つい最近、身の回りで起きた話です。
 クライアントは相変わらず無茶ぶりをしてきて、できないと断ればいいものを、上司は利益になるから引き受けろと無茶を言って、絶望しました。
 どうしても朝一に確認したいから、夜を徹して対応してくれと、半ば脅し気味に言われ、仕方なくうなずく自分にも嫌気がさすんですが……。
 必死でやってる俺の前で、同僚は一人、また一人と帰っていくし、上司は定時で席を片付けて、鞄を持ってそのまま姿を消すし、俺も消えようかなって栄養ドリンク飲みながら、暗い部屋でひとり仕事しました。
 まあどうにか、見せられる程度にはやり終えることができました。
上司が納得してくれるかどうか、クライアントが首を縦に振ってくれるかどうかなんかより、もうどうにでもなれ、と諦め半分でパソコンの電源を落として、ファミレスにでも行こうと会社を出ました。
 会社を出てすぐのところに、24時間営業の店があるんです。
 入ると「いらっしゃいませ、何名様ですか?」と店員が、アニメのヒロインみたいな甘ったるい、かわいらしい声を出して、呼びかけてきました。
 
 あ、一人ですと言おうとして、息が止まりました。
 
 店員は毒々しい、複眼を持つ、蛾の頭をしていたんです。
ふわふわと、ハタキみたいな触覚が揺れていて……。
 
 複眼には、疲れ切った自分の顔がいくつも、いくつもうつっていました。
 
 店内を見渡すと、オオカミの頭をした女、魚の頭をした老人、芋虫の頭をして走り回る子どもたちがいました。
 
 気持ち悪い、失せろ。なんなんだよ。
 仕事で疲れているのに、目の前にはこんな奴しかいない。
 俺はいったい、なんのために生きているんだ。
 
 いろんな思いが入り混ざって、はあ、と大きなため息をつきました。
すると喉に、なにかが詰まる感じがあって咳き込んだんです。
 ぎゃひひ、ぎゃぎゃぎゃ。
 ずるり、と口元になにかが滑り落ちる感触と、濁った低い笑い声が聞こえてきました。
 
 黒い、ネズミのような生き物が床の上で、ばたばたと暴れていました。
顔中に赤い眼があり、足が6本生えていました。
そいつはじわっと、床に染みこむように、俺の足下で消えていきました。
 
「あの、お客さま?」
 問いかけた店員は普通の、若い女性の顔になっていました。
 
 腹は減っていたので、パンケーキを食べてコーヒーを飲んで会社へ戻り、上司の出勤を待ちました。
 クライアントは納得したようで、仕事は大丈夫でした。
 あんなものを見たってことは、きっと疲れていたからだ。
 そう思うようにしていますが、早朝のファミレスにはもう、足が遠のきそうですね。
 
 これで終わりです。お疲れ様でした。