小生がソロ曲「シナリオライアー」にて歌っていた、北国の老夫婦と過ごしていた頃の話を、させていただきます。
雪深い山奥は、道を覚えていないといけません。雪は辺り一面を柔く冷たい、白銀の世界へと変えてしまいます。それはまるで、綿帽子みたいに清く、足跡がついていない場所を子ども達は、こぞって手のひらをおしつけたり、足ぶみをしたりして、楽しみました。もちろん、知っている道を選んで。
一方で、雪は恐いと、皆さんは聞いたことがありますか?シブヤ、イケブクロ、ヨコハマ、シンジュク、残念ながら一面が降り積もる雪により、道がわからなくなるということはありません。
せいぜい、雪になれていない足下が滑ったり、車がいつもよりもゆっくりと走行する、危うい風景が広がるだけです。
先ほど、小生は「雪深い山奥は、道を覚えていないといけない」と、申し上げましたが、そこがまさに、雪が恐いという理由なのです。
雪は全てを覆い尽くします。柔らかく静かに、そして冷たく。
どんなものにでも、どんな場所にでも分け隔てはありません。
たとえばあぜ道、用水路、畑、本来あるべき姿が見えていれば、足を踏み入れない、子どもが入ってはいけない、危険な場所にも。
いえ、子どもだけではありません。
大人だって、危ないことに、変わりありませんから。
乱数くんに倣って、ここからが本題です。
雪深い季節が終わり、緑あざやかな若芽が顔を出し始めた頃、小生が暮らしていた山奥でちょっとした、騒ぎがあったのです。
冬が来る前に引っ越してきた、若い人たちがこぞって、行方不明になってしまうということがありました。山に自生する山菜を採って、売ろうという魂胆だったうようです。
乱獲すれば、山が怒る。老夫婦や集落に住んでいる者たちはそう言って、彼らをとめました。
しかし、恐さを知らずにやってきた彼らはそれを受け入れてはくれず、まるで突き飛ばすように老夫婦を追いやり、山に入ったのです。
道が分からないまま、携帯を片手に、薄着と軽い荷物だけで。
小生も、子どもながら嫌な予感がしました。
山の天気はめまぐるしく変わりますから、晴れているからと油断していれば、たちまち大粒の雨に見舞われたり、雪に降られて足をすくわれたりします。
案の定、彼らは、日が落ちても、戻ってきませんでした。
大人たちは、もちろん老夫婦も含めて彼らを案じました。
しかし、暗い中探しに出るということも、また危険です。山奥には夜にだけ動き回る、鋭い牙や強い毒を持つ獣はたくさんいますから。木乃伊取りが木乃伊になるということも、ないとは言えません。
そこで、空が白みはじめたころ、大人たちは準備をし、熟知している山道を通って、探しに行きました。
見つかった、という知らせが入ったのはそれから、昼過ぎのこと。
小生も老夫婦に連れられ、知っている道を歩きながら、見つかったという場所へ行きました。集落からさほど遠くない、太い杉の木が悠々と枝葉を広げている場所でした。
若者たちは、杉の木に、蔓草でぎゅっときつく、縛られていたのです。
彼らの身体には、おびただしい数の若芽が生えていました。まるで、彼らを養分にして、発芽しているように。
幻太郎、あれは、山にいる神様に粗相した罰じゃよ。
老夫婦が、優しくさとしてくれました。
彼らはなにかにおびえ、おののくような表情をうかべて事切れていました。子どもに見せるのはどうかという声もあったようですが、教えるためだと老夫婦は、連れて行ったそうです。
人の道も、雪道も、踏み外してはいけないという話でした。
まあ、嘘だけどね。
小生の話は、これで終わりです。