だまして、だまされた人間の成れの果てということならば、小生にも心当たりがございます。
とはいえ、今はかなり、かすかなものとなってしまいましたが……。
小生が嘘つきだからでしょうか、いつもつきまとう、人物がおりまして。ああもちろん、小生以外には見えないので、なかなかやりづらい部分ではありますね。
年のころは中年、もうそろそろ齢50に届きそうな、男の方でございます。
その方は、いつも小生に向かい、こうおっしゃいます。
「嘘をつくと、魂だけになったとき地獄に連れて行かれ、鬼に舌を抜かれるんだよ。ほうら、おじさんの舌はないだろう」
男性は、口をぱかっと開けて、小生に見せてくれます。舌がなく、引きちぎれた肉の繊維がちらちらと、見えるのです。
それどころか、歯もございません。ああ、全部抜けたか、抜かれてしまったのかと思いました。
男性は、こうも言っていました。
「おじさんの舌はねえ、引き抜かれてすぐ、鬼が喰ってしまったんだ、目の前でうまいうまい、嘘つきの舌は厚みがあって旨いってねえ。だから気を付けるんだよお、嘘はいけないことだからねえ」
幼い頃から、男性は小生がひとりで過ごしていると、しばしば壁からぬるりと這い出して、面白おかしく話をしてくれました。
目も、耳も鼻もない顔で。
「おじさんはねえ、いろいろな人を騙してきたからね。もう悪事をしないよう、こうやってぜんぶ、うばわれたのさ」
にたにたと嗤うので、それはそれは不気味でしたよ。
しらないふり、聞こえないふりをするのが大変でした。
今は時々、風呂場の鏡から、ずるずる這い出してくるぐらいです。
乱数、帝統、そんなに怯えないでください。
小生がいる時にしか、姿を現しませんから。
いまではほとんど、目、鼻、口の穴しか見えませんけどね。
さて、嘘でしょうか?まことでしょうか?
現世は夢、夜の夢こそまことと申します。皆さまも、お気をつけて。
小生の話は、これでお開きにございます。