雨が嫌いだ。
雨が嫌いだ。
雨になると、胸が苦しくなるから。

しとしと、しとしと、ポツポツ。
雨音が憎らしくて、待ち遠しくて、簡易ベッドへ仰向けに寝転がる。

昨晩も、そうだ。
この前も。
ああ、だいぶ前の時も。

時折目が合う、熱っぽい視線に気づく。
逸らすように心がけて、やり過ごす。

ためらいなく、呼び掛けられる。
わざと低い声で、冷静に応じる。

首にさげた鑑札を整えるふりをして、火照っていないか確かめる。

雨が嫌いになったり、好きになったりする。

ざわざわと、頭の中が落ち着かない。

ずぶ濡れになって、笑ってごまかして、頼る姿に胸がいたくなる。

貸した着替えを、洗うことがもったいないと思ってしまう。

後ろ髪に指をからませ、唇で触れたくなって、うつむく。


狭苦しい、テントの柔い天井を見上げ、ため息を吐き出す。

情けないと、自己嫌悪に陥る。


ああ、これは治らないと微かに嘆く。

銃兎が蛇蝎のごとく嫌う、薬物も効かないだろう。

左馬刻が吸っている、煙草も効かないだろう。


こっそりとひとりで、銃兎が契約を手伝ってくれたスマホを見る。

画像投稿アプリから、新着の通知。

タップすると同時に、心臓が破れそうに、動悸を高鳴らせ、飛び起きる。

蒸し暑い、都会の風に吹かれる、深緑をした後ろ髪。
首筋は、じんわりと汗がにじんでいる。
撮影したのは本人ではなく、調子がよくて本心が掴めない、桃色の髪をした、小柄な男。

ねえ、理鶯って好きでしょ。
誰とは言わないけど。

ニヤニヤしながら言ってきたそいつを、左馬刻が煙を吹き掛けて、追い払ってくれたおかげで、密かにほっとした。

触れたい。
画面越しに、触れてもぬくもりなどない首筋、柔い感触もない髪の毛、悩ませるそれらが憎らしくて、愛しい。

……鶯さん。
……理鶯さん、理鶯さん。

ぱたぱた、ぴしゃぴしゃ。
雨に濡れたテントの、入り口をノックする、湿度を含む音。

起き上がったまま、固まって声が出せない。

もしいま、中に招き入れたら。

果たして、平常心でいられるだろうか。

あれ?いねえのかな?
ひとりごちる声、名前を呼ぶ声。

ざりっと、足音が引き返す。



……帝統。



憎らしくて、愛しい相手の名を呼ぶ。

あわてて入り口のファスナーを開けて、雨に濡れた声の主を見上げる。

まーたやっちゃった、理鶯さん寝てたんすか?珍しいっすね。

笑いながら、髪を濡らしている相手は、熱っぽい眼差しで自分を見下ろす。

触れたかった、自分のものにしたくて、堪らなかった。

……理鶯さん?

腕の中で溶けそうに、肩の力を抜く帝統に、言葉が見つからなくなった。

くすぐったいよ、理鶯さん。
ねえ、理鶯さん。

勘違いしないでって、言ってくれたら良かったのに。

君はいつも、突然だ。

……理鶯さん。
……ねえ、理鶯さん。

好きだ。
好きだよ。

この賭けは、どっちの勝ちだろう?

見上げる眼差しと、嬉しそうに頬笑む顔に、どうでもよくなった。



好きでしょ。

好きだ。悪いか。

今度会うときは、あの食えない男にはそう返してやろう。


くだらなくて、大事なことだ。

熱を帯びる耳に、首筋に、嬉しさと一抹の悔しさを覚えた。

理鶯さん、どうしたの?
ねえ理鶯さん、俺腹ペコなんだ。

能天気な恋人に、翻弄されながら、その唇にキスをした。

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