ヒプノシスマイク百物語草稿2

 飴村 乱数「円山町のお姉さん」

 

 じゃあ、僕は自分が見たものについて、話をします。

 シブヤディビジョンって、ダイスも話してくれたけれど、けっこう「出る」って噂がある場所が多いみたい。僕も実は、二人には秘密だったんだけど、一度だけ見に行ったことがあるんだ。

 

 シブヤでも、センター街や109の近くは夜まで明るいし、賑やかだし、いろんな音楽が流れているから寂しくないんだよね。

 けど、光があれば闇もある。いや、僕には暗闇の闇というより、病気の「病み」が詰まった場所かなって思うところだった。

 

 場所の名前は、円山町。もちろん、シブヤディビジョンだよ。

 

 そこには夜のお店で働くお姉さんもいるし、お店にはいないけど、外で声をかけて、お仕事をもらうお姉さんもいるんだ。

泊まるところも、駅から見えるけれど、たくさんあるからね。

 

 で、円山町なんだけど、僕が生まれる前になるかな?お姉さんがひとり、アパートの部屋で殺されて亡くなったんだって。

昼はすごくいい会社に勤めて、ばりばり仕事して、そこのお給料だけでじゅうぶん生活できるんだけど、なぜか、夜は円山町に来て、男に声をかけて、夜の相手をする仕事をしていたみたい。

 アパートは、お姉さんが男を連れて行く部屋だった。そこでどんな事をしていたかは、いくら鈍感な寂雷だって想像つくでしょ?ふん。

 

 昼は仕事ができるお姉さん、役職だってあったみたいだし、とてもじゃないけれど夜に円山町の道にぽつんと立って、男に声をかけてアパートに連れて行くような仕事とか、縁遠い感じじゃん?

 

 お姉さん、どうして別の顔を持っていたのか、未だにわからないみたい。

 

 では、ここで本題。

 

 ある日、よくご飯行ったりするお姉さんたちと、肝試しだっていう流れでアパートを見に行ったんだ。僕はコワいのあんまり得意じゃないけど、空気読んで仕方なくついていった、というほうが正しいかな?

 冷やかし半分で、みんなでワイワイ騒ぎながら、なんとか目的地のアパートにたどり着いた。

 とても古いアパートで、今にも倒れそうだったなあ。

 そうそう、地下にある、居酒屋さんかな?その看板がある以外、なにもなかった。お店も、たまたま休みで真っ暗だったから、余計に雰囲気があったよ。

 

 で、部屋は、お店の入口がある、その奥。

 狭そうだなあって、なんでお姉さんが、ここで仕事をはじめたのか、いろいろ考えちゃった。

 誰かが住んでいる感じもなかったし、お姉さんたちも「なんだ、誰もいないねえ」なんて、のんきに言いはじめた。

 

 そう、お姉さんたちだけはね。

 

 僕は、じゃあねって駅でわかれる時まで黙ってた。

 ていうか、帝統と幻太郎にも言ってなかったよね。

 

 お姉さんたちは、知らないまま帰って行った。

 

 でも、僕は二度とあそこへ行きたくないと思った。

 

 ねえ、寂雷、なんでかわかる?

 

 お姉さん……まだ、いたんだ。

 仕事をしていた、古い古い、アパートの部屋に。

 目の前でゆっくりと、ドアが開いたんだ。

 

 隙間から、お姉さんが立っているのが見えた。

 赤い、ぼろぼろになったスリップドレスを着て、僕を見ていた。

 

 目が合うと、僕に向かって、にっこり笑って、手招きをしてくれた。

 やせていて、折れそうな手足だったなあ。

 ねえ、もし僕がふらふら誘われて、部屋に入っていたら、どうなったのかな?

 

 乱数の話はこれで、終わりです。