医師会の会合を終えて、髪の毛がやけにタバコ臭く感じたので、ひと風呂浴びたいと思い、帰り道にある銭湯へふらりと、足を運んだときのこと。
入浴料金と洗髪料金、その他タオルなどの備品も買いそろえたが、まだ売っていたのかと懐かしくなるような、ずいぶんと昔からあるシャンプーの小瓶だった。
まあいいと思い脱衣所で服を脱いで浴場へ行き、髪と身体を洗いタイルばりの湯舟につかった。
都内は比較的湯の温度が高い銭湯が多いと思うのだが、妙に生ぬるくぬめぬめとしており、せっかく汗を流した身体がまた汚れると思い、すぐにあがるともう一度身体を洗い、浴場を出た。
「おい、おまえ」
後ろから、呼びかけられた気がして振り向いた。
湯船から、おびただしい数の、灰色をした手が、ずるずると外に向かって伸びていた。
あの中に入っていたかと思うと、吐き気がせりあがり、私は早々に退散した。
その後、件の銭湯はどうなったか、怖い者見たさに近所をおとずれたが、そこにはかつて銭湯であったと思われる廃墟が、静かに朽ちているだけだった。
この話は、これで終わりです。