どろどろと生ぬるい海で、沈む夢を見る。まぶたが重く、夢だとわかっていたけれどなかなか、目をさます気になれない。
スマートフォンに設定したアラームが、けたたましい電子音をたてている。指が動かない、というか動きたくない。
生ぬるく粘度が強いのに、海は私にとってとても心地よく、身体の奥からじわじわと海水に同化してしまいそうな気分になってくる。
おぼれる一歩手前、いや、すでにおぼれているだろうが、陸地を踏めずとも構わないという気になっていた。
「起きて、起きて下さい」
二、三度身体を揺さぶられ、ようやく目をさました。
心配そうに眉間へしわをよせ、私を見下ろしている妻の姿があった。
「ああよかった、あなたが消えてしまうのではないかとたまりませんでした」
「消える?」
寝間着も髪も、ぐっしょりと濡れている。
においからして、雨水や寝汗ではなかった。
「眠っているあなたの身体から、じわじわと水がしみ出てきたのです。ひどい汗かと思ってタオルでぬぐったら、海のにおいがしました」
私はそっと、寝間着の袖を鼻先へ近づけた。妻が言うとおり、砂浜にかおる、うしおのそれである。
「海がないところに生まれ育って、あなたはずっと、海から近い場所に住みたいとおっしゃっていましたわね。でも、私はなんだか、あなたが海に奪われるような気がして、落ち着かないのですよ」
「すまない、心配をかけてしまったね。君を置いて、私はどこにもいかない。約束しよう」
週末は、海のそばにあるレストランへ食事をする予定をしていたが、どうやら私はその予定を、キャンセルしたほうがいいらしい。
ほっとした顔で、妻は私を見ていた。
双眸は潤んでおり、私は改めて、申し訳ないと感じていた。

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