駐車場で物の怪じみた何かを見た、後日談になるんだが……。
 雰囲気が合わないということで、退職した研修医にはあまり、よろしくない噂があることがわかったんだ。
 
 医大に通っている頃から、どうやら複数の女性と並行して付き合っていたらしく、なかには金銭を巻き上げられたり、子どもができたと告げたら音信不通にされたという話をナースから、ちらほらと聞いた。
 
 まあ、話というものは常に尾ひれがつくうえに、噂など嘘か本当か真相がわからないことがほとんどなゆえ、気にしないでいた。自分まで噂に加わって、「神宮寺先生があんなことを言っていた」などと広められても、困るからね。
 
 その後、しばらくして噂の的であった元研修医が入院していると知らされた。どうしても、神宮寺先生に会いたいと言っていたから、時間を作ってお見舞いに来てくれないかという依頼もあった。
 入院先は、学会で顔見知り程度ではあるが、シンジュクでイベントをすれば良く来てくれる、Rという外科医だった。もともとはNPO等で紛争地へ赴き、医療活動を主にしている奴なんだが、腕が良く、不定期で難しい外科手術をするために帰国するときがある。
 
 Rにつれられて、彼が現在勤務している病院へ行った。自分は外科手術でできることは全て、施したいとは思っているが今回は私の力を借りたいという。
 
 どういうことかと訊けば、見ればわかるよと答えられた。
 病室は個室で、元研修医はベッドで仰向けに寝転がっていて、私の姿を見ると泣きそうな顔をし「助けてください」と、か細い声で懇願した。
 
 Rが彼を起こしてやり、「全身に広まっているが、腕を見て確かめてくれるか?」と寝間着の腕をめくり、私に見せた。
 
 そこにはケロイドのように膨らみ、赤くなった傷が無数に出来ていて、そのすべてがもぞもぞとうごめいていた。
 
 まるで、赤い目と口をした女性の顔が、睨んでいるように見えた。
 
 何度縫合しても、いくら抗生物質や化膿止めを塗布しても治らない。
 かさぶたになっても、すぐに開いて、広がっていってしまう。
 
 微熱も続いていて、抵抗力はだんだんと弱くなっている。
 
 神宮寺が持つマイクで、どうにかならないか。
 
 Rは、すがるように私を見た。
 
 私はRをつれて病室を出ると、元研修医に関する話をすべて打ち明けた。
 そして、「もし自分が対処したとしても、いたちごっこに変わりはないだろう」と告げた。
 
 Rは「わかった」と答えて、病室へ戻っていった。
 
 数日後、元研修医が亡くなったと伝えられた。許してくれ、やめてくれと言いながら、女性の名前を次々と、うわごとで言っていたようだ。
 親族から了承を得て解剖したところ、内臓や骨にも、同じように、女性の顔が睨むような傷が、たくさんついていたとRが教えてくれた。
 
 嘘ではない証拠として、Rは医局から私にあてて、メールに添付して送ってくれたが、ここで見せるには、医師としてはばかられる。申し訳ない。
 
 私の「実」に関する話は、これで以上だ。