外回りをあらかた終えて、たまにはいいだろうと自分にごほうびしようと思った時でした。
外は真夏日通り越して猛暑日、スーツで歩き回るにはとてもじゃないけれど、世界中が憎らしくなるほど暑すぎました。
どこか涼める場所はないかと路地に入り込んだりしていたら、古いけれども、なんとなく落ち着きある、喫茶店を見つけました。ここなら上司にも見つからないだろうと、我ながら名案とうれしくなりつつ、ドアを開けました。
弱冷房なのかな、と思うほど生ぬるい店内で、一瞬興ざめしました。
いらっしゃい、としわがれた声がして、ああ営業中なんだなとはっとするほど、客もいません。
ただ、カウンターに、でかい茶虎の猫が一匹ごろりと寝そべっているだけです。
「おいお前、まさかお前がマスターとかじゃないだろうね?」
話しかけると、まるで馬鹿にするように、くわあとあくびをされました。
カウンターにあるメニュースタンドを見ましたが、何を書いてあるかわからない。知らない文字が、連なるばかりでした。
客もいないし、メニューも妙だしで、長居は無用と思った俺は、黙ってドアを開けて、店を出ようとしました。
またのお越しを、という声を背中に聞きました。
若い女の、さわやかな声でした。
振り向くと、やはり誰もおらず、茶虎のかわりに、三毛の子猫が、カウンターで寝そべっていました。
後日、仕事の合間に同じ場所へ行きましたが、店はありませんでした。
かわりに、三毛の子猫がやや大きくなって、足下でにゃあと呼びかけてきました。
あれは、猫の喫茶店なんでしょうか?
これが本当の猫カフェですね。
俺の話はこれで、おしまいです。