申し訳ないけれど、化粧室にある鏡を処分してほしいと、ある物流会社の事務所から、依頼が入った。
もう外してあるからと言われていたし、二郎も三郎も学校だったから、俺ひとりで行ったんだ。
けっこう立派な鏡でな、そうだなあ……中王区にあるバトルステージの楽屋にある大きさぐらいかな?
大きいヒビが入っていて、ああこれじゃあ使い物になりませんよねえって、窓口になっていた社員さん、仮にIさんとしよう、その人に言った。
すると「山田さんには、お話ししても、差し支えないでしょうから」とぽつぽつ、切り出してくれたんだ。
Iさんが残業を終えて、帰宅する前に用を足しておこうと、化粧室に入った。
洗面台で手を洗い、顔をあげて鏡を見たときにぎょっとした。
鏡の中にいる自分は、まだ、うつむいて、手を洗っていたそうだ。
きゃっ、とIさんが叫んだ。
鏡の中にいる自分が、ゆっくりと顔を上げた。
同時に、ぴしぴしぴしっと、鏡にヒビが入ったそうだ。
耳元で「うふふふふ」と、誰とも知らない、女の笑い声がした。
Iさんは慌てて帰り、うちに鏡の処分を依頼したそうだ。
いたずらみてえなもんなのかな?
俺が知っている鏡の話は、これで終わりだ。