」
「ねえ理鶯さん、秘密ってそれ?」
そう、という顔をして理鶯さんはうなずいた。
「おいいいいいいいいい!」
「す、すまん本当にすまん!」
「おいしかったからいいですけどおおお!これ以上自分をもてあそぶようなことしないで下せえよ!だーれがどうでもいい奴んとこに転がり込む前に、銭湯行って頭洗ってボディースプレーとかつけますかあああ?おめえの眼は節穴か?ああああ?場合によっちゃあ相手取りますよあああ?」
「だ、帝統?」
「え?まだなにかあるんすか?」
「節穴じゃないと思う……ちゃんと眼球もあるし、義眼でもない。あと、どうでもいい奴なら米も炊かないうえに、ここにも招かないが」
俺は一瞬固まって、自分がついマジ切れして言ったことの数々を思い出し、後悔とか恥ずかしいとかいろんなもんにどぼんと沈んだ。
「節穴だったら、小官は……帝統を見つけられない。そこまで、優秀な軍人でもない」
「え。あ、はい……」
「あと頬に、米粒がついている」
「へ?どっち?」
嘘だ、と言って理鶯さんが俺の頬にキスをした。
理鶯さん、顔が真っ赤だ。
初めて、なんて可愛い人だろうと思った。
ああ、今日は秘密だらけだ。
「小官はこの通り鈍感だから、気づいてやれなくて、すまなかった」
「いやいやいや、あの勝手に好きになったのは俺のほうですしって、ああああ何言ってんだあああ?」
「今、秘密がもうひとつできたが、これだけは互いの胸に秘めていてほしい。約束だ」
うん、と俺がうなずいて理鶯さんを見上げると、そっと理鶯さんは耳に顔を近づけてきた。
小官も、帝統が大好きだ。
腹だけは満たす、約束する。
「……理鶯さん、まじ嬉しい」
「二人きりのときは、ダイって呼んでもいいか?あと、理鶯さんはナシだ。呼び捨てでいい」
「うん、り、理鶯」
「よし、ダイ、いい子だ」
ヘーゼル色の眼に、自分がうつった。
ふにゃふにゃになって、嬉しくて仕方ない顔の。
「雨やまないっすね。理鶯」
「雨はいつも、ダイを連れてくる。だから小官は、雨の日が好きだ」
「やだロマンチック」
「それぐらい、好きな相手の前では言うだろう」
いつの間にか、繋がれた手が温かい。
雨はやまない。
やまなくてもいいか、と俺は思った。
ふたりに、秘密が増えていくなら。